ティソのコネクテッドウォッチ最新作、「T-タッチ コネクト スポーツ」をレビューする。スポーツウォッチらしい佇まいにハイテク機能を備えた本作は、同社の哲学「Innovators by tradition(伝統に根ざし、伝統を打ち破るイノベーター)」を体現した意欲作であった。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2024年6月25日公開記事]
「PRX」だけじゃない! ティソの多彩なコレクション
早速だが、今回レビューを行うのはティソの「T-タッチ コネクト スポーツ」だ。一見してシンプルなスポーツウォッチである本作。実はサファイアクリスタルをタッチして操作することができるコネクテッドウォッチだ。1853年創業の老舗ブランドであるティソは、クラシックな「ジェントルマン」や「シュマン・デ・トゥレル」からスポーティな「PRX」や「シースター」に至るまで、コレクションを幅広く取りそろえているが、本作のような最先端のコネクテッドウォッチにも注力している。
今回レビューを行う「T-タッチ コネクト スポーツ」は、ティソが手掛けるコネクテッドウォッチだ。サファイアクリスタルへのタッチとプッシュボタンによって、さまざまな機能を使うことができる。光発電クォーツ。Tiケース(直径43mm、厚さ13.5mm)。5気圧防水。16万5000円(税込み)。
コネクテッドウォッチ、あるいはスマートウォッチを手掛けているのは、通信機器を取り扱うメーカーであることが多い。“ウォッチ”と名が付いているものの、それらはスマートフォンの通知の受信やアクティビティ管理、カレンダーの表示など、多岐にわたる機能を搭載しているため、ウォッチの領分である時刻表示は全体の機能の一部に過ぎず、内部には歯車よりも電子部品が満載されている。しかし、時計ブランドの中にもその新しいジャンルに飛び込むものがある。各社は、高級時計とハイテク技術の共存を図るべく、家電的な趣の強かったコネクテッドウォッチに自社のノウハウを注ぎ込み、高級時計として昇華させることに成功した。
1999年に世界初のタッチパネル式ウォッチを発表したティソは、その先駆けと言っても過言ではないだろう。当時はコネクテッドウォッチではなかったが、その後に進化を重ね、スマートフォンとの接続機能を獲得した。今回は、その最新作にスポットを当てていきたい。
操作はタッチパネル&プッシュボタン
最初に、簡単に操作系に触れておこう。コネクテッドウォッチであるからして、その操作系はそのまま時計の使い心地に影響する。“T-タッチ”という名前を持つことから分かるように、本作はサファイアクリスタルを指先で触れることで操作することが可能だ。構造としては、サファイアクリスタルの下に針があり、さらにその下のダイアルに液晶が収められている。そのため、指先が触れる部分とその操作結果が反映される部分には物理的な距離が伴うが、操作のしにくさや反応の遅滞は認められない。それどころか指先で表示が隠れにくいため、ストレスなく操作することが可能だ。
2時位置と4時位置にプッシュボタンが配されており、これを用いて操作することもできる。タイマーのセッティングなどの細かな操作やクロノグラフを使用する際は、こちらの方が馴染みやすいだろう。
シンプルなスポーツウォッチデザイン
コネクテッドウォッチやスマートウォッチは、機能が充実するほどアナログウォッチの形から離れ、逆に機能が絞られるほどより時計らしいデザインとなる傾向にある。例えば針は、軸から一定距離に存在する何かを指し示すことにしか使えないが、液晶であれば物理的な制約から解放され、表示の汎用性が一気に高まる。本作の見た目はアナログウォッチそのものだ。通常時では液晶の存在すら気付きにくく、シンプルな3針時計にしか見えない。果たしてこの見た目でどこまでの機能を果たしてくれるのか、詳細は後述するとして、まずは外観を見ていこう。
ダイアルのほとんどはソーラーセルだ。12時位置にはロゴが配され、6時位置には横長の液晶が埋め込まれている。蓄光塗料が塗布されたインデックスは、ミニッツマーカーの役割を果たすフランジに取り付けられ、ダイアルに対して浮遊しているような見た目を持つ。
時分針は先端に蓄光塗料を配し、中腹をオープンワークとしている。T字型のカウンターウェイトを備えた秒針は赤く彩られ、時計が可動状態であることをひと目で知らせてくれる。
ベゼルはセラミックス製。5分おきにバーまたは数字が刻まれ、ホワイトが流し込まれている。固定式のため、ダイバーズウォッチのように経過時間を計ることはできないが、スポーティな印象を高めてくれている。
ケースにはチタンが採用され、軽量で、耐食性や抗アレルギー性に優れるなど、日常的な使用に適した性質が備わっている。ケースのサイドや上面はサテン仕上げで統一され、エッジに面取りを加えることで輪郭をはっきりとさせている。流れるようなケースラインには引っ掛かりはない。ケースサイドに配されたスクエア型のプッシュボタンにも面取りが施され、指がかりへの配慮がなされている点には好感が持てる。ケースバックには、心拍数などの計測に用いるセンサー類と充電用のコネクタが配され、ダイアルのソーラーセルだけではなく家庭用電源からも動力を得ることが可能だ。
ブレスレットは、ケースと同じチタン製。3連タイプのコマによって構成され、中央の1列にはポリッシュ、両端はサテン仕上げが施されている。艶のあるセラミックス製のベゼルとブレスレットのポリッシュ部が呼応して高級感のある佇まいだ。バックルは3つ折れ式であり、プッシュボタンを押下することで開放できる。バックルにはもうひと組、小さなプッシュボタンが備わっているが、これはエクステンションを伸ばすためのもの。押下してブレスレットを引っ張ることで、段階的に最大で約18mmまで延長することができる。エクステンションを縮める際には、バックル内にブレスレットを押し込むだけだ。クイックリリース機能が採用されており、ブレスレットの付け根にあるレバーを爪で引くことで、簡単にケースから取り外すことが可能だ。別売りのラバーストラップに換装すれば、より軽快に使えることだろう。
