タグ・ホイヤーが手がけるスマートウォッチ、「タグ・ホイヤー コネクテッド キャリバーE4」をレビューする。優れた外装と操作性、専用アプリの存在は、高級時計としても電子デバイスとしてもユーザーを満足させるに違いない。
Text & Photographs by Tsubasa Nojima
[2023年9月19日公開記事]
高級スマートウォッチはユーザーに何をもたらすのか
今回は、タグ・ホイヤーが注力するコネクテッドウォッチ、「タグ・ホイヤー コネクテッド キャリバーE4」をレビューする。コネクテッドウォッチとは、スマートフォンなどと接続して使用する、いわゆるスマートウォッチのことだ。
スマートウォッチと言えば、通信デバイスを手がける企業から発売されることが多かったが、今ではタグ・ホイヤーの他、ウブロやルイ・ヴィトンといった時計ブランドからも魅力的な製品が発売されるようになった。ただ、それらブランドが出すモデルはほぼ例外なく、一般的なスマートウォッチに比べて値段が数倍弾む。興味はあれど、値札を見て悩んでしまうという方も多いのではないだろうか。
果たして、高級スマートウォッチはユーザーの生活をいかに豊かなものとしてくれるのか。今回のレビューでは、タグ・ホイヤーの2023年最新モデルを実際に使用し、感じたことを思いのままにつづっていきたい。
スマートウォッチとしての基本機能+充実した専用アプリ
スマートウォッチと一口に言っても、搭載されている機能はモデルによって大きく違う。その中でも、タグ・ホイヤー コネクテッド キャリバーE4の機能は、かなりリッチな部類と言えるだろう。採用するOSは、Wear OS by Googleだ。スマートフォンとBluetoothで接続することで、各種通知の受信やスケジュールの確認、音楽アプリのコントロールなどができる。アラームやストップウォッチといった基本的なことはもちろん、Google Payを登録することで決済に使用することも可能だ。さらには、Play ストアからアプリをダウンロードすることで機能を拡張することができる。
ここまでは、大型のディスプレイを備えたスマートウォッチとしてそう珍しくはない。本作において特筆すべき点は、専用に用意されたウォッチフェイスと、スポーツ、ウェルネスのタグ・ホイヤー純正アプリの存在だろう。
スマートウォッチの多くは実体としての針を持たず、ディスプレイにダイアルを表示する。そのため、アナログウォッチに比べて物理的な制約が遥かに少ない。その性質を生かし、スマートウォッチではウォッチフェイス(ダイアル)の着せ替えをすることができる。
タグ・ホイヤー コネクテッドでは、デジタル表示のものから、同社の代表作である「カレラ」のデザインをベースとしたものまでがプリインストールされている。もちろん、Play ストアからウォッチフェイスを追加インストールすることも可能だ。
同社が力を入れているのが、ユーザーの健康維持をサポートするアプリだ。本作には「タグ・ホイヤー スポーツ」「TAG Heuer Wellness」「タグ・ホイヤー ゴルフ」の3つのアプリがプリインストールされている。
タグ・ホイヤー スポーツは、ゴルフ、ランニング、屋内ランニング、サイクリング、ウォーキング、水泳、トレイル、フィットネスなど、スポーツの種類に合わせてログを取ることが可能なアプリだ。例えばランニングであれば、経過時間や心拍数、走行距離、現時点での速度や心拍数が表示され、自身の状態を確認しながらトレーニングを進めることができる。
ゴルフを選択すると、タグ・ホイヤー ゴルフアプリが起動する。このアプリでは、ゴルフ場のコース情報をダウンロードすることが可能であり、ディスプレイに表示されるマップを見ながらの戦略的なプレイを助けてくれる。スコアの記録や最適なクラブの提案といった機能も備わっており、ゴルフプレイヤーにとっては非常に心強い。
TAG Heuer Wellnessでは、歩数や心拍数、運動時間のログなどを見ることができる。事前設定した目標に対する達成度合いも可視化されるため、進捗状況に合わせたアクションを取ることが可能だ。
高級時計譲りのシャープなケース
高級時計ブランドが手がけるスマートウォッチとなれば、気になるのはその質感であろう。本作の外観は、ダイアルがディスプレイになっていることを除けば、アナログウォッチとあまり変わらない。
ケースはサンドブラスト仕上げを与えたグレード2チタンに、ブラックDLCを施している。高級感というよりは実用性を重視した素材選定であるが、ダレた印象のないエッジは同社の機械式時計と比較しても遜色ないほどだ。ここは、多くのスマートウォッチが持つ曲面を主体としたケースとは一線を画す部分だ。ケースサイズは直径42mmと、スポーツウォッチとしては標準的なサイズであるため、過大な印象はない。
