筆者にとって意外だったのが、エドックスの躍進である。かつてクラシカルなモデルばかりを製造していた同社は、「クラスワン」改め「クロノオフショア1」でスポーツモデルの世界に乗り出して成功を収めた。そんなエドックスが現在取り組むのは、過去のスポーツモデルからエッセンスを抽出することだ。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]
ネット上のアーカイブがもたらす歴史への回帰
エドックス取締役兼セールス&マーケティングディレクター。1968年、スイス生まれ。父はスウォッチ グループとラドーの取締役だったアーミン・オッツ。大学でビジネスとマーケティングを学んだ後、スイス陸軍学校に進学。卒業後、ブヘラの勤務を経て、オリスでセールスとマーケティングの責任者に就任。2005年以降、エドックスでセールスとマーケティングのディレクターとなる。スポーティー路線に大きく舵を切り直し、エドックスに躍進をもたらした。
「現在、売り上げの約8割はスポーツモデルが占めています。そして、約2割はよりクラシックな腕時計のセグメントに属しています。スポーツウォッチのセグメントは重要ですが、私たちはクラシックなセグメントを維持したいと考えています。というのも、トレンドは変わるかもしれませんから」。そう語るのは、同社のマーケティングディレクターであるクリスチャン・オッツだ。ちなみに、同社をスポーティーに振った理由は、間違いなくこのオッツにある。もっとも、彼の物言いは慎重だ。
「やはり市場が求めていたのだと思います。そして、私たちにはその歴史があった。例えば、1961年に発表されたデルフィン。これは私たちの140年の歴史で最も知られている腕時計です。エドックスとは、実際にはスポーティーな腕時計を作る会社だったのです。事実、私たちは、ダブル・Oリング技術の重要性を理解した初の時計会社のひとつでしたし、エドックスはスイス時計界の〝ウォーターチャンピオン〞というニックネームさえ持っていたのですから」
確かにここ数年、エドックスは過去のアーカイブをひもとき、巧みに現行モデルに落とし込むようになった。しかしオッツは、どうやってその価値に気づいたのか?
「もちろん我々はいくつかの古いエドックスのカタログを持っていますが、残念ながら、カタログの多くは1970年代初頭に破棄されてしまいました。でも、幸いなことにネットがある」。どういうことか?「エドックスのヴィンテージの腕時計を検索すると、すごい数のモデルが出てくるんですよ。私は月に2〜3回、ヴィンテージウォッチを探すようにしています。そのたびに、見たことのないモデルを見つけるのです。インターネットのおかげですよ」
では、エドックスの最終的なゴールはどこにあるのか?
「私たちの目標は、プレミアムな時計ブランドになることであり、主にスポーティーな腕時計を製造することです。1000から4000スイスフランのセグメントで、5本の指に入る時計ブランドを目指します。確かに、この分野の競争は極めて激しいです。しかし、私たちにはいくつかの強みがあります。ひとつは140年の歴史があること。もうひとつは、独立した家族経営のブランドであるということですね」
スイス軍のパラシュート部隊が製作を依頼したミリタリーウォッチの復刻版。エドックスの工場でデザイン画が発見されたことで、2019年に復活した。最新作はケース径が4mm縮小されたほか、微調整可能なアジャスター付きのバックルが備わる。自動巻き(Cal.EDOX 80/セリタSW200ベース)。25石。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径38mm、厚さ13.7mm)。300m防水。34万1000円(税込み)。
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