長時間の着用にも耐える軽量なチタンケース
腕に通してみる。重厚な見た目もさることながら、軽快な装着感は長時間の着用にも耐えうるものだ。その最大の要因は、外装がチタン製であることだろう。一方で、歯車だけではなく、液晶や電子部品を内部に収めているにも関わらず、ケースのサイズを直径43mmに留めていることも評価したい。
ブラックのダイアルにホワイトのインデックスと時分針を組み合わせているため、視認性は高く、また蓄光塗料によって暗所でも確実に時刻を読み取ることができる。これが液晶だけであれば、眩しい太陽光の下では表示を読み取ることが難しくなる上に、常時点灯していようものならば、バッテリーはみるみる減っていってしまう。本作が基本的にソーラーセルだけで電力を賄えるのは、アナログの省電力性があってのことだろう。
ブレスレットの各コマは柔軟に動くため、腕馴染みも良い。一方で、エクステンションについては少し改善点があるように感じた。延長すると鋭いエッジが出現し、これが手首の内側に刺さって痛い。また、引き出されたエクステンションには柔軟性がないため、デスクワークの際には少し気になってしまうところだ。しかし公式の説明を見ると、これはダイバーエクステンションとのこと。本作はダイバーズウォッチではないが、例えばランニングをする際に、スポーツウェアの上から着用するなど、肌との間に何かが挟まれることを想定しているのかもしれない。
物理ボタンがもたらす快適な操作性
操作感は上々だ。どちらかのプッシュボタンを押下すると針が10時10分または1時50分を指すように退避し、6時位置の液晶が点灯する。時計が最もバランス良く見えると言われている位置に針を退避させるのは、何とも時計ブランドらしい。
まず表示されるのは、日付と曜日、そして歩数だ。そこから左右にスワイプするとクロノグラフ、アラーム、タイマーなどの各種機能の起動、通知の確認、Bluetooth、サウンド、バイブレーションのオンオフや各種設定のメニューが表示される。表示言語は日本語をはじめとする幅広い言語をサポートしている。メニューの遷移は、スワイプだけではなくプッシュボタンを使って行うことも可能だ。液晶自体が小さいため、それに伴って文字も小さめだが、表示が明るいため想像以上に読み取りやすい。ここから時刻表示に戻るためには、ふたつのプッシュボタンを同時に押すか、サファイアクリスタル全面を手のひらなどでタッチすれば良い。針が忙しく回転し、現在時刻を指し示す。
本作の優れた点は、物理的なボタンを有していることだろう。例えばクロノグラフを使う場合には、アナログウォッチと同じように2時位置のボタンでスタート/ストップ、4時位置のボタンでリセットを行う。タイマーにしても、時間の設定をボタンによって行うことが可能だ。タッチによる操作は便利だが、スワイプする方向がうまく認識されず、意図した操作ができない場合もある。そうした些細な不便の積み重なりは、日を増すごとに大きなストレスとなる。本作であればその心配は不要だ。
アクティビティの管理も可能だ。時刻表示の画面からプッシュボタンを一度押下し、日付や曜日が表示された状態で下に向かってスワイプすると、ハイキング、ランニング、サイクリング、ワークアウトのアイコンが表示される。後は実行したいものをタッチするだけだ。
アクティビティの結果やクロノグラフのログなどは、専用のスマートフォンアプリ「T-Connect」で確認することが可能だ。日ごとの歩数や消費カロリーが分かりやすく表示されるため、健康管理も捗ることだろう。
まさに“良いとこ取り”なコネクテッドウォッチ
突然だが、筆者は普段スマートウォッチを使用している。それも左腕にアナログウォッチ、右腕にスマートウォッチという、いわゆるダブルリスティングだ。スマートウォッチがあれば、大事な通知を逃してしまうことは少なくなるし、タイマーやアラームなどの機能は日常生活を便利にしてくれる。ただ一方で、時計としてまともに使おうとすると不便に感じることも出てくる。その最たるものは、バッテリーの持ちの悪さだ。筆者が使っているモデルは、一般的な使い方では数日間持続するが、時刻をいつでも確認できるように液晶を常時点灯にしていると、1日しか持たない。もちろん、この使い方が推奨されないであろうことは理解しているが、時刻を確認するためにワンアクションが必要なのは、あまりにも煩わしい。
その点、今回レビューしたT-タッチ コネクト スポーツは理想的だ。スマートフォンと連携できるさまざまな機能が搭載されているにもかかわらず、いつでも時刻が表示されており、かつ満充電で数カ月も動力が持続する。しかもケーブル経由での充電のほかに光発電機能も搭載され、使用しながら動力を賄うことができるのだ。
セラミックスとチタンの高級感ある外装に、スポーツウォッチらしいデザインが与えられている点も魅力だ。これは、コネクテッドウォッチやスマートウォッチに興味があるが、チープな見た目に二の足を踏んでいた人にとってベストな選択肢になるに違いない。
ここまで高級時計らしいと、筆者としてはダブルリスティングのしにくさに懸念を感じたが、その考えは瞬時に霧散した。そもそもアナログウォッチとスマートウォッチの良いとこ取りである本作ならば、1本だけで十分な満足感と機能性を得られるからだ。
https://www.webchronos.net/news/115693/
https://www.webchronos.net/features/116112/
https://www.webchronos.net/features/115357/