ハミルトン「ジャズマスター パフォーマー オート」を着用レビュー。最初に本作の存在を知った時は、「シンプルなモデルだな」といった感想以外を持たなかった。しかし実際に使ってみることで、本作のさまざまなポテンシャルに気付かされたとともに、“レディース機械式時計”という市場に新たな一石を投じるモデルであることを実感した。
Text & Photographs by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年8月6日公開記事]
ハミルトン「ジャズマスター」コレクションに追加された新作モデル!
ミリタリーウォッチの「カーキ」コレクションや、1957年に誕生した電池式腕時計から系譜を引く「ベンチュラ」コレクションなど、アイコニックな意匠を備えたモデルを展開するハミルトン。各コレクションで、さまざまなバリエーションが用意されているが、中でも多彩さが群を抜いているのが「ジャズマスター」である。
ジャズマスターはハミルトンによって「ハミルトンの長きに渡る歴史と伝統を受け継」ぎ、かつ「日々の生活に洗練を求める人向けの端正なデザインを備えてい」ると定義されている。この定義の一方でデザインや機能、カラーバリエーションは多岐にわたっており、ハミルトンの公式ホームページでそのモデルを追うだけで、結構長い時間が過ぎていることに気付く。
今回着用レビューするのは、このジャズマスターのうち、2024年にコレクションに加わった「ジャズマスター パフォーマー オート」の新作だ。
2024年、「ジャズマスター パフォーマー」には、34mm径、38mm径、42mm径モデルそれぞれに新作モデルが加わった。今回着用レビューするのは、34mm径の「ジャズマスター パフォーマー オート」。4色の新バリエーションのうち、シルバー文字盤のRef.H36105150だ。自動巻き(Cal.H-10)。25石。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径34mm、厚さ11.18mm)。10気圧防水。各16万9400円(税込み)。
なお、このコレクション自体が2023年に発表されたばかりで、当時から11モデルと、たくさんのバリエーションが打ち出されたのだが、今年も新しいカラーを備えて、さらにモデルが追加された形だ。
これだけ選択肢が豊富だと、お気に入りの1本を見つけやすいだろう。一目惚れしたモデルを買うもよし、だ。しかし本作はデザインに留まらないポテンシャルを備えている。使うことで実感したそのポテンシャルを、「レディース機械式時計」というポジションからひもといていきたい。
レディース機械式時計にうれしいCal.H-10の存在
機械式時計は、巻き上げられた主ゼンマイがほどける力を利用して動く時計のことだ。対して電池を動力源とする時計のことをクォーツ式という。さらに機械式時計はこの主ゼンマイを、リュウズを使って手で巻き上げる手巻き式と、腕の動きを利用して自動で巻き上げる自動巻き式とに分けることができる。なお、現行モデルでラインナップされている機械式腕時計は、多くが自動巻きだ。
この機械式時計市場、メンズと比べて、レディースはまだまだ小規模だ。薄く小さくしやすいクォーツ式の方がレディース向けの意匠に向いていたり、主ゼンマイを巻かなくて済む分、扱いやすかったりするなどの理由が考えられる。
こういった背景から、レディースの機械式時計というと、高価格帯のブランドのコレクションが主戦場となってくる。もちろん、もっとリーズナブルな価格帯で機械式時計を販売するブランドも存在するが、やはりクォーツやソーラーウォッチに比べると選択肢は少ない。また、金額の多寡にかかわらず、メンズ向けよりもスペックダウン(特にパワーリザーブが短くなる傾向にある)しているモデルも見受けられる。
そんな中で本作は、こういったレディース機械式時計の課題を解決する1本になると気付いた。ハミルトンの公式ホームページでは、本作は男性の手首が着用モデルとして掲載されている。しかし、34mm径はボーイズサイズに分類できることに加えて、カラーによっては同サイズのモデルがレディースに分類されていることから、今回は女性である私が着用し、レディース機械式時計の新しい選択肢としての気付きを得たのだ。
というのも、本作は16万9400円(税込み)という手の届きやすい価格で展開されていることに加えて、女性も装いやすい小径ケースでありながら、メンズ向けモデルにも搭載されている自動巻きムーブメントCal.H-10が採用されているなど、高い実用性も備えているのだ。
このCal.H-10は、ETA2824-2という汎用機をベースに、ハミルトンが改良したムーブメントだ。ETA2824-2はもともとパワーリザーブ(主ゼンマイの持続時間のこと)が約42時間なのだが、ハミルトンはテンプの振動数を落とすことで約80時間への延長を実現。現在、3日間程度のパワーリザーブはメンズウォッチでは主流となりつつある。しかし前述の通り、小さなサイズのレディース向け製品では、2日程度に留まるモデルが多い。そんな中でH-10によって、約80時間の主ゼンマイの持続時間を実現している本作は、とても実用性に優れていると言えるのだ。
本作を着用する中で、この利便性の恩恵を得た。レビュー期間は1週間とはいえ、土日は出掛けなかったため、基本的には本作を着けなかった。しかし月曜日の朝、本作を手に取った時にまだ針が動いていて、時刻合わせの必要がなかったというのは、とてもありがたかったのだ。ただし、時計を外している間に-20秒程度、時間がズレていたため、リュウズを使って改めて時刻合わせは行った(普段は20秒程度のズレであれば気にしないが、今回は着用レビューなのでキッチリ合わせた)。もっとも、ずっと着用していた平日での24時間経過時点での日差は-1秒、48時間経過時点で-2秒だったので、本作はローターによって主ゼンマイがよく巻き上がり、安定した精度を維持できていたことが分かる。ちなみにリュウズはねじ込み式。リュウズは私のジェルネイルを施した長い爪でもつまみやすく、針操作もスムーズだった。
