ブライトリングのアイコンである「クロノマット」。AIR、LAND、SEAに対応する万能スポーツウォッチとして展開されている本コレクションは、近年のクロノグラフ人気に大きく貢献した存在といっても過言ではない。1984年の登場から現在に至るまで、多面的な進化を遂げてきた本コレクションについて、その魅力や歴史を深掘りしたい。
Text by Kento Nii
[2024年7月11日公開記事]
ブライトリング「クロノマット」とは?
ブライトリングの「クロノマット」は、機能性や耐久性、デザイン性の高さによって、さまざまなシーンに対応するオールラウンダーウォッチだ。バリエーションが豊富で、ツール感のあるクロノグラフモデルから女性に向けたきらびやかな3針モデルに至るまでがそろい、現在の同ブランドの中核を担うコレクションとして展開されている。
「クロノマット」という名前の初出は1942年のこと。世界で初めて回転計算尺を備えた、まごうことなきツールウォッチとして誕生した。そして、ブランドが100周年を迎えた84年に、より実用性を重視したクロノグラフウォッチとしてその名を復活させた。
ファーストモデルとして販売されたのは1984年発表の製品だが、その前年にあたる83年に製造され、イタリア空軍に納品されたクロノグラフウォッチがこの写真のモデルだ。
特筆すべきは、このモデルの製作時に、イタリア空軍のアクロバットチーム「フレッチェ・トリコローリ」をアドバイザーとして迎え入れたことだ。結果生まれたクロノマットは、袖口に引っ掛からないラグや、グローブを着けたままでも操作しやすいよう、4つのライダータブを備えた回転ベゼルや大きなリュウズなど、プロフェッショナルの“実戦向き”の造形を多く備えていた。
プロのアドバイスを取り入れつつ、かつクロノマットが成功したのは、ルイジ・マカルーソによるディレクションも大きく影響したとされている。83年のプロトタイプ製造時、ブライトリングの経営を引き継いでいたアーネスト・シュナイダーがデザインを手掛けたが、ルイジをデザインアドバイザーに据えた・彼はレザーストラップの豊富なバリエーション展開を提案し、ツールとしての完成度を追求したクロノマットに、ファッショナブルな一面をもたらしたのだ。
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こうして、優秀なアドバイザーの指摘が反映されたクロノマットは、計時機器としての腕時計へのニーズと、ファッションアイテムとしてのニーズ、両方を満たすアイテムとして新生を果たした。結果、クロノマットは多くのユーザーの目に留まり、クォーツ式時計の台頭で低迷していた機械式クロノグラフウォッチの人気復活に大きく貢献したのである。
クロノマットはその後もコレクションを拡充しつつ、着実な進化を遂げていく。とりわけ2009年にリリースされた「クロノマット44」の存在感は、数ある同ブランドのコレクションの中でも、輝きを放っている。現在もブライトリングの基幹ムーブメントとして用いられている(そして改良が続けられている)自社開発クロノグラフムーブメントのCal.01を、初めて搭載したモデルであったためだ。
さらに2017年、ブライトリングがジョージ・カーン体制へ移行したことで、次なる転換点を迎えた。各コレクションが再編され、AIR、LAND、SEAそれぞれのフィールドに合わせたコンセプトの鮮明化が行われる中、クロノマットも20年に刷新。初代の42mm径ケースやルーローブレスレットが再び採用されるなど、意匠を中心に、大きな変更が加えられた。
現在では豊富なラインナップが展開されつつ、「AIR、LAND、SEAそれぞれのフィールドに対応できるエレガントな万能ウォッチ」というアイデンティティを獲得するに至っている。
自社製自動巻きクロノグラフムーブメントCal.01
クロノマットがブライトリングの代表的なコレクションと認識されている理由には、自社製自動巻きクロノグラフムーブメント「Cal.01」を、同ブランドで初めて搭載したこともあげられるだろう。
それまでのクロノマットには、ETA7750もしくはETA7750を改良したCal.13が採用されていた。ETA7750は言わずもがな、クロノグラフムーブメントの傑作機である。大ぶりのテンワが生み出す良好な計時性能と、生産性の高さを特徴とし、多くのブランドのクロノグラフのベースに採用されていることから、今なお強い存在感を放つムーブメントといえる。
