パテック フィリップでキャリアを重ねたローラン・フェリエは、自らの望む時計を作るべく、ローラン・フェリエという会社を興した。参画したのが、当時、ロジェ・デュブイに在籍していた、長男のクリスチャン・フェリエだった。このふたりは、どうやってローラン・フェリエのクリエーションを磨き上げていったのか? ふたりが語るキーワードとは「ハーモニー」と「バランス」である。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
“Watchmakers’ Dream”をかなえた秘密をローラン・フェリエ父子に問う
広田雅将:そもそも、どんなきっかけでローラン・フェリエという会社を興したのですか?
ローラン・フェリエ:会社を興したのは、パテック フィリップを辞めた数年後だね。もともとは友人のフランソワ・セルヴァナンとルマン24時間レースに出た時に、ノーチラスを贈ったのがきっかけだった。パテックは美しい。でも自分たちで時計を作りたいよねと。バカンスでするような話だったけど、会社を辞めるときにセルヴァナンが時計メーカーを興さないのかと聞いてきた。じゃあ会社を作ろう。息子にはムーブメントを手掛けてもらおうと考えた。
クリスチャン・フェリエ:私たちのファミリーは慎重なんです。しかし、父が会社を作ると聞いた際は、時が来たと思いましたね。もっともロングスパンの計画はまったくなかった。まず時計を作ろうと考えたんですよ。
広田雅将:どうやってサプライヤーを探したんですか?
ローラン・フェリエ:最初は断るサプライヤーもあった。でも金融危機が起こって、やっぱり作れますよと言われた(笑)。トップのサプライヤーのみを探したけれど、どこも注文を受けてくれた。私は長く時計業界にいたし、当時の生産本数は10本程度だったからね。ムーブメントはクリスチャンが担当してくれた。
クリスチャン・フェリエ:自分でムーブメントを設計して満足しても、改めて見るとよくできるなと思います。最初にパートナーになったミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニには豊富な経験がありました。彼らからはいろいろ学びましたね。
広田雅将:何が大事だと思いましたか?
ローラン・フェリエ:ハーモニーとバランス。裏側も表側もよく調和していて、裏側にネジがなく、ムーブメントとケースのバランスが取れていて、リュウズのサイズや巻き上げも柔らかい。そういった小さなディテールが集まった時計は、腕に着けるとフィットすると思うよ。
クリスチャン・フェリエ:父と話し合ったのは、バランスだけだったんです。例えば、ムーブメントのコハゼ。もともとは違う位置にあったけれど、水平に置くところから設計は始まりました。ひとつ水平に置いたら、他も揃える必要がある。ひとつだけが目立つのはダメなんです。
広田雅将:では、なぜそこまで突き詰めようと思ったのですか?
ローラン・フェリエ:ある程度の価格の時計だと、完璧でないといけない。初のトゥールビヨンは、クロノメーターコンクールで一番良い成績を得たいと思って完成させた。もっとも世界一と称しても価値は伝わらないだろう。食べる人にとっては、おいしいことだけが重要だから。ディテールが完璧だと喜んでもらえる。
広田雅将:でもローランさんは、パテックフィリップ時代、顧客と会う立場になかったですよね?
ローラン・フェリエ:そう、私自身はエンドユーザーと接点はなかった。でも、アンリ・スターン氏がそばにいたのが大きかったよ。顧客は良し悪しを言うけれど説明はできない。スターン氏はそれを教えてくれた。この経験が大きかった。今も新しい会社はいっぱいあるが、私のように経験ある人からアドバイスを受けていないのではないかな?
クリスチャン・フェリエ:クラシックな時計好きには受けるとは思いましたが、これほどになるとは思わなかった。でも、これだけは言えます。私たちの時計とは、私たちが本当に作りたかった時計なのだ、と。
ローラン・フェリエとは
「ローラン・フェリエ」とは、1968年に時計学校を卒業後、長年、パテック フィリップで研鑽を積んだ時計師ローラン・フェリエが2008年、同社を辞めた後、2009年に自身の名を冠して設立した独立系の高級時計ブランドである。
ローラン・フェリエ自身がパテック フィリップで学んだ古き良き古典的なウォッチメイキングに現代の技術を導入して、美観と精度を両立した独自の腕時計を生み出し、2010年のバーゼルワールドでデビューを果たす。
19世紀の懐中時計をルーツとした流麗かつ均整の取れたケースデザインと、控えめながらも品格漂う多様な文字盤の意匠、そして、細部に至るまで手作業で仕上げられた上質なムーブメントがかなえた、他に類を見ない個性によって、ローラン・フェリエ自身のバックグラウンドとともに、目利きの時計愛好家たちの目に留まり、瞬く間に、時計業界においてその名を轟かせ、独自の地位を築き、現在に至る。
ローラン・フェリエの2024年新作時計
2024年のローラン・フェリエの新作は、アニュアルカレンダーに月齢表示を加えた「クラシック・ムーン」である。ベースとなったのは、2018年発表のアニュアルカレンダー。リュウズによる早送りと逆戻しが可能なうえ、カレンダーの半瞬間送りを実現した大作だ。今年は、そこにローラン・フェリエらしい、審美的な月齢表示を加えてみせた。月齢表示のカバーは、なんとエナメル製である。
実用的なアニュアルカレンダーに、南北の月齢表示を加えたモデル。曜日と月表示の外周を四角く抜いたのは、水平を強調したデザインに合わせるため、そしてカレンダー回りに光を入れることで、視認性を高めるためとのこと。厚みが増すことで、カレ(小石)状の造形はより強調された。手巻き(Cal.LF126.02)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ12.9mm)。3気圧防水。1551万円(税込み)。
上のサテン仕上げのシルバーをブルーグレーのオパーリン文字盤に改めたのが本作。針は右モデルに同じく通称「210パラジウム」の18KWG製。加えてこのモデルは秒針を白に、デイト針をパステルブルーに彩色している。注目すべきは手作業で磨かれたケース。徹底して角を落としたケースは、ムーブメントに同じく、独特の質感を放つ。ヌバック製のストラップは、肌あたりを良くするため、ラバーではなく、裏側にアルカンターラが貼り込まれる。基本スペックは上に同じ。SSケース。1336万5000円(税込み)。
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