もうひとつ、H-10の美点がある。Nivachron™を採用したヒゲゼンマイを有しているという点だ。このNivachron™はスウォッチ グループ傘下のニヴァロックス社が開発した合金で、優れた耐磁性能や耐衝撃性、対温度性能を誇るのだ。機械式時計の故障のひとつに「磁気帯び」がある。文字通り、ムーブメントのパーツが磁気を帯びてしまって、精度が狂ってしまう現象だ。磁気帯び対策としては腕時計を磁気に近付けない、というのが一番なのだが、スマートフォンのスピーカー部分など、現代は身の回りに磁気発生源があふれている。特に女性のバッグの留め具はマグネットを使ったタイプが多く、気付いたら磁気帯びしてしまったというパターンも耳にする。そんな中、耐磁性能を備えた機械式時計は、日常使いの強い味方になってくれることだろう。
よっぽどの時計好きでなければ、ムーブメントの存在が購買理由に大きな影響を及ぼすことはないだろう。しかし本作のように、メンズでは普及している実用的なムーブメントが小径ケースに搭載されることで、女性にとっても「使える機械式時計」としてのベネフィットをもたらしているのだ。
シンプルな外装も使いやすくて◎
意匠だけ見ると、本作はとてもシンプルだ。サンレイ仕上げが施されたシルバー文字盤はポリッシュ加工の針、インデックスと合わせて角度を変えるとキラリと輝き、そのさまは存在感があるものの、派手というわけではない。機能もミニマルで、3針のみのノンデイト。ベゼルの5分刻みに印字されたスケールがハミルトンらしいツール感を備えているのが、本作の唯一にして、最も強いキャラクターではないだろうか。こういったミニマルな腕時計というのは、シーンを問わずに身に着けやすいのがありがたい。
視認性も良好だ。特に秒針が外周のミニッツサークルまでしっかりと届いており、秒単位での時刻の読み取りに難はない。また、シルバーダイアルにメタル調の針は、太陽などの強い光源下で埋没してしまい、見づらさを感じさせることがあるが、本作は針が太く、またポリッシュの光沢が強いため、光源による視認性の違いは感じられなかった。
外装についても、記しておきたい。
ステンレススティール製のケースはサテン仕上げを基調としている一方で、ケース、ブレスレットの稜線はポリッシュ仕上げが与えられた。一見するとベーシックなスポーツウォッチのスタイルである。このベーシックさも、扱いやすさにひと役買っている。とはいえ繰り返し記しているように、ジャズマスター パフォーマーだけ見ても、バリエーションが豊富。「デザインにアクセントがほしい」といったニーズを満たすモデルも用意されている。公式サイトで選び、また購入できるので、ぜひのぞいてみてほしい。
なお、サテン仕上げは傷が目立ちづらいという利点も備えている。100mの防水性と相まって、オールシーズンでガシガシ使えるレディース機械式時計とも言えるのだ。
ただし、手首ぴったりのサイズ感ではなかったため、時計が少し手首から動いてしまうのは気になった。今回はハミルトンの技術者に、私の手首回り14.7cmに合うよう調整してもらい、内寸は15cmとなった。この調整後のブレスレットが若干緩く、しかしコマ自体がひとつ6〜8mm程度あるため、1コマ外すとキツくなってしまうのだ。公式ホームページでフルにコマがそろっている状態の製品を見ると、12時側・6時側にそれぞれ小さいコマがあったため、この小さいコマで微調整は可能だっただろう。そのため必ずしも時計の問題だけではないのだが、コマを外した後でも重量が108g(実測値)あったため、今回のように少し緩いだけで装着に慣れるまでに時間がかかった。
バックルは観音式に両開きするタイプで、微調整機構は付いていない。決して薄型ではないものの、デスクワーク中に邪魔になるほどではなかった。
もちろん本作よりも高価格帯のレディース機械式時計には、優れた実用性や優美な意匠を備えたモデルが多数存在する。しかし本作の魅力は、これまで紹介してきた実用性、利便性を、ケース直径34mmというキャンバスで実現したうえ、定価16万9400円(税込み)で提供しているというところにある。この良心的な価格設定は、円安や世界的なインフレなどが影響して、値上がり続けるスイス時計の中で、稀有な存在だ。「ちょっと良い腕時計が欲しいな」というニーズを、絶妙に満たしてくれる機械式時計なのだ。
男女問わずおすすめしたい、実用的な機械式時計!
ハミルトンの「ジャズマスター パフォーマー オート」の、34mm径モデルであるRef.H36105150を着用レビューした。
「選択肢が少ない」「高額なモデルしか選択肢にない」「スペックが物足りない」など、個人的には強く感じていたレディース機械式時計の課題を解決したうえ、良心的な価格設定を崩さない本作。ハミルトンは大々的にこの魅力を宣伝していないように見受けられるが、ぜひこれから機械式時計を購入しようと思っている女性には知ってほしいモデルである。
本作はボーイズサイズに分類されるため、男性も小ぶりなケースが好みであれば着用できる。そのため、ペアウォッチやシェアウォッチという使い方に好適な点も、特筆したい。
なお、次週は同時発売された「ジャズマスター パフォーマー オート クロノ」の着用レビューを公開予定だ。このクロノグラフモデルとペアで取り合わせても楽しいだろう。乞うご期待!
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