そんなムーブメントを経て、ブライトリングが09年、満を持して「クロノマット44」に搭載したのが同ブランド初の自社開発クロノグラフムーブメントCal.01だ。垂直クラッチやコラムホイールを採用し、パワーリザーブもETA7750より28時間ほど長い約70時間を有した高性能ムーブメントだ。また、カレンダーの禁止操作時間帯を廃したことも、特筆すべき点だ。もちろんC.O.S.C.認定でもある。
この自社製ムーブメントが初めて搭載されたという事実こそが、クロノマットのアイコニックコレクションとしての位置付けをより確固たるものにしたと言えるだろう。なお、現在では「アベンジャー」などほかのコレクションにも採用されているCal.01だが、今もなお改良が続けられており、ブライトリングの技術力を象徴する存在となっている。
クロノマットの現行モデルを紹介
Cal.01の採用や2020年の刷新を経て、いっそう時計市場での存在感を高めるクロノマット。先述の通り、機能、素材、カラーなど、多彩なバリエーションが展開されている。ここでは、現行コレクションの中から、代表的な3本をピックアップして紹介する。
「クロノマット B01 42」
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径42mm、厚さ15.1mm)。200m防水。163万3500円(税込み)。
Cal.01を搭載する現行のクロノマットの中で“定番”なスタイルを備えつつも、チタン素材を用いることで軽量になった1本。一目でクロノマットとわかるライダータブやルーローブレスレットなど、2020年の刷新を経て復活した意匠を特徴としているが、ずっしりと重いクロノマットをイメージしているユーザーにとっては、初めて本作を持つと、驚きを覚えるかもしれない。
ダイアルはアンスラサイトカラーで、シルバートーンがブラックのインダイアルで強調されている。際立つクールなライトブルーのクロノグラフ針は判読性にも優れている。モダンとクラシックが巧みにマッチしたその表情からは、クロノマットの積み上げられてきた歴史を実感できるに違いない。王道的な魅力にあふれた1本だ。
「スーパー クロノマット B01 44」
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.4mm)。200m防水。122万6500円(税込み)。
スーパークロノマットは、21年にクロノマットの新バリエーションとして登場した。通常のクロノマットとの最たる違いはベゼルのセラミックインサートの有無。このベゼルを搭載することで、本作は黒が占める割合が増え、現代的なスポーツモデルらしい精悍さと、それに見合った耐傷性を備えている。さらに操作部も変更されており、特にプッシャーについてはねじ込み式となっており、機密性を確保するとともに、誤作動を防げるようになっている。
ケースサイズは先代機を思わせる44mmを採用。マッシブな見た目だが厚みは14.4mmに抑えられている。通常のクロノマットとは一味違う、モダンなエッセンスが強調された1本といえるだろう。なおストラップには、ルーローブレスレットを模したラバーストラップが付けられている。
「クロノマット オートマチック GMT 40」
自動巻き(Cal.32)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。200m防水。79万2000円(税込み)。
現行のクロノマットには、クロノグラフだけでなくGMTモデルも登場している。中でも本作は、ファッショナブルなグリーンのサンレイダイアルが目を引く1本だ。フィールドを選ばない万能スポーツウォッチという哲学が活かされており、200m防水がしっかりと備わっている。また、オニオン型のリュウズや4つのライダータブ、ルーローブレスレットといった象徴的な意匠も継承されている。
ムーブメントにはC.O.S.C.認定の自動巻きムーブメントCal.32を搭載。パワーリザーブは約42時間だ。なお、22年に登場した本作だが、直径40mmというサイズ感は、それまでのクロノマットに新たな選択肢を加えるものであった。
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