1998年に登場した「ブルガリ アルミニウム」シリーズ。同シリーズの中から、今回はプレイステーション®用リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」とのコラボレーションモデル「ブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデル」の着用レビューをお届けしたい。2023年のリニューアルでスタイリッシュに進化した「アルミニウム クロノグラフ」をベースに、さらなる作り込みを加えた本作は、通好みなラグジュアリーウォッチに仕上がっていた。
自動巻き(Cal.B381)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。アルミニウムケース(直径41mm)。100m防水。世界限定1200本。69万3000円(税込み)。
Text & Photographs by Naoto Watanabe
[2023年12月20日公開記事]
モータースポーツファン垂涎のコラボレーション
初秋のある日、『クロノス日本版』編集部から1本の電話がかかってきた。
「山内一典さんとお話してみたくないですか?」
まるで近所のカフェにでも誘うような軽いノリだが、聞けば「ブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデル」の発表に伴い、ブルガリが山内一典氏とのインタビューの場を設けたので取材に行って欲しいとのこと。
山内氏といえば、「グランツーリスモ」シリーズの生みの親であり、現在も同シリーズの制作を手掛けるポリフォニー・デジタルの代表取締役 プレジデントを務める人物だ。
幼少期からモータースポーツに熱中し、テレビゲームにはほとんど無関心ながらも「グランツーリスモ」だけは初作(1997年)からプレイしてきた筆者にとって、山内氏は文字通り“神様”のような存在。
断る選択肢などあるはずもなく、ふたつ返事で受諾した。
これが筆者とブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデルの最初の出会いであった。
この取材の詳細は、ローンチ特集記事で読むことができる。
敬愛する山内氏と対面できたことは何物にも代え難い貴重な体験だった。しかし、やがてこの体験が、年末の筆者の懐事情を圧迫することになるなど、この時点では思いもよらなかった。
https://www.webchronos.net/features/104789/
ファンだけが気づく「グランツーリスモ」らしさを盛り込んだデザイン
本作の最大の見どころは、モータースポーツ感を強めながらも上品さを担保した繊細なデザインだ。
ベースとなったのは、2023年6月にリニューアルされた「ブルガリ アルミニウム クロノグラフ」。Cal.B381が搭載され、従来のCal.B130搭載モデルと比べるとケース径が1mm拡大されている。インダイアルの軸間距離が広がったため、文字盤が広く活用されたレイアウトとなっているのが特徴だ。
機械が小径なままケース径を拡大した多くの現代クロノグラフでは、インダイアルが中央に寄りがちな傾向があるが、Cal.B381搭載モデルの文字盤は1970年代までのクロノグラフのようなレイアウトバランスを実現しており、これだけでも稀有な存在と言えるだろう。
加えて本作では、1990年代のイタリア車のダッシュボードから着想を得た鮮やかなイエローが取り入れられ、文字盤の最外周にはタキメータースケールが盛り込まれるなど、よりレーシングシーンを意識したデザインとなっている。
ただし、表面上はグランツーリスモロゴなどの分かりやすいシンボルが印字されているわけではない。一見どこにコラボレーション要素があるのか困惑するかもしれないが、注目すべきは文字盤のフォント(書体)だ。
通常のブルガリ アルミニウム クロノグラフの文字盤では、12時位置に使用される長体サンセリフフォントと、インダイアルに使用されるスクエア型サンセリフフォントの2種類が組み合わされていた。一方で本作の文字盤は、ロゴ以外の全ての印字が平体サンセリフフォントに統一され、よりレーシーな印象に変化している。
これはグランツーリスモゲーム画面内のスピードメーターやシフトインジケーターに使用されるオリジナルフォントで、山内氏からブルガリに伝えられた唯一の要望を盛り込んだものだという。
自動車業界と時計のコラボレーションというと、文字盤上にダブルネームロゴを印字した形が主流となってしまうが、本作のように「ファンだけが気付く」程度に抑えたさりげないデザインアレンジの方が、筆者としては日常使いしやすく好みである。
時計を裏返してみると、DLC加工の施されたチタン製のケースバックに「ビジョン グランツーリスモ」プログラムの10周年を記念した「VISION GT」ロゴが彫られている。
プロダクト全体を通じて唯一ダブルネームを表現したポイントが、オーナーしか見ることのないケースバックというのも、なかなか粋な計らいだ。
外装内製化の強みを活かした高度な仕上げ
筆者がこれまで実機を触ったブルガリの時計というと「オクト フィニッシモ」シリーズが挙げられる。このシリーズで見られた並外れた外装品質は、本作でも健在だ。
とりわけ目を引いたのは文字盤の作り込みである。
通常モデルのブルガリ アルミニウム クロノグラフで梨地のブラックに仕上げられていた文字盤は、本作では縦筋目のメタリックなダークグレーに置き換えられている。普及価格帯の時計でありがちな浅くて短いヘアラインではなく、ヤスリをかけたような深くて長い筋目が特徴だ。
