1884年に創業して以来、ブライトリングはクロノグラフの進化に多大な貢献を果たしてきた。時代を経ても色あせない機能美は現代に受け継がれ、“初”という視点でとらえると、140年の歴史が見事に1本の線でつながっていく。
世界で初めて航空用回転計算尺を搭載した“永遠のクラシック”ナビタイマーの金無垢モデル。自動巻き(Cal.01)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRGケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。3気圧防水。280万5000円(税込み)。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Yu Mitamura
大野高広、鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Takahiro Ohno (Office Peropaw), Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
歴史を作った数々の“初”を重ねて
140YEARS OF FIRSTS
1884年に24歳で工房を開いたレオン・ブライトリングは、当初からスポーツや科学・産業分野に特化した精密計時機器の開発に情熱を傾けた。その遺志を継いだ2代目ガストン・ブライトリングは、プッシュボタンを2時位置に独立させた腕時計クロノグラフを開発。さらに3代目ウィリー・ブライトリングはリセット専用ボタンを4時位置に設置し、リュウズの両側にふたつのプッシュボタンを配した現代的クロノグラフの原型を完成させたのだった。
(右)AOPA会員向けだったナビタイマーを一般に発売した頃の1950年代の広告。
今年140周年を迎えたブライトリングの歴史を見渡すと、こうした先駆的な偉業がいくつもきらめいている。例えば1952年、航空界の標準的装備だった「タイプ52」航空用回転計算尺を、そのままクロノグラフに組み込むというアイデアを採用したナビタイマーは、パイロットたちに認められて航空時計のカリスマ的な存在となった。また、薄型クォーツ時計が全盛だった80年代に、あえて自動巻きムーブメントを搭載したクロノマットは「機械式を復活させたのはブライトリングの功績」と、後にジラール・ペルゴを率いることになるルイジ・マカルーソに言わしめたほど、機能を昇華した洗練の新スタイルが人気を博して世界的に大ヒットした。
(右)1957年に誕生したスーパーオーシャンのクロノグラフ(Ref.807)と3針(Ref.1004)の広告。
さらには小型化した国際航空緊急信号発信装置を初めて腕時計に搭載した95年初出のエマージェンシーや、他社に先駆けてすべての腕時計にCOSC認定ムーブメントを搭載した2001年の偉業達成も、ブライトリングの140年を彩る“初”のひとつだ。こうした時代を切り開いた製品開発や取り組みは、その後のモデルに息づいている。機能追求から生まれた、いわゆる“用の美”であり、流行を生んだ独自性だ。
(右)ナビタイマーから派生したコスモノートとスコット・カーペンターの偉業を伝える1964年の広告。
最近ではペットボトルをアップサイクルしたウォッチボックスの導入など、業界初の試みが話題になっている。環境支援活動では今年、水素飛行機による世界一周無着陸ゼロエミッション飛行を目指すベルトラン・ピカール氏のクライメートインパルスと提携した。そして、ゴールドとラボグロウンダイヤモンドに関しては、サプライチェーンのトレーサビリティを原産地まで100%確保する目標達成を2025年に据えるなど、飽くなき革新に挑む姿勢は現在も変わらない。
(右)フレッチェ・トリコローリと共同開発した新生クロノマットの1987年の広告。
140周年のヘリテージを祝うべく、アニバーサリー記念モデルやチューリヒでのポップアップミュージアム、世界各国でのヴィンテージウォッチ展、“初”の歴史をまとめた記念書籍など、この1年はブライトリングファンにとって至福のイベント&ニュースが続いている。そして忘れてはならないのは、今後もブライトリングの“初”は続いていくこと。次の節目を超えてさらにその先へ、創業者たちから受け継がれた時計作りの情熱が紡ぐ物語は、連鎖していくのだ。
ブライトリングの“初”の歴史
1915年、クロノグラフのプッシュボタンをリュウズから分離し、2時位置に独立させた腕時計クロノグラフを発表。そのうちのリセット機能を4時位置の専用ボタンに移設することで、1934年に特許を取得。リュウズの両側にプッシュボタンを置く現代のクロノグラフのスタイルを定着させた。
