ソーラー発電で、完全に充電すれば1年間動き続ける「エコ・ドライブ 365」が、2023年にシチズンから登場した。実際の着用を通して感じた、本作の優れた機能性や特徴的なデザインを、深掘りして紹介する。最新技術を搭載しつつも、レトロな意匠が楽しめる腕時計が欲しい人にとっては、最適な1本だ。
Photographs & Text by Yosuke Ohashi(Chronos Japan Edition)
[2023年1月23日公開記事]
2023年にシチズンから登場した「エコ・ドライブ 365」
今回着用レビューするのは、「エコ・ドライブ 365」Ref.BN1014-55Eだ。満タンまで充電すれば、約1年間稼働し続けるソーラークォーツウォッチであることを表すモデル名が特徴的であると同時に、ラメの入った文字盤が目を引く。
光発電クォーツ。SS×ジェットブラックめっきケース(直径42.5mm、厚さ11.1mm)。10気圧防水。5万8300円(税込み)。
なお、エコ・ドライブ 365のラインナップは、本作を入れて全部で3型だ。
基本的なデザインは同一で、カラーやインデックスといった細部が異なる。ケース、ブレスレットともにブラックジェットのメッキが施された、今回のレビューモデルであるRef.BN1014-55Eのほか、ケース、ブレスレットにブラックジェットメッキが施されたRef.BN1015-52E、そして1973年の「クォーツE.F.A」のデザインを反映したRef.BN1010-05Eだ。
光発電クォーツ。SS×ジェットブラックめっきケース(直径42.5mm、厚さ11.1mm)。10気圧防水。6万3800円(税込み)。
光発電クォーツ。SSケース(直径42.5mm、厚さ11.1mm)。10気圧防水。世界限定1200本。11万円(税込み)。
エコ・ドライブ 365は搭載されているムーブメントもさることながら、そのデザインも特徴的な製品なのだ。
それではエコ・ドライブ 365の実力を見ていこう。
ずぼらな人にもピッタリ? 手間のかからない腕時計
機械式腕時計であれば、稼働させるために、主ゼンマイの巻き上げが必要だ。もちろん手首に着用することで巻き上げる自動巻きモデルは便利だが、パワーリザーブや使用日数によっては、使う時にいつも動いているとは限らない。
クォーツ式腕時計であれば、より稼働のための操作の手間は省ける。とはいえ、一次電池であれば、電池交換は定期的に必要だ。また、ソーラー発電の腕時計は稼働させ続けるために、部屋の日の当たる場所で“日光浴”をさせなくてはいけない。コレクションの置き場が限られてしまうと、思うことはないだろうか。ソーラーウォッチは一度止まってしまうと、一定時間、充電のために光を当て続けることが必要だが、結構な時間がかかるものだ。
しかし、このエコ・ドライブ 365なら、こういった課題はかなり解決される。365の付かない無印の「エコ・ドライブ」シリーズと同様に、太陽光はもちろん、室内灯でも効率的に充電と発電をしながら、稼働し続けるのだ。
毎日着用するにせよ、そうでないにせよ、幅広い層のユーザーにこの腕時計は向いていると言える。主ゼンマイの巻き上げなどが必要ないのはすべてのクォーツ式腕時計に言えるが、さらに本作はフル充電さえしておけば、時計ケースの中でしばらく保管していたとしても、使いたいタイミングで動いているため、手間いらずなのだ。月差±15秒のクォーツ式ムーブメントであるため、精度が良好なのもうれしいところだ。
なお、もし電池が切れてしまったとしても心配は無用だ。「クイックスタート機能」が搭載されているので、光を当てれば動き始める。ただし、メーカーとしては、快適な動作を保証するために、月に1度は5時〜6時間ほど、太陽光に当てることを推奨している。
宝石のようにデラックスな腕時計
さて、次はデザインについて話したい。本作は最新のムーブメントを搭載したモデルであると同時に、野心的なデザインである。クッション型のケースに、金属製のアワーマーカー、同じく金属製の光り輝く見返しリングを搭載した、1970年代前後の腕時計でよく見かけた意匠を採用したモデルなのだ。
それもそのはず、このモデルのデザインは、73年に発売された、シチズン初のクォーツ式ムーブメントCal.8810搭載の「シチズンクオーツ」をベースに、精度をより高めた特別調整品「シチズンクオーツE・F・A」をモチーフに製作されている。
この腕時計のデザイン上の特徴をひと言で表すならば、“腕時計そのものがダイヤモンドのような宝石”であろう。多面のケース、ポリッシュされた山折りの針、先に述べたアワーマーカーなどと相まって、カットされた宝石よろしく、光の反射を楽しめるモデルなのである。
今から乱暴な持論を展開するが、数ある70年代らしいデザインコードの中で、70年代らしさを強烈に想起させるデザインコードは、“腕時計そのものが宝石”ではないだろうか。
“腕時計そのものが宝石”の、具体的な特徴としては、本作のように、金属製の大きなアワーマーカーを備えるなど、どこかしら宝石を思わせるキラキラした多角形の意匠を指す。さらに踏み込んだものでは、風防をカットガラスとしたデザインも挙げられるだろう。
70年代当時の言葉を用いるならば、「ゴージャス」で「デラックス」な造形感覚とでも形容すべきなのだろうか。腕時計以外で近い雰囲気のものを挙げれば、黒塗りのボディーにクロームメッキが輝く昭和の高級車や、高級ホテルのシャンデリアといった雰囲気だ。
デラックスな意匠は、今現在において、大々的に流行しているとは言い切れない。正直この見た目を選択したのはチャレンジングに思える。とはいえ、モノトーンの色合いで落ち着いたヘアライン仕上げのおかげか、極端に個性的な印象は受けない。普段使いの腕時計が欲しい人の選択肢にも、十分入るはずだ。もちろん、70年代の腕時計を現代的にアップデートしたモデルを手に入れたい人には、最適だろう。
想像以上に手首になじむサイズ
そして最後に、実際に装着した感想を述べていこう。この腕時計のクッション型ケースは、大きな存在感を持っている印象を受けた。だが、ケース直径は42.5mmと、実際にはそれほど大きいわけではない。普段使いでも気にならない、手首になじむサイズだ。厚さは11.1mmと、それほど厚みがないことも、なじみよさの理由のひとつだろう。オールステンレススティール製ゆえの、ずしりとした重みも楽しめる。
なお、リュウズはケースに隠れてしまっているため、満足につまめず、時刻やカレンダーの修正をしづらい印象を受けた。日付合わせは特にそうだ。とはいえ、フル充電で約365日稼働が持ち味の本作。動き続けてくれるため、日常でリュウズ操作を行うシーンは、そう多くはないだろう。
所有者のみが楽しめる本当の輝き
そして、このモデルは文字盤にも特徴がある。黒い文字盤上に4色のラメの輝きが見て取れるのだ。このラメはモデルとなった「シチズンクオーツ E・F・A」に用いられた紫金石を再現したものだ。派手さはないものの、特別感にあふれる意匠と言えるだろう。
紫金石とは、銅の粉末を含んだガラスのことで、ベネチアで作り出されたそうだ。ラメの輝きはわずかであり、顔を近づけなければ、その輝きの本当の色には気付けない。所有者のみが楽しめる輝きだ。
この昭和の雰囲気たっぷりの腕時計を着用して、トヨタの高級車「センチュリー」に乗り込み、熱海の「ニューアカオ」なり、「ニューフジヤホテル」なりのミッドセンチュリーなホテルに向かえば、ムードは最高だろう。
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