ルイ・ヴィトンのマイクロローター自動巻き「Cal.LFT023」を深堀り【傑作ムーブメント列伝】

2024.12.02

時計ハカセこと『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、傑作ムーブメントについて記したコラムを6回分、webChronosに掲載する。第4回は、ルイ・ヴィトンが2023年に発表した、マイクロローターの自動巻きムーブメント「Cal.LFT023」を深堀りする。

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Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
[ムーブメントブック2023 掲載記事]


初作らしからぬ完成度を誇るマイクロローター自動巻き「Cal.LFT023」

Cal.LFT023

Cal.LFT023
ラ・ファブリク・デュ・タンルイ・ヴィトンと、ル・セルクル・デ・オルロジェというふたつの複雑時計工房が作り上げた自動巻きムーブメント。ムーブメントの仕上げもさることながら、静かなローター音や、滑らかな感触は際立っている。直径30.6mm、厚さ4.2mm。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。

 2023年にルイ・ヴィトンが発表した新しい「タンブール」は、同メゾン初の自社製自動巻きムーブメント、Cal.LFT023を搭載していた。普通、初めてムーブメントを手掛けるときは、どんなメーカーであれ、危なげのない設計を取りたがる。しかしルイ・ヴィトンは、いきなりマイクロローターという複雑なメカニズムに取り組み、完成させてしまったのである。

 もっとも、ルイ・ヴィトンの取り組みを考えれば、最初の自動巻きがマイクロローターであったことにも納得がいく。11年に同社は複雑時計工房のラ・ファブリク・デュ・タンを傘下に収め、同社を率いるエンリコ・バルバシーニとミシェル・ナバスという頭脳も手に入れた。このふたりは、ルイ・ヴィトンのために凝った複雑時計を作るようになったが、長年、シンプルな自動巻きを作るという希望を持ち続けていた。そして彼らは新しい自動巻きを作るにあたって、彼らだけでプロジェクトを行うのではなく、気鋭の工房であるル・セルクル・デ・オルロジェとタッグを組んだのである。

 クリストフ・クラーレ出身の時計師たちが設立したル・セルクル・デ・オルロジェは、現在、スイスの名だたるメーカーを顧客に持つ。理由は、複雑時計からベーシックなムーブメントまでを擁するため。そのひとつに、スピークマリンが採用したマイクロローター自動巻きがあった。一から作るよりも、ベースがあったほうが開発スピードも上げられるし、信頼性も担保できる。現ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンは、その優れた設計を転用しつつも、全く別物に進化させたのである。

Cal.LFT023

開発にノウハウが必要とされるマイクロローター自動巻き。初作に採用できたのは、ノウハウがあればこそ。他社製ムーブメントとの違いを打ち出すため、受けの仕上げが変えられたほか、穴石には透明なサファイアが選ばれた。

 ポイントはいくつかある。ひとつは、スモールセコンド用の輪列が与えられたこと。直径30.6mmのムーブメントは6時位置に、現行品としてはかなり大きなスモールセコンドを持つようになった。そしてもうひとつは、自動巻き機構が刷新されたこと。「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンの仕様により自動巻きの巻き上げが改良された」と関係者が語ったように、Cal.LFT023の巻き上げ音は小さく、ローターの回転もスムーズだ。加えて、ムーブメントには、ありきたりのジュネーブ仕上げではなく、表面を荒らしたブラスト仕上げが採用された。しかも、ムーブメントの刻印を残して周囲を彫り込み、そのくぼみにブラストを施す凝りようだ。設計も感触も仕上げも全く別物となった背景には、間違いなくラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンの非凡なノウハウがある。

 正直、完成したばかりのこのムーブメントが、今後どのように進化するかは未知数だ。しかし、Cal.LFT023は現時点でさえ、高級機として見事な完成度を備えている。今後、ルイ・ヴィトンは時計業界における台風の目となるかもしれない。


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