セイコー5スポーツの新作、Ref.SBSA255を実機レビューする。本作は、セイコー5の「SNXSモデル」に着想を得て誕生したモデルだ。バーインデックスが並ぶダイアルや流線型のケースデザインを踏襲しつつ、全体的に大幅なブラッシュアップが加えられている。
Text & Photographs by Tsubasa Nojima
[2024年4月18日公開記事]
俺たちの“ファイブ”が帰ってきた!
セイコー5スポーツの新作Ref.SBSA255をひと目見た瞬間、ノスタルジックな感情が一気に湧き上がってきた。筆者が学生だった頃、セイコー5と言えば、日本へ逆輸入された実売1万円ほどの安価な機械式時計のことであった。当時、金銭的に余裕のなかった筆者は、上野アメ横の時計屋をいくつもはしごし、悩みぬいた末に1本のセイコー5を購入。それからの学生生活をともにしていたのだ。最後には友人に譲ったが、通学や部活動、就職活動でもその時計を使い続け、それなりに思い出を積み上げてきた相棒であった。
SBSA255は、まさにその逆輸入のセイコー5のひとつ、「SNXSモデル」のデザインをベースとしたモデルだ。バリエーションは3種類用意され、このほかにネイビーブルーダイアルのRef.SBSA253と、アイボリーダイアルのRef.SBSA257が存在する。発売は今年の5月だが、ひと足早く実機に触れる機会を得られたので、レビューを行いたい。
セイコー5スポーツの新シリーズ「SNXS」に属する「SBSA255」。マニアに根強い人気を誇る「SNXSモデル」を現代的にブラッシュアップしたモデルだ。なお、オリジナルモデルは今も流通している。自動巻き(Cal.4R36)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径37.4mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。5万3900円(税込み)。2024年5月10日(金)発売予定。
セイコーは本作のコンセプトとして、“EDC (Everyday Carry)=「日々持ち歩く相棒」”を掲げている。現行のセイコー5スポーツでは、ダイバーズスタイルの「SKX」シリーズと、ミリタリーなデザインを持つ「Field」シリーズがラインナップしている。スポーティなそれらと比べると、本作のデザインは、そのコンセプトを良く体現したものだと言えるだろう。
上品かつ視認性に長けたダイアル
SBSA255の外装には、オリジナルのセイコー5のそれとは隔世の感がある。ダイアル、ケース、ブレスレットと、そのどれもが上質に仕上げられている。中でも本作にエレガントな印象をもたらしているのは、グロッシーなブラックダイアルだろう。ツヤツヤとした質感が深みを生み、プリントされたロゴを際立たせている。
インデックスは、オリジナルを踏襲したバータイプだ。6時と9時位置は少し太く、12時位置はダブルとすることで、判読性を高めている。バトン型の時分針は、中央にホワイトを入れることで、ダイアルに埋没しないよう配慮されている。分針の先端が尖っていないため、瞬時に分単位の正確な時刻を知ることは難しいが、それなりの日差が許容されるムーブメントを搭載していることを考えれば、そこまで固執する必要はないだろう。
インデックスと時分針には、蓄光塗料が塗布されている。特にインデックスにはたっぷりと盛られている様子がダイアル越しにでもはっきりと分かる。筆者が少し気になったのは、この蓄光塗料がややクリーム色であることだ。ヴィンテージ感を出すために、こういった色味の蓄光塗料が用いられることは珍しくないが、オリジナルの仕様を考えればホワイトが妥当ではないかと考える。
3時位置にはデイリーユースに便利なデイデイト表示が配されている。曜日はバイリンガル仕様だ。
ダイアルの外周には、斜めに立ち上がったチャプターリングが配されている。ブラックのダイアルをホワイトのチャプターリングで囲むことによって凝縮感を生み、コンパクトな印象に仕上げている。
さらにアクセントとなっているのが、オレンジ色の秒針だ。1970年代のセイコー5スポーツで多用されていた意匠だが、ブラックとホワイトを基調とした落ち着きのあるカラーリングに、アクティブなテイストを添えている。
ダイアルを覆っているのは、カーブハードレックスガラスだ。光を受けた際の立体的な表情が、本作に高級感をもたらしている。
優雅なラインを描く“へびたま”ケース
