日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2023年に発表された時計から、ベスト5を選んでもらうこの企画。今回は、時計ジャーナリストであり、『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ』(世界文化社)の著者としても知られる髙木教雄が選んだ、5本の傑作を紹介する。
1位:オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」
スイスでの発表会で実際に操作する幸運な機会を得、その出来栄えに感激した。チャイミング機構や新開発のラトラパンテも素晴らしいが、歯数の異なる歯車の組み合わせで閏年を判別する永久カレンダー機構は、革新的かつクレバー。
自動巻き(Cal.1000)。90石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約64時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ15.55mm)。2気圧防水。価格要問い合わせ。
2位:ショパール「L.U.C 1860」
手彫りギョーシェのダイアル、その色調、ケースのサイズ感、そしてノンデイト。さらにマイクロローター式の薄型自動巻きである点や、その仕上げまで含め、外装も機械もすべて時計ファンの琴線に必ずや触れる1本。
自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティールケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。30m防水。ブティック限定。346万5000円(税込み)。
3位:A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス・クロノグラフ」
A.ランゲ&ゾーネ初の垂直クラッチ方式のクロノグラフは、弱点である作動時の衝撃を和らげる設計が、いかにもらしい。秒・分積算計針をセンター同軸に置き、分積算計側のハートカムだけで両方をリセットする仕組みもユニーク。
自動巻き(Cal.L156.1 DATOMATIC)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定100本。価格要問合せ。
4位:ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」
クロノグラフ機構の設計の多くを1996年発表のCal.829から引用しているものの、十分に熟成されていると、軽快なボタン操作から感じ取れる。旧作とは違い、両面に時分針を与えたのは、英断。反転ケースの利点が生かされた。
手巻き(Cal.860)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。30m防水。365万2000円(税込み)。
5位:グランドセイコー「テンタグラフ」
モジュール式、垂直クラッチ、三つ又ハンマーなど、セイコー製クロノグラフの革新性をさらに練り込み、集結させて生まれた1本。モジュール式だと感じさせない操作感とプッシュボタン位置に、設計者の気概を感じる。
自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径43.2mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。181万5000円(税込み)。
総評
パンデミックの期間は、時計界にとって決して雌伏の時ではなかった。さまざまな制約の中、時計ブランドは静かに牙を磨いていたのだと、今年の新作は教えてくれる。例年以上に新開発ムーブメントが数多く登場していたのが、その証しのひとつ。とりわけ開発が難しいクロノグラフで興味深い新キャリバーが多かったのは、時計ファンには喜ばしいことだろう。また時計市場の好調さの後押しもあって、オーデマ ピゲに象徴されるような超複雑モデルが複数発表され、そのほとんどが即完売した事実は、時計界の未来に光明をさす。また外装においても、ケースやダイアルの仕上げは格段に向上していたと感じたし、デザイン的にも多くのブランドがより強く個性を打ち出していた。そうした中、選んだ5本でクロノグラフが多いのは、個人的な好みと、優秀な新キャリバーぞろいだったから。トップ1は自分では絶対に買えないが、機械式時計の夢を広げてくれた、まさに傑作だと断言する。
選者のプロフィール
髙木教雄
時計ジャーナリスト。工学部で培った知見と、圧倒的な取材経験によって裏付けされた原稿が魅力的な業界随一の理論派である。その豊富な知識と鋭い視点で切り込んでいく時計専門誌向けの記事から、一般誌での時計特集、新聞での初心者向け記事など、活躍のフィールドは幅広い。世界文化社から機械式時計の超入門書、『腕時計のしくみ』を上梓。
https://www.webchronos.net/features/106333/
https://www.webchronos.net/ranking/104591/
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