時計はステータス性が問われがちなアイテムだ。それゆえに選び出しにバイアスが掛かってしまうことがある。しかし、「自分は一体何のために時計を着けるのか」をしっかり真っ正面から自問自答すれば、おのずと道は見えてくる。その答えは人それぞれ異なるに違いない。しかし自動巻きの本格ダイバーズウォッチは、真摯に時計選びを考えたときに必ず候補に挙がる1本だ。中でもセイコー プロスペックスは、ジャストなスペックで人気を得ている大定番。目を背けようとしても背けられない、徹底して“リアル”を突き詰めた説得力を備えている。
セイコーにおけるダイバーズウォッチの原点を受け継ぐ「メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ」モデル。その人気モデルが防水性能やパワーリザーブ機能をスペックアップさせて登場。本作SBDC197には、信頼性の高い自動巻きCal.6R55を搭載している。自動巻き(Cal.6R55)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ13mm)。300m空気潜水用防水。17万6000円(税込み)。
Text & Photographs by Tsuyoshi Hasegawa
[2024年4月21日公開記事]
4年の熟成期間を経てさらにパワーアップ
今季登場したこのセイコー プロスペックス「メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ」Ref.SBDC197は、2020年に打ち出されたRef.SBDC101の発展型。前作のSBDC101に比べて、100mほど深い防水性能を持ち、パワーリザーブ約72時間と、約2時間多めのスタミナを獲得している。ちなみにこの空気潜水用300mという防水性能は、セイコーにおける空気潜水用ダイバーズウオッチでは、最高クラスの防水性。加えて、SBDC197の新しい特徴として、カレンダー表示の小窓を3時位置ではなく4-5時位置に配置しているところも見逃せない。
カレンダーの配置によりルミブライトが塗布されたインデックスが整然とサークル状に並び、シンメトリーなルックスを完成させている。もっと言うと、このカレンダーのディスクは文字盤と同色のブラックに白字のため、より存在感を薄めた印象。近年は時計好きの間で「カレンダー表示は不要」という声をよく耳にする。ひょっとしたらそういった意見を反映したアレンジなのかもしれない。どちらかというと自分もその派閥の末端構成員だが、こう控えめになってしまうと、それはそれで少し気掛かりになる……。
とりあえず時刻セッティングからインプレッションをスタートする。本格防水仕様ということもあって、SBDC197のリュウズは当然ながらねじ込み式だ。回転させて開放状態にするのだが、ねじ込むときに少し力を入れてしまうと、コレが固く締まって開けづらくなる。意外にちょっとした力の入れ具合で締まってしまうので注意が必要だ。再度開けるのに指紋をすり減らすことになるためである。これはリュウズの刻みをもう少し大きくすると解決するのだろうか……。
そしてリュウズ操作は、リュウズのロックを外した状態で主ゼンマイの巻き上げ、1段引きで日付調整、2段引きで時刻調整ができる。時刻調整時も巻き芯にガタつきはなく、安定して調整が行える建て付けである。ただし、それぞれの引き出し具合は少々繊細で、慣れないうちは引きすぎてしまうというミスが起こるかもしれない。例えば日付を調整しようとして、時刻を動かしてしまうなど。もちろん慣れてしまえば、問題ないレベルだ。
使うことで実感する、堅実な作りがもたらす安心感
ブレスレットは、重量ある時計本体をしっかり支えるための、厚みを備えた3連コマ。確実に組み付けられているものの、コマが適正なコンパクトさゆえ装着感に硬さはない。2重ロックのバックルは操作も容易。ノールックにてロックの解除が行える。堅牢な仕立ては頼もしさを感じさせるが、装着したままPC作業をするとなると、ややバックルの厚みが気にはなる。ダイビングスケールを与えられたベゼルは逆回転防止式。適度なクリック感を持ちつつ、非常に軽い回し心地であるのが印象的。
文字盤の視認性はさすが熟成のダイバーズだけあって、文句はなし。ラッカー仕上げのダイアルは“盤”の存在を感じさせないほどに繊細でムラのないマット仕上げ。光線の強弱にかかわらず時刻確認がしやすい仕上がりとなっている。
