フランスの時計ブランド、ペキニエが2023年5月から発売をスタートさせた「アティテュード」の着用レビューを行う。見栄えよく、機能性にも富み、さらに誠実な価格設定が与えられた本作はメンズ向けドレスウォッチだが、女性の腕にも快適に収まるジェンダーレスウォッチであった。
Text and Photographs by Chieko Tsuruoka
[2023年9月5日公開記事]
デイリーユースなMade in Franceのドレスウォッチ。ペキニエ「アティテュード」/インプレッション
ペキニエは1973年に創業した、フランス・ジュラ地方のモルトーを拠点とする時計ブランドだ。日本での知名度は、高くない。しかし、時計愛好家からの評価は高い。2011年には自社製ムーブメント「カリブルロワイヤル」のリリースを皮切りに、フレンチマニュファクチュールを開花させた。現在ペキニエはフランス政府からフランス無形文化財企業(EPV)に認可されている。文字盤の「FABRIQUE EN FRANCE(フランス製)」の印字からは、ペキニエの「フランス唯一のマニュファクチュール」としての矜持を感じる。
ペキニエが最初に作ったカリブルロワイヤルはスモールセコンド、高精度ムーンフェイズ、パワーリザーブインジケーター、そしてフラット3ディスク・ジャンピングデイデイトカレンダーを備えたコンプリケーションだ。ちなみにフラット3ディスク・ジャンピングデイデイトカレンダーは、段差のない、隣接した3枚ディスクで構成されている。このカレンダー機構は深夜0時(±5分は許容)、瞬時に切り替えが行われ、さらに日付・曜日ともにリューズ操作のみで調整可能、おまけにカレンダー操作禁止時間帯を持たないという、先進的なムーブメントだ。カリブルロワイヤルから10年後の21年にはベーシックな3針自動巻きムーブメント「カリブルイニシャル」を登場させ、より幅広いターゲット層へと訴求の手を進めた。
今回レビューするのは、このカリブル イニシャルを搭載して登場した「アティテュード(ATTITUDE)」だ。
フランス時計産業の発展、そして拡大を目指す意志から、「姿勢」を意味するアティテュードと名付けられた本作は、エレガントとメカニカルの融合、そしてデイリーユースがコンセプトとなったドレスウォッチだ。
意匠はミニマムと言って良い。しかし実機を手に取って、着用してみると、こだわりは決してミニマムではないことがわかる。
派手な広告戦略を行わず、「知っている人は知っている、上質な時計の作り手」として、時計市場でのポジショニングを成功させてきたペキニエの姿勢を体現するかのようなアティテュードを、詳しく解説する。
エレガントでドレッシーなスタイル
ペキニエのアティテュードを見て、直感的に「良いな」と思った。
ケース直径39mm、厚さ9.05mmとメンズとしては上品なサイズである一方で、ドレスウォッチとして「きわめて薄い」というわけではない。しかし、デイリーユースのコンセプトにふさわしく50m防水を備えていること。またケース全体に立体感が与えられ、腕元で存在が際立つことから、ちょうどよい厚みだと感じた。もちろんジャケットの袖口には収まるサイズだし、スポーツウォッチが主流の昨今ではエレガントなスタイルとなっている。
ケースはポリッシュに仕上げられており、絞られたベゼルやミニマムな文字盤によって、ドレッシーな印象が強まる。
さらに、サンレイ仕上げのチャコールグレー文字盤が、エレガンスにモダンなアクセントを加えているのも良い。アティテュードのステンレススティール製モデルは本作の他、ホワイトオパーリン文字盤、ローマンインデックスとブルースティール針を備えたシルバー文字盤のモデルがラインナップされているが、グレーというフォーマルすぎないカラーは、さまざまな装いに合わせやすいだろう。
針やインデックスの大きさはよく考えられており、ドレッシーなスタイルを崩さず、優れた視認性も両立している。夜光は塗布されていない。また日差しなどの強い光源下では光が反射して、やや視認性が低下した。もっとも、屋内での使用を想定したドレスウォッチであれば、問題ではないだろう。ブルースティール針にローマンインデックスを組み合わせたモデルなら、この反射は防げるように思う。
シースルーバックからのぞくムーブメントもエレガントだ。
