2023年にシチズンが「シリーズエイト」のコレクションに新しく加えた、「880 メカニカル」を着用レビューする。本作は手の届きやすい価格でありながら、トレンドを取り入れた意匠や優れた性能を有しており、これから機械式GMTウォッチを購入するユーザーにとって、良い選択肢のひとつとなるモデルである。
Text and Photographs by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年3月14日公開記事]
シチズン「シリーズエイト」のGMTウォッチを着用レビュー
「シリーズエイト」は、2021年にシチズンが再始動させた、機械式ムーブメントを搭載するブランドだ。2000年代にも同名のブランドが存在しており、当時はクォーツ式ウォッチとして展開されていた。シチズンは光発電エコ・ドライブをはじめ、クォーツ式ムーブメントを採用するイメージが強い。しかし、21年にはシチズンから複数の機械式モデルが登場しており、かつシリーズエイトを含め、現在に至るまでシチズンがこの機構の新作を拡充しているところを見るに、今後、機械式にも力を入れていくことが期待できる。
今回着用レビューするシリーズエイト「880 メカニカル」も、そんな拡充されたモデルのうちのひとつだ。23年、メカニカルGMTモデルとして、コレクションに仲間入りしたのだ。
自動巻き(Cal.9054)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。22万円(税込み)。
新たに登場したGMTモデルはふたつ。赤、青のツートンカラーの両方向回転ベゼルのRef.NB6030-59Lと、黒、青のツートンカラーベゼルのRef. NB6031-56Eだ。ともに文字盤には市松模様のパターンがあしらわれている。このパターンはビル群の窓をイメージしており、東京の夜景からデザインの着想を得ているとのこと。なお、後に“日本の秋”をモチーフとした、ゴールドカラーの限定モデル(現在は完売)も登場している。今回着用レビューしたのは赤、青ベゼルのモデルだ。
20万円台で買える高性能な機械式GMTウォッチ
着用レビューする前から思っていたことだが、本作の時計市場でのポジショニングはよく考えられている。税込み22万円という、抑えた価格で購入できる高性能機械式GMTウォッチという製品の競合は、そう多くはないためだ(自分は同価格帯の機械式GMTウォッチというと、セイコーくらいしか即座には挙げられなかった)。GMTは人気の機構だ。とはいえ、機械式モデルであれば高価格帯のラインナップが増える。円安や原材料高騰などといった社会的・経済的背景によって、時計の価格が上昇を続ける昨今、 “20万円台”というポジションにつける本作は、「初めて機械式GMTウォッチを購入する」という層にとっても、「もう1本何か腕時計を購入しよう」という層にとっても、有力な選択肢のひとつとなるだろう。
もちろん価格が抑えられているだけでなく、高性能であることも、本作が時計市場でのプレゼンスを高めたと言える大きな理由だ。シリーズエイトはただ機械式ムーブメントを採用しただけではなく、第2種耐磁性能を備えている。第2種耐磁時計はJIS(日本工業規格)で規定されており、1万6000A/mの磁気を保証水準としている。磁気発生源に1cmまで近付けても、ほとんどの場合性能を維持できるレベル、とされている。880 メカニカルもまた耐磁性能を持つCal.9054を載せることで、ほとんどの機械式時計の不具合の原因となり得る磁気があふれる現代社会において、普段使いしやすい1本に仕上がった。パワーリザーブは約50時間で、加えて着用中は主ゼンマイがよく巻き上がっており(1日の着用時間は14時間程度)、実用性に優れた機械式ムーブメントと言える。
なお、着用中の携帯精度は、24時間経過した時点で+12秒、48時間経過した時点で+21秒であった。進みは大きいものの、許容範囲であろう。リュウズが大きく、操作しやすいため、時刻合わせでも不便は感じなかった。ちなみに、リュウズはねじ込み式ではない。
トレンドを取り入れたデザインが、着用中も存在感を発揮する