さて自分は、常々1本だけ時計を持つなら自動巻きのSSケースダイバーズが良いだろうと考えている。それは現代的な服装全般にマッチしつつ(ときに男らしさを盛り上げてくれながら)、しかも適度に頑丈であり水濡れにも不安なし。また頻繁に巻き上げる必要もなく、サッと便利に使えるところもリコメンドする要因だ。そういう意味でこのSBDC197はまさにパーフェクト。金額もアンダー18万円というから実に凄い(カタログを見て、一瞬見直すほどのお値段)。もし時計ビギナーの若い人に「1本買うとしたらどれがオススメですか?」と聞かれたら、間違いなくこの1本はリコメンドリストに入るに違いない。
ムリに問題点を挙げるとするなら、重いことであろうか。常に昔のドレスウォッチなど、軽い時計ばかり身に着けている自分にとって、ブレス仕様の本格ダイバーズが持つ重みは無視できない。人によってはこの重量がネックとなるかも知れない。しかし僕の知り合いなどは、一旦プラチナ製のデイトナを手放しておきながら、昨今再び探していると言っている。その理由は「あの重みは、ちょっとクセになるから」とのこと。まあ、この点は人によるとしか言いようがない。
プライスも含め実に優秀といえるSBDC197。実用時計として理想のスペックを備えているが、ファッション的にはどうだろう。次はその辺をインプレッションしていきたい。まず、大人の男性といえばテイラードのジャケットスタイルである。昨今は銀行員すらもスーツを着ないというご時世。とはいえ20代を超えればジャケットスタイルで出掛けるシーンは少なくない。
テイラードのジャケット姿にアクティブさが備わる
今回インプレッションのお題となったSBDC197は、SSのケース&ブレスレットに黒文字盤のモデルだ。ベゼルは別として、アラビア数字のインデックスを持たない3針式という要素で言えば、非常にミニマルかつシック。予想通りネイビーのブレザースタイルに非常にマッチして見える。昨今はテイラードを軸とした装いも、スポーティな要素を随所に取り入れるのが一般的。会議があるような場合でも、ジャージー素材のジャケットを着用したり、ポロシャツやTシャツをインに着込んだりするのである。そういった意味でスポーティなダイバーズを取り入れるのは、センスあるドレスダウンと言えるだろう。
次にアウトドアにも使えるテック系のジップブルゾンと合わせてみた。これはもう言わずもがなだが、お手本どおりのマッチングだ。
スポーティブルゾンとの合わせはまさにパーフェクト
40mm径のダイバーズケースは非常にマッシブであり、画像を見ても分かる通り、装いのアクセントとしてばっちり効いている。個人的には効きすぎの感もあるが、その分アクセサリーなど装飾品の着け足しを必要としないので、むしろお得? な印象もある。SBDC197を着けることで腕回りがガッチリたくましく見える(自分だけか?)ところも好印象。
そしてこのSBDC197におけるファッション的なポテンシャルに対し、イチマツの不安を感じていたのが緩いニットやトレーナーなどの寛いだスタイルである。アクティブかつガッチリしておりストイックなダイバーズが、ソフトなオフスタイルにもうひとつマッチしないのでは? という懸念があった。そこで、いつもデイリーに着ているフードパーカと合わせて撮影してみた。
意外にリラックスしたカジュアルスタイルにもマッチする
両手時計の意図は「ほらね、ヴィンテージのナトーバンド時計のほうが、ちょっとイイ感じでしょ?」という狙い。確かにそのたくらみは当たっている部分もあるが、意外に新型ダイバーズが善戦しているのだ。パーカのプリントがブラックという偶然もあるが、これはこれでまったく悪くないコーデ。これ以上の意見は個人の好みに偏ってしまうので控えるが、SBDC197は緩いデイリースタイルにもマッチするのである。
検証してみてさらにSBDC197のパーフェクト性が実証された今回のインプレッション。この原稿を書いているときに、参考としてカタログデータをチェックしたのだが、その資料をよく見ると、この新型プロスペックスには「SEIKOブランド100周年記念のスペシャルエディション(Ref.SBDC199)」が同時にリリースされているという。そちらはチャコールグレーのダイアル&ベゼルに加え、ゴールドカラーをアクセントとしたモデル。ムーブメントはSBDC197と同様のCal.6R55を搭載している。ソリッドなSBDC197と比べて少しソフトに見える印象がポイントだ。筆者のようにユーズドアイテムや寛いだパーカ的なスタイルが多い人は、こちらのスペシャルエディションも候補に入れつつ選んでみると良いだろう。
https://www.webchronos.net/features/112342/
https://www.webchronos.net/features/107267/
https://www.webchronos.net/features/106788/