本作の腕時計らしさを強調しているのは、シャープなケースラインだけではない。ケースサイドにはリュウズとふたつのプッシュボタンが配されており、さながらクロノグラフウォッチのようなデザインを持つ。本作はディスプレイをタッチすることで大半の操作を行うことが可能であるため、防水性や破損のリスクを考えると、物理的な操作系の設置は好ましくないように思える。これらが使い勝手にどのような効果をもたらしているのかは、後述していきたい。ちなみに、リュウズとプッシュボタンはステンレススティール製だ。
ダイアルを覆うガラスには、ボックス型サファイアクリスタルを採用する。なるべく表示部を多く確保するためか、ベゼルが極限まで細められているため、フラットなガラスではのっぺりとした印象になってしまっていたことだろう。外周部の立ち上がりが、時計に立体感をもたらしている。
ストラップは、しなやかなラバー製が装着されている。ブラックカラーケースとの一体感に加え、スポーツシーンでも気にせずに使用できる点は大きなメリットだ。裏面にはパターンが刻まれており、汗によるべたつきを抑えてくれる。ケースと同素材のフォールディングバックルは、プッシュボタンによって簡単に着脱することが可能だ。サイズ調整はバックルで行うことができる。バックルのロックを解除し、ストラップの剣先を引っ張ることで、工具を用いることなく無段階での調整が可能だ。
ストラップは、裏面に配されたレバーを爪で引くだけでケースから取り外すことができる。ただし、この構造ゆえに取り付け可能なストラップには制限がある。本作にはバネ棒がなく、代わりにピンがハメ殺しされているのだ。そのため、専用品かオープンエンドタイプのようなストラップでなければ使用することができない。NATOタイプでも取り付けることはできるが、脈拍センサーが正常に機能しなくなってしまう。とはいえ、専用のストラップはステンレススティールやレザー、カラフルなラバーまで豊富にラインナップしている。ここまで用意されていれば、他に目移りすることも少ないだろう。
快適な操作性をもたらすリュウズとプッシュボタン
外観を一通り見たところで、実際に操作をしてみよう。ウォッチフェイスを表示し、下に向かってスワイプすることで設定画面、上にスワイプすることで通知を表示する。右へのスワイプはGoogle アシスタント、左はタイルを表示する。上下のスワイプは、リュウズの回転によっても同様の操作をすることができる。
設定画面では、機内モードやシアターモード(画面をオフにして通知をミュートにする)、サイレントモードへの切り替え、Google Payの起動やBluetooth接続しているスマートフォンの着信音を鳴らすことができる。使用頻度が高い機能を複雑な画面遷移なしに起動することができるという訳だ。初めて本格的なスマートウォッチを使用する場合、UIに慣れるにはそれなりに時間がかかるはずだ。そんなときでも必要最低限のことができるのは、安心材料として十分だ。
リュウズはプッシュボタンとしての機能も持っており、押下することによってアプリの一覧を表示することができる。一覧はリュウズの回転によってスクロールすることが可能であり、簡単に目的のアプリを見つけることができる。この操作はディスプレイのスワイプでも行うことができるが、力加減によってスクロールの速度を調整するには慣れが必要であり、かつスマートフォンに比べて小さいディスプレイは、指を置いた時点で大部分が隠れてしまう。
正直、リュウズを付けてまで従来の時計に似せたデザインを持たせる必要があるのかと疑問に思っていたが、それは筆者が“リュウズとは針を回すためのものである”という固定概念に囚われてからだと思い知らされた。スマートウォッチの快適な操作を助けるものと知った今、本作のリュウズに対するネガティブな印象はない。
ふたつのプッシュボタンには、それぞれアプリを割り当てることができる。これによって、通常であればリュウズを押下し、一覧の中から目当てのアプリを見つけてタップするという一連の動作をワンタッチで完了させることができる。プリセットされているのは2時位置がタグ・ホイヤー スポーツ、4時位置がTAG Heuer Wellnessだが、ユーザーのライフスタイルに合わせてカスタマイズすることができるのは嬉しい。
余談ではあるが、ストップウォッチ機能ではアナログのクロノグラフウォッチと同じように、2時位置でスタート/ストップ、4時位置でリセットを行うことができる。プッシュボタンの感触もはっきりとしており、正確に計時できるのはクロノグラフを作り慣れた同社の矜持を感じさせる。
ウォッチフェイスの変更は、スマートフォンのアプリからでも、スマートウォッチ単体からでもできる。インダイアルや針、日付表示のカラーやインダイアルに割り当てるアプリまで、気分や使用頻度の高い機能に合わせて細かにカスタマイズ可能だ。スマートウォッチは、毎日身に着けてログを蓄積していくことで、より健康管理に役立てていくことができる。すぐに飽きてしまう人であっても、定期的にウォッチフェイスを変えれば着用頻度を高く保つことができるだろう。何よりも、この設定を弄るだけでもとても楽しい。