価格や性能のみならず、デザインもまた、巧みにこの製品の購入層に“刺さる”であろう。というのも、ラグとブレスレットが一体型となった、ラグジュアリースポーツウォッチ風、いわゆる“ラグスポ”のテイストを盛り込んでいるためだ。ケースは2体構造となっており、ヘアライン仕上げを基調に、稜線の面取り部分がポリッシュに仕上げ分けされているところも、“ラグスポ”のトレンドを取り入れていると言える。
一方で、薄型でドレッシーな印象の強い“ラグスポ”とは異なり、ケースはマッシブだ。直径41mm、厚さ13.5mmと大ぶりで、手首回り14.7cmの自分だと、ケースが少し浮いてしまった。
大きい腕時計が必ずしも細腕に合わないわけではないが、本作はエンドピースから続くブレスレットの連結部分に遊びが少ないことや、重量があることも相まって(ブレスレット調整のため、コマを5つ外した状態で161g)、女性の細い手首からは浮いてぐらついてしまい、着用に慣れるまでに時間がかかった。もっとも、メンズ向けのスポーツウォッチとしては一般的なサイズ感であろう。なお、自分自身の手首サイズに適したケース径で、かつ薄型であったり軽量であったりする腕時計の装着感は良好であるが、重い腕時計も着用していれば慣れるものだと個人的には思っている。
とはいえ、装着感はもう少し改善の余地があるだろう。シャープな意匠を強調するため、全体的にエッジの立った外装となっており、ブレスレットの裏側は丸みを帯びた仕上げとなっているものの、このエッジによって少し肌あたりが気になった。また、ブレスレットはコマ同士の遊びが少なく、加えてケースに対して薄いため、バランスが良くなかった。もし細腕のユーザーであれば、手首ぴったりにサイズを合わせることで、着用時の「動いてしまう」といったような状態は改善されるだろう。
もっとも、このマッシブなケースが本作の持ち味でもある。本作は立体感の強調されたデザインによって、手元から強い存在感を放っていたことも自分自身にとってうれしいポイントだった。着用中は手元に目が自然と引かれたし、「この腕時計って何?」と聞かれる機会も多く、腕時計は装飾品で、他者からも気付いてほしいと考える自分にとって、こういった目立つモデルというのはその目的にかなっており、所有への満足感が高まる。
文字盤の、東京の夜景がイメージされているという市松模様のパターンも特徴的だ。ブルーを背景に、レッドやオレンジがアクセントとなっており、モダンなスポーツウォッチに仕上がっている。針やインデックスは十分な太さを持つため、強い光源下でも視認性を損なわない。夜光の塗布面積は決して大きくなく、光もとても強いというわけではないが、暗所でも時刻の読み取りはできた。
シンプルで操作しやすいGMT
現在地のみならず、第2時間帯、第3時間帯を表示するGMTウォッチ。新型コロナウイルス禍を乗り越え、海外旅行や出張が増えた昨今、実用性を発揮する機能のひとつである。実際に物理的に移動しなくとも、海外在住者とコミュニケーションする際にも役立つだろう。
GMTウォッチは、そこまで操作が煩雑ではないというのがありがたい。本作もベーシックな操作方法のモデルであり、リュウズを2段引きにしてGMT針と分針を操作し、リュウズの1段引きで時針の単独操作を行う。カレンダーは時針をぐるぐる回すことで切り替えるため何日も変更するとなると手間だが、クイックチェンジがないということは操作禁止時間帯もないため、時間を選ばずいつでもリュウズで変更が可能だ。
また、両方向回転ベゼルを使えば、第3時間帯表示までが可能となる。ベゼルの操作性について特筆すべき点はなく、やや固いものの回しづらいといったことはなかった。
20万円台の機械式GMTウォッチを買うならこれ!
今回、シチズンの機械式ムーブメント搭載コレクション「シリーズエイト」の、GMTモデルを着用レビューした。定価22万円(税込み)と抑えた価格でありながら、性能やデザイン面で満足度が高く、初めて機械式GMTウォッチを買うという人がいたら、ぜひおすすめしたい1本である。
同時に、機械式モデルの拡充を続けるシチズンが、今後打ち出す新作にも期待したくなった。24年が明けてすぐに「シチズン プロマスター」でも機械式GMTモデルが登場しており、このジャンルに力を入れていくであろうことは想像に難くない。機械式時計の市場が広がり、ユーザーも増えている昨今、シリーズエイトに代表される“手の届く”高性能な機械式腕時計の作り手として、シチズンの次なる一手を世界が待っている!
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