まるで高速域のレーシングカーから眺めたアスファルトのような雰囲気が、本作のコンセプトと良くマッチしているように感じる。
文字盤上のプリントはすべてイエローでタコ印刷されているが、タキメーターや秒目盛りなど細部まで極めて立体的で、透けや造形の崩れ、縦筋目への塗料の流れ込みも皆無だ。
文字盤のクォリティに関しては、価格が倍の時計と比べても見劣りすることはないだろう。
各種針も、非常に凝った作りだ。
時分針はハカマ付近のみ梨地のシルバーで、その他のエリアはブラックに塗装し、さらに上からイエローのスーパールミノバを塗布している。
クロノグラフ秒針は全体が梨地のシルバーで先端部分のみイエロー塗装、その他のスモールセコンド&積算計の針は全体がイエロー塗装と、それぞれ細かく仕上げが分けられている。
アルミニウム製のケースと尾錠、DLC加工チタン製のリュウズとプッシャーはすべて表面が梨地になっており、いずれもシャープで整った仕上がりだ。
ラグ一体型のミドルケースは複雑な造形だが、ブルガリからの資料によると切削による一体成形である。
ケースや文字盤の内製化を推し進め、製造設備に巨額の投資を行ってきた同社ならではの凄まじい加工精度だ。
FKMラバーストラップは金型による圧縮成形のため側面にパーティングラインが生じているものの、その大部分を背面側のエッジにそろえることで、極力目立たせないよう処理している。こういった細部の配慮が見事だ。
着けていることを忘れる軽さと、高級機のような操作感触
本作を着用してみて最初に感じたのは「とにかく軽い」ということ。
ステンレススティールに対して比重が約1/3しかないアルミニウムを主素材としているのだから当然ではあるが、総重量は80g(実計測値)に抑えられている。
ここまで軽量になると腕を前後に振っても慣性が感じられないため、着けている事を忘れてしまうほどに快適だ。
また、ケースのパッケージングも見た目よりコンパクトにおさまっている。
本作を斜めから眺めると、シリンダー形状のせいでかなり厚みがあるように感じるが、実際には12mmしかないため、シャツやジャケットの袖に引っかかることもなく、スムーズに袖口から出し入れすることができた。
イエローレターを採用した文字盤の視認性も予想以上に良好で、屋内・屋外ともに見づらさを感じるシーンはなかった。
ただし、クロノグラフの搭載により見返し幅が広くとられた結果、直射日光が差し込むと文字盤外周に影が落ちるため、屋外でのタキメーターの実用性には若干の難がある。
本作の着け心地の良さは、程よく長さが配分されたFKMラバーストラップの貢献によるところも大きい。
ストラップを尾錠で固定する場合、尾錠から遊革までの範囲でストラップが重なり、曲がりにくいエリアが生じるため、尾錠位置が6時側に寄るよう調整する必要があるが、本作のストラップは手首回り16cmの筆者の腕に見事にマッチしていた。
さらに、12時側と6時側それぞれの2カ所にアルミニウム製リンクの組み込まれた関節が設けられており、直角に近い角度まで曲がるため、ラバーストラップ特有の突っ張ったような感覚がないのも素晴らしい。
搭載されるムーブメントは汎用機をベースにクロノグラフモジュールを加えたもの。レビュー個体の右腕着用時の実用日差は+1秒以内と、脅威の精度を叩き出している。
パワーリザーブは約42時間と短めなものの、巻き上げ効率は極めて良好で、デスクワーク中心の10日間の着用でも、一度も停止することはなかった。
さらに驚かされたのは各部の操作感触だ。特に針合わせは非常にスムーズかつ一定の重さで、不快な振動が感じられない。非ねじ込み式リュウズで100m防水を実現しているため、厳重に配置されたパッキンによって振動が吸収されているのだろうか。
クロノグラフプッシャーの押し心地は重めだが、こちらも想像以上にスムーズで、嫌な雑味を感じさせない。
エボーシュベースでありながら、全体的に非常に良く練られた感触と言えるだろう。
高級機にも見劣りしない正真正銘のラグジュアリー時計
ここまで読んで察しの良い読者はお気付きかもしれないが、ローンチ特集記事を執筆していた筆者は結局ブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデルが欲しくなってしまい、誰よりも早くアンスラサイトダイアルの本作を購入してしまったのである。
そのため、レビューで着用した個体はブランドからの貸出品ではなく筆者の私物だ。
おかげで今回は長期間にわたって使用感を確認してから執筆することができた。
現在のブルガリはブルガリ アルミニウムシリーズをメンズウォッチのエントリーモデルとして位置付けているように見える。
しかし本作は、グランツーリスモとのコラボレーションによるスタイリッシュなデザイン、高品質な外装や滑らかな操作感触など、いわゆる高級機と比較しても見劣りすることのない、正真正銘のラグジュアリーウォッチに仕上がっていた。
これまでブルガリ アルミニウムシリーズが未体験という人はぜひ、実機を腕に巻いてみてほしい。きっと良い意味で想像が裏切られるはずだ。
もともと購入予定のなかった筆者もまんまと心を奪われてしまい、おかげでだいぶ財布が圧迫されたが、これも編集部がつないでくれた縁だと自分に言い聞かせ、ブルガリ アルミニウム グランツーリスモ限定モデルを腕に巻きながらグランツーリスモ7でのドライブを楽しむことにする。
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