バッテリーは、アプリを使いすぎなければ丸1日持続する。充電は専用のクレードルに接続するだけ。磁石によってクレードルに固定され、充電中は置き時計としても使用できる。充電時間は約1時間半とそこまで長くないので、例えば朝の支度をしている間にでも満タンにできる。
フィットネスで健康的な毎日を
せっかくタグ・ホイヤーのスマートウォッチを使っているのだから、タグ・ホイヤー スポーツのアプリを試してみなければならないだろう。ちなみに筆者は普段、滅多に運動をしない。ただ、最近はちょっと走っただけで驚くほど疲れてしまうし、久しぶりに会う友人は皆、口を揃えて丸くなったと言う。主観的にも客観的にも、このままではダメだということは明白だ。少しばかりスマートウォッチの力を借りたい。
今回使用したのは、ウォーキングとフィットネスだ。ゴルフが出来ればなお良かったが、その機会には恵まれなかったのは残念だ。
ウォーキングの操作はいたって簡単だ。スタートと同時にタイムの計測が開始され、そのまま歩けば歩行距離と現時点での速度、心拍数が表示される。意識的にウォーキングをしようと外に出た場合は、自身の成果が視覚化されてモチベーションアップに繋がり、通勤や買い物などで外に出た場合に使用すると、歩くという行為が、目的地に辿り着くための作業ではなく、その行為自体に目的意識が生まれる。
フィットネスは屋内で気軽に運動できる機能だ。1セット7分として、全身、胴体、上半身、下半身など、集中したい体の部位ごとにガイドが用意されている。実行すると体の動きがディスプレイ上に示されるので、その通りに体を動かすだけだ。
1セットの時間が長すぎず短すぎず丁度良いため、筆者はちょっとした作業の合間の気分転換として使用した。フィットネスの優れているところは、特別な準備をすることなく開始できるところだ。大袈裟な動きをするわけではないのでスポーツウェアに着替える必要はない(転倒の危険性があるため、最低限動きやすい服装にはすべき)し、スペースを特段大きく取る必要もない。このハードルの低さが、ものぐさな筆者をやる気にさせてくれた。
個人的に、日々の生活に運動の習慣を取り入れるにあたって、本作のスポーツアプリは効果的であるように感じた。常に腕に着けているデバイスを用いるため、思い立ったらすぐに実行することができるうえ、その成果が可視化されるため、1回1回の達成感も味わえる。軽量なチタン製のケースによって、腕への負担が少ないことも大きなポイントだろう。
とはいえ、筆者も限られたレビュー期間で使用しただけである。こう言っては身もふたもないが、1か月や半年、1年と継続できるかは、結局ユーザー自身の意志の強さに依存することだろう。
高級時計ブランドとしてのプライドを感じる優れたパッケージ
豊富な機能を持つ本作は、間違いなく便利だ。ただそれは、他のスマートウォッチとの数倍の価格差を説明する根拠にはなりえないだろう。タグ・ホイヤー純正のウォッチフェイスやアプリに魅力はあるが、ある程度目をつむれば、他で代替できないものはあまりないからだ。
ではどこが突出しているかというと、外装の質感や操作性の高さではないだろうか。日々身に着けて使用するものであれば、些細な違和感はやがて大きくなってのしかかる。本作は、それらマイナス要素を極限まで減らし、かつ高級時計ブランドならではの外装によって、所有と使用に対する満足感をも高めている。軽く扱いやすいという道具としての魅力だけではなく、眺めたり指で触ったりすることで感動を得られるという魅力もあるわけだ。これは、家電的な性質のスマートウォッチにはあまり見出すことができないものであり、本作がそれらに比べて大幅にリードしているポイントだろう。
とはいえ、本作もスマートウォッチである以上、ハードウェアの性能はいずれ陳腐化する。では、ユーザーはそれを黙って受け入れなければならないのかと思うかもしれないが、安心していただきたい。2023年9月現在、同社は下取りプログラムを用意している。これを活用すれば最新モデルへ安価に買い替えることができるのだ。
スマートウォッチとしての便利さをそのままに、優れた外装を兼ね備える本作は、高級時計に慣れ親しんだ層にも間違いなく満足感を与えてくれるはずだ。ただ、もし手にしたとしたら取り扱いには十分注意すべきだろう。機械式時計と同じコレクションボックスに入れてしまうと、うっかり磁気帯びをさせてしまいかねないからだ。そう考えると、ボックスに収めたくなるほどの質感を持っているのも考えものなのかもしれない。
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