2023年8月29日、ジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表されたブルガリの最新作「オクト フィニッシモ カーボンゴールド」をレビューする僥倖を得た。薄型時計というジャンルでプレゼンスを高めてきたブルガリが放つ、最新オクト フィニッシモの実力とは?
Text and Photographs by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
2023年11月7日掲載記事
ブルガリ新作「オクト フィニッシモ カーボンゴールド」を実機レビュー
ブルガリは2014年、「オクト フィニッシモ」をコレクションに加えた。12年に発表された「オクト」の意匠を受け継ぎ、8角形モチーフとファセットを多用したケースを特徴としつつ、薄型化したのがオクト フィニッシモだ。誕生当初はオクトの上位コレクションといった立ち位置だったが、この“薄さ”が強烈なキャラクターとなり、時計市場でのプレゼンスを高めていく。
自動巻き(Cal.BVL305)。30石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径40mm、厚さ5.8mm)。30m防水。1062万6000円(税込み)。
市場での成功は、「オクト フィニッシモ トゥールビヨン」を始め、世界最薄の記録を更新し続けてきたことが理由として大きいだろう。とりわけある程度の厚みを持つことが一般的な複雑機構の超薄型化を実現したインパクトは絶大だ。しかし、その理由以上に、プロダクトそのものが“革新的”であったことが、成功に寄与したのではないか。詳細はレビューの中で述べるが、薄型時計でありながら立体感、そして実用性を両立させた非凡な手腕が、時計愛好家を中心に高い支持を獲得している。
成功に比例するように、ブルガリはオクト フィニッシモのバリエーションを拡充させた。そして今年の8月29日に行われたジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表された最新作が、今回レビューする「オクト フィニッシモ カーボンゴールド」である。
自動巻き(Cal.BVL138)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti×カーボンケース(直径40mm、厚さ6.9mm)。100m防水。387万2000円(税込み)。
大きく目をひくのが外装のデザインだろう。これまでさまざまなオクト フィニッシモがコレクションを飾ってきたが、本作はカーボンファイバーを素材に用いており(ミドルケースはチタン)、かつリュウズや文字盤にピンクゴールドカラーをアクセントとして添えた意匠となっている。文字盤もカーボンファイバーのパターンが際立っており、モダンだ。なお、オクト フィニッシモ カーボンゴールドは本作の他に、パーペチュアルカレンダーモデルもリリースされた。
自動巻き(Cal.BVL305)。30石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti×カーボンケース(直径40mm、厚さ7.6mm)。100m防水。1327万7000円(税込み)。
早速、オクト フィニッシモ カーボンゴールドをレビューしていこう。
申し分のないパッケージング
当サイトでは、何度かオクト フィニッシモのレビューを行なっている。その度に言及しているのが、非凡なパッケージングだ。
オクト フィニッシモがプロダクトとして成功を納めた理由のひとつに、薄型時計でありながら複雑な造形によって、立体感を確立した点があろう。薄型時計はフラットな意匠が少なくない。そのため近年、各社は薄型時計に立体感を備えるために、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げをコンビネーションさせる、という手法を用いてきた。一方のオクト フィニッシモは、8角形モチーフをベースにラグやケース、ベゼルにファセットを与えており、とても複雑な形状となっている。
立体的な造形を持った薄型時計、というかつてなかった打ち出しによって、ブルガリはこのジャンルに新しい風を吹かせた。本作でもこのアイコニックな造形は健在だが、ブラックカーボンによって、もともとアヴァンギャルドであったデザインはさらにモダナイズされた。一方で、カーボンを用いた時計に多く見られる、スポーティーなテイストが強いと言うわけでもない。オクト フィニッシモらしい造形と薄い外装(厚さ6.9mm)、そしてもうひとつの主役であるピンクゴールドによって、ラグジュアリーな時計に仕上がっているのだ。
そして、オクト フィニッシモのパッケージングの秀逸さは、装着してこそ実感できる。一般的に薄く軽い時計は装着感に優れている。その点オクト フィニッシモの着け心地が良いのは想像に難くないが、さらにラグが曲げられることでより腕にフィットする仕様になっている。直径40mmと、着用前はケースサイズの大きさが装着感に影響を与えるのではないかと思っていたが、ラグの短さも手伝ってか、ほとんど気にならなかった。
秀逸な薄型ブレスレットも、実際に着けてみて驚かされた点だ。ケース同様に厚みが抑えられたブレスレットはしなやかで、かつシャープな見た目だがエッジは立っておらず、肌触りが良い。また、オクト フィニッシモの“薄さの妙”を表す大きな特徴として、バックルがブレスレット内側にビルトインしている、ということが挙げられる。この仕様によってバックル部分もブレスレット同様に薄さを保っており、デスクワークの時にありがちな、バックルだけ物に当たって手首に干渉するシーンは少なかった。ただし、薄さを優先してバックルに開閉のためのプッシュボタンなどは無い。時計を手に取って開け閉めする分には容易だ。しかし装着時に外そうとした時、少し操作しづらいと感じた。
使える薄型時計という選択肢
オクト フィニッシモが薄型時計として成功したもうひとつの理由は、その実用性である。ブルガリは極薄ムーブメントを作るに当たって、地板を大径化し、各パーツを散らした。余白にローターや各機構を載せることで、薄いながらもさまざまな付加価値を与えることに成功している。本作に搭載されているCal.BVL138も、17年に世界最薄の自動巻き時計として誕生したムーブメントだ。余白にマイクロローターを搭載させていることが特徴だが、巻き上げ効率を良くするために、比重の大きいプラチナ素材を用いている。本作も同様のキャリバーだ。ちなみに、プラチナにピンクゴールドカラーが施されることで、特別感のある仕上がりとなった。
多くの薄型時計がゴールド製やプラチナ製など、貴金属を用いていた一方で、オクト フィニッシモはチタン素材が使われていたことも、実用的な薄型時計としての大きな秘訣だ。さらに本作は100m防水となっており、見た目からは想像できない実用性と言える。ねじ込み式リュウズは扱いやすく、決して大きくはないのに、取り出しづらさは感じなかった。針回しが滑らかなのも良い。
実用性や機能性で気になった点としては、秒針停止機能がないことだ。高級時計では搭載されていないことも多いが、時刻合わせで少し不便を感じた。また、インデックスが細く、かつポリッシュ仕上げで統一されているため、強い光源下では視認性が低下した。とは言え屋外でガシガシ使う時計でもなし。デメリットではなく「気になった」に留めたい。
まずは実物を見るべし!できれば装着するべし!
23年最新のオクト フィニッシモ カーボンゴールドをレビューした。
考えられたパッケージングがもたらす造形の妙、そして優れた装着感は秀逸。さらにカーボンとゴールドの意匠によっていっそうモダンなデザインとなり、独創的な雰囲気を持つに至った。オクト フィニッシモ全般に言えることだが、実物を見ると、改めてこのパッケージングの出来栄えを思い知らされる。さらに、手首に装うことで着用の快適さを知り、もうこのまま購入してしまおうかという気にさせる。
価格的にはもちろん気軽に買えるモデルではない。また、この金額となると、選択肢は本作以外にも大いに増えることだろう。しかし、機械式時計の薄さは、高度なウォッチメイキングを示すひとつの指標であることは間違いない。これを実現しつつも、複雑な造形や実用性と言う新しい付加価値を提供するオクト フィニッシモの価格として、高すぎるということはない。
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