機械式時計の中でも人気の機構であるクロノグラフ。しかしこのジャンルは高級モデルも多く、さらには世界的なインフレや為替の影響で、腕時計の価格が上昇傾向にある中、予算との兼ね合いで購入を見送ってしまったことはないだろうか。今回、50万円以下という抑えられた価格帯で展開されている、魅力的な機械式クロノグラフウォッチを5本ピックアップして紹介する。
Text by Kento Nii
[2024年10月1日公開記事]
予算50万円でおすすめしたい機械式クロノグラフウォッチ5選
世界的な原材料の高騰やこれに伴うインフレ、あるいは為替の影響で、腕時計の価格も上昇し続ける昨今では、その価格が抑えられているかどうかも腕時計選びの基準となりやすいだろう。中でも、機械式クロノグラフウォッチは、ベーシックなモデルに比べると複雑な構造ゆえに高額品も多く、購入の際には自身の予算と品質のバランスを考慮したいところである。
以下に、50万円以下というミドルレンジで販売されている良質な機械式クロノグラフを、国産、海外を問わない多彩なブランドから5本ピックアップして紹介する。
ティソ「TISSOT PRX オートマティック クロノグラフ」
1853年にスイスのル・ロックルで創業され、現在では業界屈指の腕時計生産体制を誇るティソ。1930年という早い段階から耐磁腕時計を打ち出したり、1999年に腕時計へタッチパネルを導入するなど、他社に先駆けた革新性を持つ歴史も、同ブランドの特徴のひとつとなっている。また、各種コレクションは高品質ながら価格が抑えられており、予算を抑えた腕時計選びにおいて、おすすめのブランドとなる。
自動巻き(Cal.A05.H31)。27石。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.5mm)。100m防水。28万7100円(税込み)。(問)ティソ Tel.03-6254-5321
「予算50万円で購入できる機械式クロノグラフウォッチ」として今回ピックアップしたのは、人気の「ティソPRX」コレクションに属するクロノグラフモデルだ。ブレスレットと一体化したケースフォルムに、ホワイトダイアルとダークブルーのインダイアルによるパンダ調のフェイスを備えており、どこかレトロさも感じさせる1本に仕上がっている。また、直径42mmのケースはサテン仕上げを基調としつつ、稜線やプッシュボタンなど細部がポリッシュに仕上げられており、メリハリある印象をもたらす。
ムーブメントには、Cal.ETA7753をベースとしたCal.A05 H31を搭載する。約60時間にまで延長されたパワーリザーブを備えており、トランスパレント仕様のケースバックからは、その機構を鑑賞することができる。
セイコー プロスペックス「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ」
ブランド名を冠した初の腕時計を発売してから、2024年で100周年を迎えたSEIKOブランドは、現在では日本を代表する時計メーカーのひとつだ。世界で初めてクォーツ式腕時計を市販したことや、スプリングドライブを発明したことなどで知られており、独自の発展、進化を続けてきたブランドである。また、グランドセイコーやクレドールなど、価格やコンセプトによって独自ブランドを展開しており、ユーザーは予算や欲しいモデルによってさまざまな選択肢から購入を検討することができるだろう。
自動巻き(Cal.8R48)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.6mm)。10気圧防水。35万2000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012
Ref.SBEC021は、そんなセイコーが1972年に打ち出した自動巻クロノグラフからインスピレーションを得た1本だ。視認性を重視したダイアルデザインはツールウォッチとしての魅力が強調される一方で、ホワイトにブルーグレーを組み合わせたフェイスはカジュアルさが抑えられており、さまざまなシーンで使い勝手の良いクラシックなスポーツモデルと言える。
搭載されるのは、完全自社製ムーブメントであるCal.8R48だ。針飛びを抑える垂直クラッチと、操作性を高めるコラムホイールを採用しており、精密な時間計測を可能としている。数多くの陸上競技の公式計時を務めてきた、セイコーの矜持が表れた1本に仕上がっている。
ハミルトン「ジャズマスター パフォーマー オートクロノ」
1892年にアメリカで創業されたハミルトンは、鉄道公式時計や航空時計、軍用時計に採用されてきた歴史を持つ、実用派の腕時計ブランドだ。スイス時計製造のテクノロジーと、アメリカンスピリットが息づくそのコレクションでは、機能性とデザイン性が高い水準で両立されている。また、映画『メン・イン・ブラック』のエージェントらが着用したことでも知られている、アイコニックな「ベンチュラ」のように、話題性が高いコレクションがそろうのも特徴だ。
