今年のグランドセイコーは、大きく3つのコレクションを加えた。ひとつは、昨年発表した女性用自動巻きのSSケース版、もうひとつは新しいデザインを与えられたグランドセイコーのスプリングドライブクロノグラフ、そして最後が、エレガンスコレクションに加わった、手巻きのスプリングドライブ搭載機である。
この手巻きモデルにはSSと18Kゴールド、そしてPtケースがある。前者ふたつは匠工房製、後者はマイクロアーティスト工房製である。前者も素晴らしいと思ったが、個人的に推したいのは後者だ。ダブルバレルの採用によりパワーリザーブが約84時間に延びただけでなく、仕上げもさらに良くなった。正直、ムーブメントの仕上げで言えば、これに肩を並べる量産機はそうそうないだろう。
「仕上げ」について書きたい。セイコーはクレドールの「叡智」で、スイスの独立時計師並みの仕上げに取り組んだ。確かにそれはよく出来ていたが、今見ると習作感は否めない。面取りには入り角も出角もあったが、スイスの高級時計がやっている要素を、全部盛り込んで見せた、という感が強かったのだ。
技術面で、明らかに海外に比肩したのは、「叡智II」からである。明確な入り角や出角は省かれたが、面取りは深くなり、しかも箇所による面のばらつきがなくなった。分かりやすさがなくなった半面、仕上げとしてはさらに良くなったわけである。筆者が叡智IIを絶賛してきた一因である。金銭的な余裕があれば、叡智IIはぜひ手にしたいと思う。
で、今回のスプリングドライブ搭載機。仕上げに関していうと、叡智IIで得た仕上げのノウハウを、叡智の入り組んだ意匠に収斂させた、と言えるだろう。しかも、見た限りで言うと、面取りはいっそう深くなっている。独立時計師の牧原太造氏並みとは言わないが、一般的な独立時計師や、ハイエンドな高級時計に比肩するどころか、なお良い。
外装の仕上げにも触れたい。一番ハイエンドなモデルは、ケースも槌目仕上げで、ロゴなども彫られている。手彫りではなく機械彫りとのことだが、切削痕がまったく見当たらない点、ちょっと類を見ない。正直、大多数の手彫りよりも、出来がいいのではないか。拡大鏡で見ても、まったくあらは見られなかった。
価格は正直安くないが、日本の時計がここまで来た、というのは個人的には感慨深い。日本の時計のフラッグシップと言うべき、グランドセイコー エレガンスコレクションのスプリングドライブ搭載機。その詳細は、webChronosや本誌で触れる予定である。(広田雅将)
セイコーの新作情報
https://www.webchronos.net/baselworld2019/29048/