1961年、グランドセイコーに次ぐセイコーの高級機械式腕時計として誕生したキングセイコー。この誕生から60年を迎えた2021年にはデザインを復刻したモデルが発売され、翌2022年にはブランドとして正式に復活を果たした。そんなキングセイコーは、上質な腕時計を手の届きやすい価格で提供しているブランドであり、若手のビジネスパーソンにもおすすめだ。本記事ではそんなキングセイコーの歴史をひもときつつ、現行品からセレクトした5つのモデルの魅力に迫る。
Text by Miyuki Ueno
[2024年10月3日公開記事]
60年以上にわたる歴史を持つキングセイコー
1961年に誕生し、一時的に休眠していたものの、2021年に復刻を果たしたキングセイコーとはどのような腕時計なのだろうか? その歴史を紹介する。
1961年キングセイコーの誕生から2022年の復活まで
1960年、国産腕時計の最高峰を志向して登場したグランドセイコー。キングセイコーは、それに次ぐセイコーの高級機械式腕時計ブランドというポジションで、翌1961年に誕生した。ケースにはいち早くステンレススティールを採用し、精度を保証する検査証明書が付属しているなど、性能において、時代の先を行く腕時計であった。
その後、1965年に発表された2代目キングセイコー“KSK”は、1961年発売の初代モデルには搭載されていなかった防水性能や、秒針を止めて時刻合わせが可能な秒針停止装置を備え、より実用的なモデルに進化した。
キングセイコーは、当時としては先進的な性能とデザイン性を兼ね備えつつも、手の届きやすい価格で販売するという高級腕時計の新たな在り方を示し、1960年代後半〜1970年代にかけて、国産機械式腕時計の進化をリードした存在となった。
そして時代は令和となった2021年。セイコー創業140周年を記念して、2代目キングセイコー“KSK”復刻デザインの、Ref.SDKA001が3000本限定で発売された。さらに翌2022年、キングセイコーはブランドとして本格的な復活を果たすこととなる。キングセイコーらしいオリジナルの意匠は受け継ぎつつも、現代の技術によっていっそう高い性能を伴って、時計市場に蘇ったのである。
2020年、セイコー創業140周年の節目に、2代目キングセイコー“KSK”の意匠を再現して登場したモデル。ザラツ研磨が施された太いラグやライターカットをあしらった12時位置のインデックス、ケースバックの「盾」をモチーフとしたクレストマークのメダリオンなど、オリジナルを忠実に復刻させつつ、性能は現代のセイコーにふさわしく向上した。自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径38.1mm、厚さ11.4mm)。5気圧防水。世界限定3000本。
上質かつストーリーのあるキングセイコーの現行モデルを紹介!
セイコーの歴史と最新の技術が共存するキングセイコーは、高級感あふれる上品な佇まいでありながら、価格は20〜40万円台という手の届きやすい価格帯となっている。キングセイコーは、若手のビジネスパーソンが“大人の腕時計”のファーストステップとして手にするのにも好適な腕時計だと言えるだろう。
本記事では、2022年のブランド復活以降に発表されたキングセイコーの中から5本をピックアップした。ビジネスシーンで使いやすい定番モデルから、和の雰囲気が漂う個性的なモデルまで、キングセイコーの多彩な魅力をぜひ感じてほしい。
キングセイコー「KSK」Ref.SDKS007
前述の通り、2022年に約60年ぶりにレギュラーモデルとして復活を果たしたキングセイコー。その復活を飾ったモデルのひとつが、シックなブラウンの文字盤を備えたRef.SDKS007である。本モデルのベースとなったのも、1965年に発売された2代目キングセイコー“KSK”だ。
直径37mmのケースは、オリジナルサイズの36.7mmに近いものとなっており、1960年代当時のコンパクトなサイズ感が息づいている。視認性や耐傷性に優れたボックス型のサファイアクリスタルガラスや、KSKの特徴でもある太めのラグを備えており、低重心化によって心地よい装着性を実現するなど、優れた実用性を誇っている。また、ケースも特徴的だ。多面カットが施されており、さらにこの面は鏡面仕上げとヘアライン仕上げを組み合わせたシャープな質感が備わる。クラシカルな意匠の中に今っぽさを感じさせるのだ。
同じく多面カットを施した立体的なインデックスが、12時位置のみライターカットを施したものになっている点や、太く長い針といったディテールが本作にしっかりと受け継がれている点にも注目したい。随所に凛々しさを感じる意匠は、1965年に誕生したモデル以来、健在である。
ムーブメントは、自動巻きCal.6R31を搭載。本作ではカレンダー機能を省くことによって、オリジナルのKSKと同様のシンプルなダイアルを再現した。一方で、約70時間の実用的なパワーリザーブや10気圧防水を備え、現代のライフスタイルに寄り添った1本となっている。
自動巻き(Cal.6R31)。24石。日差+25~-15秒。パワーリザーブ約70時間。2万1600振動/時。SSケース(直径37.0mm、厚さ12.1mm)。10気圧防水。22万円(税込み)。
キングセイコー「KSK」Ref.SDKA005
2023年7月に発売されたRef.SDKA005もまた、2代目キングセイコー“KSK”のデザインを継承する。さらに、そこに2020年の復刻モデルでも採用された薄型自動巻きムーブメントCal.6L35が、レギュラーモデルとして初めて搭載されたのが本作である。1965年当時のオリジナルモデルのムーブメントは手巻きであったが、本作では自動巻きムーブメントを採用したことにより、手首に着用し続けていれば主ゼンマイをリュウズを使って手で巻き上げる必要がなく、日常使用における利便性が向上したと言える。
