2001年に誕生した「フリーク」は、「文字盤なし。針なし。境界なし」を標榜する、ユリス・ナルダンの代表的なコレクションだ。このフリークに焦点を当てたイベントが、23年11月11日(土)と12日(日)の2日間にわたって行われた。このイベントのうち、『クロノス日本版』およびwebChronos編集長・広田雅将がトークショーを行った11日の様子を、フリークの歩みとともにお伝えする。
Photographs by Mika Hashimoto
鶴岡智恵子(本誌):取材・文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2023年11月30日公開記事]
ユリス・ナルダン「フリーク」の名作が一堂に会したイベント
2023年11月11日(土)と12日(日)、グランドハイアット東京で「FREAK IMMERSIVE EVENT 2023」が行われた。このイベントは、ユリス・ナルダンを代表するコレクション「フリーク」に焦点を当てたものである。イベントでは歴代フリークのうち、初代をはじめ、最新作を含む歴史的モデルが集結。参加者は集まったフリークをタッチ&フィールによって、実際に触って動かしてみるなど、貴重な体験を楽しんだ。
また、2日間のイベントのうち、初日の11日は『クロノス日本版』およびwebChronos編集長の広田雅将がフリークの誕生から現在に至るまでの、進化の過程を熱く(!)語ったトークショーを開催した。
トークショー「フリーク 時計を変えたその歩み」
フリークは、01年にユリス・ナルダンから誕生したコレクションである。このフリークのコンセプトは、「文字盤なし。針なし。境界なし」。初代フリークは文字盤も針もリュウズも持たず、巨大なカルーセルをフェイス中央に備えたインパクト抜群のスタイルによって、時計業界に大きな衝撃を与えた。
このフリークの、誕生から現在に至るまでの歩みを広田が解説する。
フリークって何がすごいの?
デザインとしてのインパクトも大きいフリークだが、広田は本コレクションを「機械式時計の在り方を変えた」点で、時計史に残る1本と強調した。その理由は、次の3つである。ひとつは、歯車を多用したムーブメントの先駆けであったこと。もうひとつは〝メガトゥールビヨン〟の元祖であったこと。最後のひとつは、シリコンパーツを用いた初の機械式時計であったことだ。
安定と革新の両立
現代にも続くフリークの大きな特徴が、センターカルーセルだ。ムーブメント自体が針の役割を果たして、1時間に1回転する。表側に配されたテンプと脱進機、輪列を備えた巨大なカルーセルは鮮烈な印象をもたらしたが、一方で重く、その回転には大きなトルクが必要となる。そのためユリス・ナルダンはフリークにシリコンパーツを用いて脱進機を軽量化し、かつ裏蓋側全面に巨大な主ゼンマイを設け、この主ゼンマイの軸とつながってカルーセルを回転させる仕組みを採った。
このように、デザインも機構としても革新的であったフリークだが、まったく新しい機構というのは性能や信頼性といった点でリスクを伴う。そのため、誕生以降もフリークは改良が続けられた。この過程を広田は「安定に向けて」として、どのように進化を果たしていったかを語った。
改良は、脱進機から着手された。05年に誕生したのが、現行モデルにも搭載されるデュアル ユリス脱進機(当時はデュアル インダイレクト脱進機)である。割れやすく、また当時は温度変化にも弱かったシリコンに代わり、ダイヤモンドを脱進機の素材として用いた。ダイヤモンドはコストが高くつくため、07年にはシリコンにダイヤモンド被膜を被せたダイヤモンシル素材を開発。このようにフリークは機能や信頼性を高めていく一方で、新機構も追求。革新の歩を同時に進めていき、シリコン製グライダーによって自動巻き機構を搭載した「フリーク イノヴィジョン」、そして23年、フリークの革新性はそのままに、実用性をいっそう高めた「フリーク ワン」へと続く歩みを、会場にも用意された歴代モデルとともに、広田が解説した。
参加者は熱心に広田の話に耳を傾け、またパワーポイントが映し出されたスクリーンを写真撮影しており、フリークへの強い関心を感じられるトークショーであった。
タッチ&フィールでは稀少モデルを見て触って楽しむ!
限定品ではないが、生産数が決して多くないフリークにとって実機が用意されること自体が珍しい。しかし、本イベントでは、初代モデルや広田がトークショーで語った歴代モデルが多数並べられた。ユリス・ナルダンファンはもちろんのこと、機械式時計好きにもたまらないイベントとなったのではないだろうか。
用意されたモデルは「フリーク ダイヤモンドハート」をはじめ「フリーク ヴィジョン」や「フリーク ラボ」「フリーク ディアボロ」などといった“革新の歩み”を示す歴史的名作から、現行の「フリーク ワン」「フリークX」に至るまで幅広い。
特に注目を集めていたのが23年に発表された「フリーク ワン」だ。先日、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)2023でアイコニックウォッチ賞を獲得したことでも、記憶に新しいだろう。
17年に開発された特許取得のグライダー自動巻きを備え、かつシリコンのみならずダイヤモンシルを脱進機の素材に用いるという、これまでユリス・ナルダンがフリークで実現してきた革新的技術を投入した、集大成のような存在だ。やはりなかなか手に取る機会が少ないとあって、参加者は操作や試着を楽しんだ。
タッチ&フィールの間、広田も交えつつ、参加者同士が会話を楽しむ様子が見受けられた。参加者は16時のイベント終了まで、時間いっぱいフリークの革新性を、手に取って堪能できたのではないかと思う。
今回は参加者数が限られており、応募者の中から抽選によって選んだ上で招待制とした。ユリス・ナルダンにはこういったイベントを今後も継続的に開催し、多くのファンや時計愛好家にフリークの革新性に触れる機会を設けてほしいものだ。
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