オリジナルモデルで“へびたま”と呼ばれていたケースは、卵のような流線型のフォルムを持つ。ケースサイドからラグに向けて緩やかなカーブが伸び、ラグ先端が断ち切ったように落とされている。優美さと力強さの同居したデザインだ。
全体はサテン仕上げをメインとして、面取りが施されている。エッジはしっかりと立ち、特徴的なケースラインにメリハリを与えている。ベゼルはポリッシュ仕上げだ。
リュウズは4時半位置に配され、ケースに半ば埋め込まれている。このタイプのリュウズは、着用時に手首に干渉しにくい反面、操作性に難のある場合が少なくない。自動巻き時計が普及し始めてきた頃、手巻きに比べてリュウズに触れる機会が少ないことを強調すべく誕生した意匠だが、複数本の時計を使い回すことが珍しくない現代では、事情もまた違ってくる。では本作のリュウズの操作性が悪いのかと言えば、そうではない。ケース下部をえぐることで爪を差し込む隙間を作り、容易にリュウズを引き出すことができるのだ。実用性を考慮した心配りが感じられる。
ねじ込み式のケースバックは、シースルー仕様である。本作が搭載するのは、Cal.4R36だ。オリジナルが採用していたCal.7S26の基本設計を受け継ぎつつ、手巻き機構や秒針規制の追加等、実用性をさらに向上させたムーブメントである。素っ気ない見た目ではあるものの、信頼性は抜群だ。
ブレスレットは、価格帯を考えれば素晴らしい出来栄えである。安価なブレスレットでは、動かす度にキイキイ、カシャカシャと音を立てたり、コマの可動域が狭かったりすることも珍しくない。しかし本作のブレスレットは、不快な音を立てることも動きが渋いこともない。弓カンと3連タイプのコマは、全てがステンレススティール無垢。これによって適度な重量感が生まれ、コマに滑らかな動きをもたらしている。サテン仕上げに統一された半円形のコマは、見た目の立体感も高い。3つ折れ式のクラスプは、プッシュボタンを押下することで開放できる。展開されたプレートはペラペラだが、畳んでしまえば問題ない。
小ぶりなサイズは、腕乗りも良し
手首に載せると、少しゴロゴロとした感触がある。ケースの厚みは12.5mmと、特段厚い訳ではないが、ケースバックが少し張り出したような形状であるため、恐らく重心がやや高めになっているのだろう。とはいえ、ブレスレットのしっとりとした肌触りも手伝って、長時間の着用でもストレスを感じることはなかった。
直径37.4mmのケースは、手首回り16.5cmの筆者にとってはちょうど良いサイズ感だ。昨今、小径化の流れがあると言われているものの、それでもまだまだメジャーとは言えない印象だ。本作は、手首の細い男性や女性にとっても魅力的な選択肢のひとつとなるはずだ。
ブラックダイアルとクリーム色の蓄光塗料による高いコントラストから推測できるように、視認性は非常に高い。暗所での発光量も十分あり、夜道での時間確認も簡単に行うことができる。欲を言えば、分針と秒針がマーカーまで届いていれば、判読性にも優れていただろう。真意は分からないが、これはチャプターリングも含めた組立効率を重視した結果なのかもしれない。
“日々持ち歩く相棒”のコンセプトを忠実に体現
冒頭の繰り返しになるが、本作のコンセプトは、“EDC (Everyday Carry)=「日々持ち歩く相棒」”である。取り回しやすいサイズのケースに快適な装着感のブレスレット、視認性の高いダイアルとデイデイト機能、そしてシンプルなデザインを兼ね備えていることを考えると、そのコンセプトは完璧に守られていると言っても過言ではないだろう。
それだけではなく、ここまでのクオリティを保ちながら手の届きやすい価格帯を実現していることも忘れてはならない。近年、時計の販売価格はこれまでにないスピードで右肩上がりの傾向にある。初めて機械式時計を手にしてみようとした人にとって、清水の舞台はひと昔前よりも遥か高く感じられるはずだ。
セイコー5スポーツはそんなとき、最初の一歩にふさわしい選択肢となり得る。頑丈で防水性が高く着用時のストレスが少ない、ネガティブな要素が排除された本作は、かつて筆者がセイコー5で体験したように、機械式時計と向き合うという楽しみを教えてくれることだろう。セイコー5スポーツはこれからも、多くの人々に機械式時計の魅力を伝え続け、時計文化の継承に対し、大きな貢献を果たしていくはずだ。
蛇足だが誤解のないように付け加えると、それなりに時計に接してきた人も十分に楽しめる。少なくとも筆者は本作を着けてワクワクが止まらなかったし、他のカラーバリエーションも早く見てみたいと思う。
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