自動巻き腕時計が誕生して100年を迎えた2022年の11月号で、クロノス日本版編集部は、自動巻き機構と真剣に向き合った。そのページをwebChronosへと転載していく。今回は、ブルガリ「オクト フィニッシモ」のマイクロローターとペリフェラルローターを取り上げる。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited & Text by Chronos Japan Edition (Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
マイクロローター vs ペリフェラルローター
ふたつの薄型ローターがもたらした世界最薄記録
「オクト フィニッシモ」で薄型化を推し進めたブルガリ。しかし、なお見るべきは、薄さ以上に自動巻き機構の多彩さだ。マイクロローターとペリフェラルローターを持っているのだ。
初出2017年。マイクロローターとリバーサー式の両方向巻き上げ自動巻き機構を搭載した極薄ムーブメントが本作だ。22年には自動巻き機構を刷新。クローズドバレルを採用したほか、脱進機とテンプを改良した。ブルガリの技術力を象徴する傑作である。直径36.60mm、厚さ2.23mm。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。
「オクト フィニッシモ」で機械式腕時計の最薄記録を塗り替えてきたブルガリ。それを支えるのはマイクロローターと、ムーブメント外周にローターを置くペリフェラルローター自動巻きだ。
オクト フィニッシモがまずマイクロローターを採用した理由は、ムーブメントのサイズが大きいことで、厚みに影響を与えることなく、マイクロローターを組み込むことができたためで、また当時はペリフェラルローターの開発がまだ十分ではなかった、とブルガリは説明する。地板を拡大し、ムーブメントの構成部品を平行に並べるという設計は、マイクロローターに適したものだった。加えて、自動巻き機構に十分なスペースを取り、主ゼンマイを弱くすることで、BVL138はマイクロローターらしからぬ高い巻き上げ効率を持てた。
普通、マイクロローターやペリフェラルローターには片方向巻き上げを採用する。ローターの比重が小さいため、両方向では十分に巻ききらない場合があるからだ。対してブルガリは、傑作BVL191にはスイッチングロッカーを、そしてマイクロローターとペリフェラルローターには、あえてリバーサーを採用する。
初出2019年。GMT機能付きの自動巻きクロノグラフにもかかわらず、世界最薄を実現したムーブメント。鍵となったのは、ブリッジの外周に配置されたペリフェラルローターである。自動巻き機構には両方向巻き上げ式のリバーサーを採用する。直径37.20mm、厚さ3.30mm。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。
現在ブルガリは、厳しいテストを経て承認されたリバーサーだけを採用し、最長1.5カ月間に及ぶ加速試験を行うことで、実際に5年間使用した場合も性能が変わらないことを確認している。同社は理由を明示しないが、片方向巻き上げに付きものの空転を嫌ったのかもしれない。高級時計らしい感触は、ブルガリが目指す方向性のひとつだ。メーカーの実力は自動巻きに表れる。複数の優れた自動巻き機構を持つ同社は今や世界屈指の時計メーカーなのだ。