自動巻き(Cal.H-31)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ15.22mm)。10気圧防水。34万3200円(税込み)。(問)ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371
そんなハミルトンからクロノグラフウォッチを選ぶのであれば、「ジャズマスター パフォーマー」コレクションがおすすめとなる。ピックアップしたRef.H36656140は、クールなブルーグレーを基調としたダイアルに、シルバーの縁取りで洗練された印象を与えた1本だ。さらに、サテン仕上げが多くを占める直径42mmのケースはグレートーンを演出し、全体にスタイリッシュな印象をもたらしている。
クロノグラフの王道を押さえた、そのモダンスポーツシックな出で立ちは、多くのシーンに当てはまる汎用性が魅力となるだろう。
ムーブメントには、約60時間のパワーリザーブを有するCal.H-31を搭載する。ニヴァクロン™製ヒゲゼンマイを採用しており、磁気をはじめとする外圧に影響されにくい、信頼に足るムーブメントである。
ユンハンス「マックス・ビル クロノスコープ」
ユンハンスは、1861年、エアハルト・ユンハンスによって創業されたドイツ発の時計ブランドである。20世紀初頭には3000人におよぶ従業員を抱え、年間300万本のタイムピースを製造する世界最大級の腕時計メーカーにまで成長し、ドイツ時計産業の発展をリードしてきた過去を持つ。また、精密さを信念としたウォッチメイキングが特徴で、現行コレクションには、電波受信機能といった現代技術も取り入れられている。
そんなユンハンスの代表モデルには、バウハウス出身のデザイナー、マックス・ビルにデザインを依頼した、同名コレクションが挙げられる。そのクロノグラフモデルもまた、50万円以下の予算設定でおすすめとなる。
自動巻き(Cal. j880.2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm)。50m防水。46万5300円(税込み)。(問)ユーロパッション Tel.03-5295-0411
本作は、ミニマルでタイムレス、そしてエレガントな表情が際立つ1本だ。ダイアルは最低限の要素のみで構成されており、そのフェイスはユンハンスが最初にマックス・ビルへ依頼したキッチンクロックが着想源となっている。また、ドーム型のサファイアガラスがはめ込まれたケースは、円盤のような柔和な曲線を描いており、その独自スタイルをより確固たるものとしている。なめらかなミラネーゼタイプのブレスレットも、上品な本作の雰囲気にぴったりだ。一味違うクロノグラフを選ぶなら、ぜひおすすめしたい。
ムーブメントはETA 7750をベースとし、スモールセコンドを省いたCal.j880.2を搭載する。パワーリザーブは約42時間を備えている。
ロンジン「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」Ref.L2.816.4.53.2
1832年に創業し、プロフェッショナルの使用を見越した実用モデルを多く手掛けてきたスイス発の老舗時計ブランド、ロンジン。伝統的な意匠を基調としつつ、現代的に再解釈された巧みな復刻時計が多くそろい、かつ、それらが誠実な価格帯で展開されているのも魅力である。また、同社の歴史は航空の世界との関わりが深く、豊富で高品質なアヴィゲーションウォッチの数々には定評がある。
自動巻き(Cal.L688)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。SS(直径41mm)。3気圧防水。45万9800円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7351
ロンジンからは、1930年代のパイロットウォッチからデザイン着想を得た、クラシカルな1本をピックアップ。ビッグアイという名の通り、3時位置の大きな30分積算計が特徴的なモデルだ。マットブラックのダイアルはオリジナルから引き継がれたものであり、視認性の底上げも兼ねている。また、インデックスの一部を削ってまで計時機能に特化したそのデザインからは、ツールウォッチ特有のロマンを感じ取れるだろう。使い込んだようなレザーストラップも味わい深く、個性が際立つクラシックウォッチに仕上がっている。
ムーブメントには、コラムホイール式のCal.L688を搭載する。パワーリザーブは約66時間を備えており、これを収めるケースバックには、航空産業との深い関わりを象徴する刻印が施されている。