懐中時計のラトラパンテを腕時計サイズに仕上げた1943年のプレミエ デュオグラフRef.762。1940年代を通じて多彩なデザインを生んだプレミエは、計時という“目的”のために進化してきたクロノグラフを、自己表現という“スタイル”として生かした初めての成功例になった。
世界で初めて航空用回転計算尺を搭載すべく1952年に開発が始まり、2年後に最初のナビタイマーRef.806をパイロット協会(AOPA)会員向けに納品。世界のプロ飛行士が歓迎しただけでなく、マイルス・デイビス、セルジュ・ゲンズブール、F1のジム・クラークなど、多くの著名人にも愛された。
ブライトリング初のダイバーズウォッチであるスーパーオーシャンの誕生は、海洋レジャーの人気が高まった1957年。3針とクロノグラフの同時発売だったところがブライトリングらしい。どちらも200m防水を備え、特にクロノグラフのRef.807は世界初のクロノグラフ搭載ダイバーズウォッチとなった。
1962年、オーロラ7号で宇宙飛行士のスコット・カーペンターは地球軌道を3周した。その所要時間4時間56分5秒を刻んだのが、彼の要望に応えてブライトリングがナビタイマーを24時間表示にカスタマイズしたコスモノートであった。これが宇宙で使用された最初のスイス製腕時計となった。
1964年誕生のトップタイムRef.2002。シンプルな薄型時計が流行した1960年代、複雑ゆえに高価で厚くなりがちなクロノグラフの人気復活に貢献。映画「007/サンダーボール作戦」でジェームズ・ボンドが着用するなど、回転計算尺のないシンプルで躍動的な意匠が若者に受けた。
ホイヤー・レオニダス、ハミルトン・ビューレン、デュボア・デプラと共同開発した自動巻きクロノグラフCal.11(クロノマチック)を搭載したRef.2105。ライバルたちと連携して達成した偉業は、ナビタイマーやスーパーオーシャン、ノーマルケースなどで幅広く展開された。
1983年、パイロットたちからの意見を聞き取り、薄型クォーツ時計全盛の時代にあえて機械式で新開発したクロノグラフをフレッチェ・トリコローリが採用。翌年、クロノマットとして販売開始され、ファッションにうるさいイタリアでまず大ヒットし、その勢いはやがて世界に広がった。
冒険家のベルトラン・ピカールとブライアン・ジョーンズがブライトリング・オービター3で、19日と21時間47分をかけて人類初の無着陸世界一周気球飛行に成功。同年、時計業界初の「100%クロノメーター化宣言」を行い、2001年に全品COSC認定という偉業を完遂した。
1936年に英空軍公式サプライヤーとなったブライトリングは、高度なミッションウォッチのノウハウを活かし2000年に初めて軍用航空業界に名乗りを上げるアベンジャーを発表。これがスイス空軍飛行隊の指定モデルとなった。写真は2000年のクロノ・アベンジャーRef.13360。
新しいことにも挑戦していきますが、あえて大きく変えないことが我々の“戦略”
2017年にブライトリングのCEOに就任して以降、8年目を迎えたジョージ・カーン氏に、ブライトリング140年の歴史の中で、エポックメイキングな出来事を尋ねた。
「タフな質問ですね。やはりプッシュボタンを独立させた基本的な腕時計クロノグラフの原型の発明がまずひとつ。ふたつ目が、プレミエの開発によって従来の計器としてのツールウォッチからスタイルへと舵を切り、芸術性を加えたこと、3つ目が製品として考えた場合、1950年代のナビタイマーと80年代のクロノマットの発表ですね」
1965年、ドイツ生まれ。ザンクトガレン大学卒業後、タグ・ホイヤーなどを経て、リシュモン グループに入社。A.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、IWCを統括していた故ギュンター・ブリュームラインの下でウォッチビジネスを学ぶ。2002年にIWCのCEOに就任。17年にはリシュモン グループの時計製造部門、マーケティング部門、デジタル部門の責任者となる。同年、リシュモン グループを退社し、ブライトリングのCEOに就任。従来のツールウォッチからインフォーマルなマルチパーパスウォッチ、そしてスタイルへと矢継ぎ早に新戦略を打ち出す。
これらの出来事はいずれもブライトリングの歴史に大きな影響を与えた要素である。だから選んだと、難題にもかかわらず、熟慮しながらカーン氏は明言した。その中でも今後、新たに復活させ、注力していくモデルは何だろうか?
