今回は、「ティソ PRX オートマティック クロノグラフ」を着用レビューする。“ラグスポ”チックなケースととブレスレットが一体型となったフォルムにクロノグラフを搭載する本作。PRXの魅力はそのままに、クロノグラフという要素をうまく溶け込ませ、汎用性の高いスポーツウォッチに仕上がっている点に注目したい。
Text and Photographs by Kento Nii
[2024年1月3日公開記事]
「ティソ PRX オートマティック クロノグラフ」を着用レビュー
2021年にアーカイブのアップデートモデルとして登場し、あっという間にティソの看板モデルにまで上り詰めた「ティソ PRX」コレクション。オリジナルは1978年誕生のクォーツモデルであり、その名前は「Precise and Robust(高精度かつ堅牢)」と10気圧を意味する「X」に由来する。
最たる特徴は、トノー型ケースからブレスレットへとなめらかにつながった、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチを思わせるフォルムだろう。PRXが誕生した70年代に新潮流となっていたデザインコードであり、ラグジュアリースポーツウォッチというカテゴリが生まれたのもこの時代だった。加速度的に人気を高めている現代での“ラグスポ”の立ち位置を考えると、2度にわたり登場したPRXは、それぞれで流行を押さえて登場したコレクションと言える。老若男女を問わない現在の人気の高さにも納得だ。
自動巻き(Cal.バルジュー A05.H31)。27石。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.5mm)。100m防水。28万7100円(税込み)。
そんなPRXへ2022年に追加されたのが、今回インプレッションを行う「PRXオートマティック クロノグラフ」である。オリジナルモデルが登場した1970年代のスポーツウォッチを思わせる、クラシカルな顔立ちを備えたクロノグラフモデルだ。価格は税込み28万7100円で、ふと背伸びをして買ってしまいそうなミドルレンジに設定されている。
スポーティに振り切らないことで汎用性を獲得
インプレッションを行ったモデルは、ヘアライン仕上げのホワイトダイアルに、ダークブルーのインダイアルを組み合わせた、いわゆる“パンダ”カラー風の1本だ。ダイアルのホワイトは、鈍い輝きを放つことによってシルバー文字盤のようにも見える。ちなみに、ダイアルバリエーションは他にも用意されているが、このモデルが唯一モノトーンカラーを採用している。
インダイアルを横3つ目にした王道レイアウトはタイムレスなPRXにマッチしており、派手さはないが決して地味にも収まっていない。一見した感想としては正統派のクロノグラフモデルだと感じた。インデックスは他のPRXと同様にスリムだが、文字盤とのギャップによって視認性に問題はなく、多角カットの針についても十分な長さで判読しやすかった。
しかし、秒積算計のための4分の1秒刻みのスケールがオミットされている点は、他のクロノグラフウォッチとの差別化となるだろう。そもそもタキメーターの非採用によってスポーティーなテイストが抑えられている本作だが、このささやかな仕掛けがドレッシー寄りの個性付けに役立っているように見えた。
このようなスポーティに振り切らないクロノグラフフェイスは好みが分かれるが、お気に入りの1本をさまざまなシーンで使いたい自分にとっては魅力的だった。
上質な仕上げにずっしりとした存在感がプラス
さて今回のインプレッションでは、実機を1週間借りて着用レビューできる機会を得たため、積極的に着用した。職業柄、多くの時計を見てきたが、恥ずかしながら実際に手首に載せる機会はそう多くはなかった。手袋をした手であちこち触ってみて、満足することがほとんどだったように思う。
そんな自分が手首に載せてまず実感したのは、ブレスレットと一体型となったケースのクロノグラフモデルゆえの、ずっしりとした重みだった。カタログスペックでは重さ184g。40mm径の3針モデルが138gであることと比べると、50g近い増量となっている。
ついで眺めていると、ケースの全面に施された丹念な表面仕上げに目が留まった。ポスト“ラグスポ”ウォッチのPRXは仕上げも魅力だと前々から耳にしていたが、間近で見るとその仕事ぶりに目を見張る。3針モデルがケースサイズ35〜40mmで展開されているのに対し、本作の直径は42mm。質感の良さを広く楽しめるのはクロノグラフモデルゆえの魅力と言える。もっとも、この魅力も上質な仕上げがあってこそのものだ。さらに本作ではベゼル、ケース、ブレスレットの面取り部をポリッシュとすることで、全体に立体感とメリハリも演出されている。
ブレスレットはテーパーが効いており、ケースからクラスプまでなめらかにつながっている。ブレスレットの遊びも程よく、ブレ過ぎず、窮屈過ぎない印象だ。ヘッドの重さを考えるともう少し厚みが欲しいところだが、これ以上贅沢を言うとアンダー30万円という魅力は失われるだろう。
バックルは両開きのバタフライバックルを採用。個人的な意見ではあるが、操作性の高い片開きのバックルの方が良かったように思えた。
また、自分は緩めに着用していたため気にはならなかったが、バタフライバックルは内側のプッシャーに少し厚みがあるため、タイトに着用する人は手首に異物感を感じてしまうかもしれない。ただし、半コマがふたつ付いているため、微調整は可能だ。
操作性、スペックは優秀
ムーブメントにはCal.A05 H31を搭載する。Cal.ETA7753をベースとし、約48時間のパワーリザーブを約60時間まで延長したムーブメントだ。元となるCal.ETA7750は知っての通り、40〜60万円のクロノグラフにも広く採用されている傑作機である。現代基準では少し短いそのパワーリザーブを改良した本キャリバーは、30万に満たないPRX オートマティック クロノグラフのスペックとして、十分な性能を有していると言える。
PRXの3針モデルに搭載されているパワーマティック80も高性能だが、その魅力はクロノグラフモデルとなっても健在と言える。
リュウズの引き出しは一段階のみ。しっかりとした操作感で遊びは少なく、時刻調整はしやすかった。一方、デイト機能はケース側面10時位置のプッシュボタンで調整する仕様であり、お世辞にも使いやすいとは言えないが、毎日着用するのであればそこまで不便に感じないだろう。
また、クロノグラフモデルということで計測も行なってみたが、スクエアタイプのボタンはシャープなPRXのデザイン性とマッチしているだけでなく、操作もしやすかった。大きい面で押せるため、Cal.ETA7750系特有のリセットの重さもカバーされているのだろう。加えて、仕立てが全体的にかっちりとしており、グラつきも最小限に抑えられているように思えた。
PRXの人気を押し上げる優等生クロノグラフ
今回のインプレッションの総評を述べると、アンダー30万円のクロノグラフウォッチとしては、性能、仕上げ、デザインの面で優等生と呼ぶべきモデルだと感じた。日用品としての側面より、趣味性が強まっている腕時計において、「コスパが良い」という言葉はあまり使いたくないが、本作はまさしくそれである。
PRXの魅力は抑えた価格を超える、製品そのものの完成度の高さと認識しているが、今回インプレッションを行ったクロノグラフモデルもその魅力を確実に引き継いでいるように思える。今後もさらなるPRXシリーズの拡充が予想される。そんな中、こういった魅力は変わらず継承されていくことだろう。
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