「私たちはクロノスイスの40周年を祝うため、最高の時計は何だろうと考えた」。そう語るのは、クロノスイスCEOのオリバー・エブシュテインだ。「クロノスイスの非常に有名な作品はデルフィスだった。これは、12時位置の小窓で時を表示するジャンピングアワーを持ち、分をレトログラードで示す初の腕時計だった。2年前に私たちは、この腕時計を改めて手掛けるべきだと考えた」。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
40周年を祝うため、私たちはデルフィスを仕立て直した
1975年、スイス生まれ。ローザンヌとマドリードのIE大学で教育を受け、MBAを取得。金融業界でキャリアをスタートさせた後、食品サプリメントや製薬業界でマネジメントに携わる。後に独立系経営コンサルタントとして、中小企業のリストラクチャリングに注力するが、一族がクロノスイスを引き継いだことに伴い、同社のCEOに就任した。インタビュー内容が示す通り、彼はかなりの時計好きである。
過去からブランドのDNAを抽出し、未来とミックスするのが好きだと語るエブシュテイン。「過去を反映しつつ、デルフィスをどうリデザインするかが課題だった。また、基礎の上にさらに職人技を加えるべきだとも思った」。
昔のデルフィスは、スタンプで仕上げたギヨシェ風の文字盤であった。対して新しいデルフィスには、エナメルを重ねた本当のギヨシェ文字盤が採用された。しかも、文字盤はドーム状に盛り上がっている。普通にエナメルを施すと、加熱で流れてしまうはずだ。「有名なファベルジェエッグを見たとき、同じことができると思った。そこで試行錯誤を重ねて、この文字盤を完成させた。とはいえ、プロトタイプが出来たのは、見本市の直前だった」。
面白いのはエナメルの仕上がりだ。ギヨシェにエナメルを重ねたにもかかわらず、気泡はほとんど見当たらない。
「気泡がないわけではない。100%の作品なんて存在しないから。しかし、私たちは99・99%でありたいと思う。エナメルを塗って焼き、仮に気泡が出来たらそれを剥がし、再びエナメルを重ねて焼く」
なるほど、なればこその仕上がりか。しかし、本作に限らず、なぜクロノスイスは、そこまで職人技に傾倒するのだろうか?
「私たちの顧客は常に違ったものを求めている。より高級で、より限定的なものをね。そして、商品にストーリーも求めている」。新しいデルフィスに盛り込まれたエナメルとギヨシェは、その好例であるようだ。
「エナメルという技法は5000年の歴史がある。ギヨシェは400年以上。それを盛り込んだ腕時計を持つということは、つまり、あなたが歴史を構成する何かを持っているということになる。未来にとって、多くの人にとって、それは価値あるものだと私は思うよ」
モダンとクラシックの間で試行錯誤を続けてきたクロノスイス。しかし、新しいデルフィスを見るに、同社はついに、ひとつの解を見つけたように思える。
「デルフィスもいいけど、レギュレーターも良い腕時計だと思わないかい?」
クロノスイスは今後、かなり面白くなるに違いない。
極めて立体的な3層構造の文字盤にジャンピングアワーを搭載した限定モデル。併せて、ラ・ジュー・ペレと共同開発した、新しいベースムーブメントが採用された。世界限定50本が惜しいほどの良作。レギュラー化を望みたい。自動巻き(Cal.C.6004)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。682万円(税込み)。
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