ノウハウを結集したオートマトンが創造する最後に熟考する10秒間
もうひとつ、今年のリシャール・ミルを語る上で忘れてはならないのが、これまで高級時計市場で築いてきた同メゾンの理念や哲学、複雑機構を操るノウハウを時計以外で表現したラグジュアリーアイテム、RMS 05である。リシャール・ミルでムーブメントの設計・開発を担当するサルヴァドール・アルボナ氏は説明する。
「この機械式万年筆の研究と開発には約4年を費やしました。外装にはリシャール・ミルではおなじみのNTPTカーボンを使っています。また、RMS 05のハイライトでもあるホワイトゴールド製のペン先を自動的に露出させる動きを駆動する〝ムーブメント〟の地板にはスケルトン仕上げのチタンを採用し、そもそもムーブメントの構造自体がアンクル脱進機と香箱、ガバナーを持ったストライキングウォッチのメカニズムを応用したものです。つまり、リシャール・ミルの内外装のノウハウの結晶と言えるのです」
こう言うとアルボナ氏は、恭しく万年筆最後部に配されたプッシュボタンを押し、ゆっくりと10秒ほどかけてNTPTカーボン製の胴からペン先がせり出す様子を見せてくれた。「重要なのは、ペン先が現れるまでの、このわずかな時間です。私たちは、この特別な万年筆を特別な場面で使っていただきたい。例えば、非常に重要なプロジェクトの契約など、契約を交わすためにサインする最後の約10秒間、ペン先が現れるまでにもう一度熟考する時間を創ったのです」。
ファブレスマニュファクチュールから始まり、内外装のマニュファクチュールと呼ばれるほど、有能な外部のエキスパートたちと緊密なパートナーシップを築き上げ、今や、ベーシックなムーブメントの開発を自社で手掛けるリアルマニュファクチュールへと、常に変化を遂げてきたリシャール・ミル。今年の新作は、たとえレディスと銘打たれていたとしても、現時点において最もリシャール・ミルの本質を凝縮し、体現したモデルであることを、果たしてどれだけの時計業界関係者が見抜いているのだろうか? 同メゾンが正しい意味での〝破天荒〟すなわち道なき道を切り拓く前人未踏のマニュファクチュールであることを証明し、それを突きつける稀有な新作であることを明記して筆をおきたい。