なお、セイコーの現行ムーブメントで最薄であるCal.6L35は、薄型化に伴い、部品ごとに材料や硬度などを再検討しており、ただ薄いだけではなく耐久性にも優れていることが特徴だ。また、日差+15〜-10秒と、キングセイコーに採用されているムーブメントの中では最も高精度となっており、秒針停止機能やカレンダー機能も搭載されている。
そんな最薄のムーブメントCal.6L35を採用していることと、ケースの構造や風防を改良したことによって、オリジナルモデルより0.2mm薄型化することに成功した。薄型化に加えてフラットな形状の多列ブレスレットを備えることで、心地よい装着感を実現している。
針は3面カットが施された太くて長い時分針を採用し、視認性が向上した。ケースにはエッジが際立つ多面カットが施されており、そのシャープな印象はまさにオリジナルモデルから受け継いだものであるが、質感は鏡面仕上げとヘアライン仕上げを組み合わせたモダンな仕上がりとなっている。
自動巻き(Cal.6L35)。26石。日差+15~-10秒。パワーリザーブ約45時間。2万8800振動/時。SSケース(直径38.6mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。41万8000円(税込み)。
キングセイコー「KS1960」Ref.SDKA021
キングセイコーは、1960年代後半〜1970年代にかけて多様なケース形状のモデルを開発した。2024年7月に登場したRef.SDKA021は、そんなさまざまに打ち出されたキングセイコーのアーカイブの中から、1969年に発売されたヘリテージモデルをデザインソースとして現代の技術を吹き込んだ、ドレッシーな1本である。
本作で特徴的なのは、流れるような曲線を描く鏡面仕上げの薄型ケースだ。ボックス型のサファイアガラスとともに優美な輝きを放つ。ムーブメントは、前述したセイコーの現行ムーブメントの中で最薄のCal.6L35を搭載し、ケース厚9.9mmまで薄型化することに成功した。この低重心の薄型ケースは、快適な装着感に大きく貢献している。
その着け心地のよさを実現しているのは、ケースだけではない。さらに注目したいのは、本作で新たに開発された多列ブレスレットだ。これは1970年代のキングセイコーから着想を得たもので、短いピッチで構成されるコマがしなやかに稼働するようになっている。また、鏡面とヘアラインを組合せた仕上げは光を反射し、上品に輝く。
文字盤カラーは、キングセイコー生誕の地である東京の街から着想を得ており、中央から広がるようなグラデーションとなっているグリーンの文字盤は、緑豊かな東京の姿を表現したものである。
自動巻き(Cal.6L35)。26石。日差+15~-10秒。パワーリザーブ約45時間。2万8800振動/時。SSケース(直径39.4mm、厚さ9.9mm)。5気圧防水。39万6000円(税込み)。
キングセイコー「KSK」Ref.SDKS027
キングセイコーの現行モデルで最小となるのが、2024年9月に発売したRef.SDKS027だ。直径36.1mmのケースを備えたコンパクトで日常使いしやすいモデルでありつつ、2代目キングセイコー“KSK”のシャープな意匠はしっかりと受け継いでいる。
本作の文字盤カラーは、アイビールックのオックスフォードシャツから着想を得たサックスブルー。アイビールックとは、1950年代にアメリカ東海岸で生まれたファッションで、名門私立大学の通称“アイビーリーグ”の男子学生風の服装のことである。キングセイコーが誕生した1960年代に、日本でも独自の発展を遂げた歴史を持つ。
時分針のルミブライトには白を採用し、視認性の向上のみならず、サックスブルー文字盤の爽やかさがより際立つものとなっている。高級感あふれるメタルブレスレットは、ダブルレバー式の簡易着脱レバーを採用しているため、別売りの10種類のレザーストラップと交換すれば幅広いコーディネートを楽しめる。
ムーブメントは、Cal.6R51を搭載。日常シーンで使い勝手の良い10気圧防水と約72時間のパワーリザーブを備えている。
自動巻き(Cal.6R51)。24石。日差+25~-15秒。パワーリザーブ約72時間。2万1600振動/時。SSケース(直径36.1mm、厚さ11.6mm)。10気圧防水。24万2000円(税込み)。
キングセイコー「KSK」Ref.SDKA013
この秋キングセイコーから誕生した最新モデルが、Ref.SDKA013だ。キングセイコー生誕の地であるセイコーの時計工場「第二精工舎」があった東京・亀戸は、江戸時代の浮世絵にも描かれたことのある魅力あふれる街だ。本作は、そんな亀戸の伝統美から着想を得たモデルである。
深い青色の文字盤は、亀甲文の文様と、亀戸の近くを流れる隅田川に由来する。亀戸の地名となっている“亀”は、古くから長寿を象徴する動物として親しまれてきた。また亀の甲羅がモチーフとなっている“亀甲文”は、縁起の良い柄として継承されてきた日本の伝統的な文様のひとつである。有機的な型打模様と美しいグラデーションが描かれた、印象的で味わい深い仕上がりの文字盤だ。
ボックス型のガラスやエッジの効いたケース、ライターカットの施された12時位置のインデックスといった“KSK”の特徴的なデザインは、最新モデルである本作でも健在。深いカラーの文字盤と、太くて長い三面カットの時分針が生み出すコントラストは、見た目に美しいだけでなく高い視認性を確保している。
ムーブメントはCal.6L35を搭載。約45時間のパワーリザーブと5気圧防水を備える。セイコーの歴史と最新技術が共存する本作は、現在セイコーオンラインストアにて予約受付中で、2024年10月11日(金)発売予定となっている。
自動巻き(Cal.6L35)。26石。日差+15~-10秒。パワーリザーブ約45時間。2万8800振動/時。SSケース(直径38.6mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。41万8000円(税込み)。セイコーオンラインストアで現在予約受付中。2024年10月11日(金)発売予定。
参考サイト:セイコー