2010年に「ガレ クラシック・トゥールビヨン」でデビューを飾るも、一方では高額かつ極めて稀少性が高いことから、一部の時計愛好家にしか真の魅力が伝えられてこなかったローラン・フェリエ。そんな“知る人ぞ知る”ブランドの特別イベントが、2024年2月23日(金・祝)に催された。参加者は約3時間、滅多に見ることのできないタイムピースの数々に熱い視線を注ぎながら、ローラン・フェリエの真価に触れた。
Photographs by Yu Mitamura
竹石祐三:取材・文
Text by Yuzo Takeishi
[2024年3月15日公開記事]
創業者の息子がブランドの歩みと歴代モデルを解説
2024年2月23日(金・祝)、ローラン・フェリエの特別イベント「Talking Watches with Christian Ferrier」が、東京・有楽町のザ・ペニンシュラ東京で行われた。このイベントは、時計師ローラン・フェリエ氏が2010年に創設したブランドへの理解を深めてもらうべく実施されたもの。現行の主要コレクションを直に触れられることはもちろん、創業者の息子でありブランドの商品責任者を務めるクリスチャン・フェリエ氏や、『クロノス日本版』およびwebChronosの編集長である広田雅将によるプレゼンテーションといった、充実のプログラムが用意された。
主催者のオープニングスピーチに続いて、まず登壇したのはクリスチャン・フェリエ氏。プレゼンテーションはブランドの概要に始まり、父であるローラン・フェリエ氏がブランドを設立するまでのストーリーやアイデンティティが語られたほか、クリスチャン氏本人がロジェ・デュブイを経て父のブランドに参画することになった経緯についても明らかにした。そして何より参加者にとって興味深かったのは、タイムピースの詳細な解説だろう。デビュー作となった「ガレ クラシック・トゥールビヨン」から23年の「グランドスポーツ・トゥールビヨン パシュート」まで、13年の間にリリースされた多彩なモデルがそれぞれの開発秘話を交えながら紹介され、参加者は熱心に耳を傾けていた。
“時計師たちが作りたかった時計”を実現したローラン・フェリエ
この日はクリスチャン氏に加えて、営業責任者を務めるロバート・ベイリー氏も来場した。ベイリー氏によって、現地工房の様子を収めた動画を交えながらアフターサービスの内容が説明されると、その後は広田がローラン・フェリエの魅力を語るプログラムがスタート。広田は「ローラン・フェリエ氏はかつてパテック フィリップにいたことから、何が良い品質かを理解しており、スモールメゾンでありながらも創設当初からクオリティが高かった」と説明。こうしたデザインや品質の優位性を説く一方でクリスチャン氏の才能にも触れ、話題はブランドの魅力であるムーブメントへと移った。
そのひとつがロングブレード・ラチェットだ。懐中時計に多く見られる古典的な装置だが、弱いバネ力で大きな動きが得られるため、角穴車への負担が少なくなり、さらに巻き上げの際には良好な感触が得られると説明。周囲のパーツに合わせて綺麗に磨き上げるには相当に手間のかかる装置ではあるものの、これを頑なに採用している点を讃えた。
普通は見ることのない文字盤側の丁寧な仕上げについても言及し、その後はいよいよ、ローラン・フェリエの象徴とも呼べるナチュラル脱進機の話題に。マイクロローターを備えた自動巻きムーブメントでありながら72時間のロングパワーリザーブを実現する機構の特徴はもとより、現代を代表する時計師たちのサポートを得てナチュラル脱進機が採用されたことや、古典的な機構でありながらも新しい技術を駆使することによって長く製造されている事実など、開発時の労苦なども織り交ぜながらその魅力が存分に語られた。
広田は「時計のキャラクターに合ったデザイン、キャラクターに合った性能を与えられているのはローラン・フェリエの強みであり、そのムーブメントを設計したのがクリスチャン氏」であると強調。こうして作り上げられたユニークさや高い完成度、デザインを総合すると「ローラン・フェリエとはWatchmakers’ Dream──すなわち“時計師たちの作りたかった時計”を実現したもののひとつである」と力説し、プレゼンテーションを締め括った。
クオリティの高さを見て、触って実感したタッチ&フィール
ローラン・フェリエのタイムピースは、手作業を必要とする工程も多く、年間生産本数は400本強と、大手メゾンと比較すると決して多くはない。ゆえに現物を見られる機会が得にくいのだが、このイベントでは、そうした稀少性の高い作品が集まり、参加者がじっくりと手にすることのできる貴重な時間となった。
この日は、2023年発表の最新モデルとなる「グランドスポーツ・トゥールビヨン パシュート」や「クラシック マイクロローター エバーグリーン」をはじめ、「ガレ クラシック トゥールビヨン」「クラシック オリジン」「スポーツ・オート」「クラシック・トラベラー」などの現行モデルも用意。タッチ&フィールの時間には、すべての参加者がスイス産のワインとフィンガーフードを愉しみながら、なかなか目にすることのない時計を堪能していた。
なかでも、参加者にとって最も興味深かったのは「グランドスポーツ・トゥールビヨン パシュート」ではなかっただろうか。実物を手首に乗せてその造形やミニマルな表情を堪能していたのはもちろん、ムーブメントの仕上げをじっくりと観察したり、巻き上げの感触を楽しんだりするなど、愛好家が集まるイベントらしく、稀少性の高い新作モデルと真剣に向き合う姿が印象的だった。
また、タッチ&フィールの時間帯には参加者同士が時計談義に華を咲かせたのはもちろんのこと、クリスチャン氏やベイリー氏も会場内を回っていたため、参加者は彼らとの会話も大いに楽しんでいた。
クリスチャン氏と広田による熱いプレゼンテーションをはじめ、タッチ&フィールではその高いクオリティを実感できるなど、参加者にとっては非常に有意義なひと時となったことだろう。約3時間という限られた時間であったとはいえ、なかなかお目にかかれないタイムピースを手にできるのは時計愛好家にとって貴重な機会であり、一方のローラン・フェリエにとっても、ファンを拡充し、ブランドの発展へとつなげるための重要なタッチポイントであったことは間違いないだろう
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