「実際、歴史的に有名なモデルはすでにリバイバルされています。プレミエとトップタイムはブランドの“スポーツヘリテージ”の側面を、ナビタイマーとクロノマットは“アドベンチャー”の側面を担っています。今注目しているのが、現在開催中のチューリヒのポップアップミュージアムでもご覧になったと思いますが、これまでに発表してきたカプセルコレクションです。それを同じようなかたちで復活させて新しいものを創っていくことを考えています。加えて、レディースウォッチをリバイバルして、少し増やしていくことも視野に入れています」
CEO就任以降、ナビタイマーの3針モデル発表やプレミエの拡充など、スペシャリスト向けの腕時計から、インフォーマルなマルチパーパスウォッチへとブライトリングを進化させてきたカーン氏。さらなる発展を期すため、今後はどのような戦略を描いているのだろうか?
「ブランド創業140周年を機に、その歴史を振り返ると分かるように、ブライトリングは遺産としての傑作モデルをすでにたくさん持っています。こうした今までのモデルを続けていくことが大事なのです。あえて戦略を変える必要がありません。これまでの時計史を考察すると、それがうまくいくことを確信できます。実際に新しいことにも、もちろん挑戦していきますが、戦略としてはこれで成功しているので、つまらない答えかもしれませんが、大きく変えないで同じようにやっていくのが我々の“戦略”です」
確かに、140周年限定モデルに選ばれたモデルは、カーン氏が冒頭に挙げた3つの歴史的名機である。そこにも彼の揺るぎない“戦略”を見ることができる。
あらゆる目的に適う!
ブライトリング現行コレクション
最新技術と伝統的な職人技が融合したブライトリングの時計に共通するのは“機能美”。多彩なラインナップが、オフィスからパーティー、カジュアルな日常まで、さまざまなシーンに溶け込み、スマートに個性を主張する。
Land
パイロットウォッチとして生まれ、その万能さから使うシーンを選ぶことのないマルチパーパスな存在となった「クロノマット」が中核。1940年代のエレガントな意匠を受け継ぐ「プレミエ」、1960年代の空気感を体現するスタイリッシュな「トップタイム」も人気が高い。
SS&18KRGケース。10気圧防水。96万2500円(税込み)。
チタンケース。200m防水。163万3500円(税込み)。
18KRGケース。200m防水。319万円(税込み)。
セラミックケース。10気圧防水。649万円(税込み)。
SSケース。10気圧防水。139万7000円(税込み)。
Professional
救難信号発信機を装備した世界初の腕時計「エマージェンシー」はまさにプロフェッショナル用のサバイバル機器。ここでは通常の10倍の精度を誇るスーパークォーツをチタンケースに搭載した「エアロスペース」と、超軽量素材ブライトライト®ケースのアスリート向け「エンデュランス プロ」を掲載。
チタンケース。10気圧防水。64万3500円(税込み)。
ブライトライト®ケース。10気圧防水。48万4000円(税込み)。
Air
ブライトリングを象徴する「ナビタイマー」はクロノグラフだけでなく3針、GMTなど、機能やサイズ、カラー展開も多彩。そのほか、航空軍用時計を祖に持つモダンな高性能ウォッチ「アベンジャー」、1950年代のRef.765 アヴィ コ・パイロットに着想を得た「クラシック アヴィ」がラインナップ。
SSケース。3気圧防水。75万6800円(税込み)。
SSケース。3気圧防水。66万5500円(税込み)。
SSケース。3気圧防水。77万6600円(税込み)。
18KRGケース。3気圧防水。280万5000円(税込み)。
18KRGケース。10気圧防水。280万5000円(税込み)。
セラミックケース。300m防水。126万5000円(税込み)。
Sea
1957年誕生当初のクラシックなデザインをモチーフにするモダンレトロな「スーパーオーシャン ヘリテージ」、1960~70年代のスーパーオーシャン スローモーションのシンプルな美しさを踏襲しながら、最新機能と多彩な配色でモダンに進化した「スーパーオーシャン」のツートップ。
SSケース。300m防水。66万円(税込み)。
SSケース。300m防水。63万8000円(税込み)。
SSケース。200m防水。107万8000円(税込み)。
SSケース。200m防水。75万9000円(税込み)。