先述の通り、2021年にアティテュードとともに登場したカリブル イニシャル(Cal.EPM03)は、特徴的なローターを備えている。このタングステン・ローターは、ヴェルサイユ宮殿の噴水「フォンテーヌ」と、フランス王家の紋章(リース)のモチーフがあしらわれた。ブリッジの、テンプから放射状に広がったコート・ド・ジュネーブ装飾と併せて、表裏でエレガントなスタイルを味わえる。
軽快な装着感はジェンダーの垣根を超える
前提として、筆者は女性である。普段愛用している時計はケース直径32mm~38mmが多いため、メンズモデルには慣れている。しかしケース直径39mmのペキニエは、数字だけ見ると決して小さくはない。また腕のサイズは14.7cmだが、ストラップの最も内側の穴にバックルを通しても、やや緩かった。
それでもなお、装着感は良好だったことに驚かされた。もちろん厚みがなく、軽量だからということも大きいだろう。どうしても肉厚で重量が大きい時計は「腕に何かが乗っている」感覚が強くなる。しかしペキニエのアティテュードは、筆者にとってはやや大きくストラップが緩いにもかかわらず、装着時の違和感が非常に少ないのだ。装着感が快適なのは、ラグが短く、全長47mm程度に収まっているためだろう。重量は65gと、軽さも優れた装着感に寄与している。今回はインプレッションだったのでかなわなかったが、自分の腕周りに合ったショートサイズのストラップに付け替えれば、さらに快適な着け心地を楽しめたはずだ。
Dバックルが脱着しやすいのも良い。Dバックルは両サイドのプッシュボタンで開け閉め可能だが、硬さはなく、動きはスムーズだ。大きすぎないため、ケース同様に装着感の良好さに繋がっている。バックルはコンパクトで、デスクワークの邪魔をしなかった。
軽快な装着感、そして爪を傷めないバックルの設計は、女性にもすすめられるドレスウォッチだ。時計好きの女性はもちろん、パートナー間とのシェアウォッチとして購入するのも良いのではないだろうか。
「デイリーユース」にふさわしい性能
アティテュードのコンセプトの一つに、デイリーユースがある。ドレッシーな時計は防水性が低かったり、デザインの観点からかリュウズが引き出しづらかったりする個体が見受けられるが、アティテュードはさすがデイリーユースを掲げるだけあり、機能性や実用性に優れている。
まず、防水性は50mだ。革ベルトということもあり、水仕事や大雨での着用は避けたいが、日常での常識的な扱いには十分だろう。
特筆すべきはムーブメントだ。カリブルイニシャルと称されるCal.EPM03は、なんとカレンダー操作禁止時間帯を持たない。早送り機能のついたカレンダーは、一般的に「日付操作が禁止される時間帯」を持つ。そして、この禁止時間帯でのカレンダー早送りによる修理事例は、非常に多い。そのためロレックスやブライトリングなどをはじめ、近年ではカレンダー禁止時間帯への対策を立てたムーブメントが出回ってきたが、ペキニエもいち早く採用した。リュウズの引き出しや針回しもスムーズで、「デイリーユース」と称するにふさわしい性能と、ドレスウォッチとしてのエレガンスを両立している。
ちなみに、ペキニエは5年間の国際保証をスタートさせたことにも言及しておきたい。もともとペキニエについて初期不良が多いなどといった話は聞かないが、機械式時計は精密機器である以上、多少の個体差がある。そんな中で5年保証を提供してくれるというのはユーザーにとってはありがたいし、何よりペキニエの製品に対する自信と矜持が感じられるだろう。
ペキニエ アティテュードは幅広い層を見据えている
今回、ペキニエのアティテュードを着用レビューした中で改めて実感したのが、性別問わずに使えるドレスウォッチということだ。サイズは決して小さくはないが、よく考えられたケースは多くのユーザーの腕元にしっくりくるだろう。
もちろん性別のみならず、年齢やライフステージを超えた、幅広い層に訴求するとも感じる。とりわけ50万円台で内外ともに高い満足度を提供する点は、初めての機械式時計としても、すでに何本か所有している愛好家の次の時計としても、大きな役割を果たすと言える。近年では原価高騰などのあおりを受けて、時計の値上がりが目立つ。そんな状況において誠実な価格設定を保つペキニエというブランドのファンは、今後ますます増えていくことが予測できる。
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