2024年にルイ・ヴィトンから発表された「エスカル」。『クロノス日本版』編集長の広田雅将が実機を触って、「これほど良いとはまったく予想外だった」と称する、本コレクションの実力とは?
文字盤とケースにルイ・ヴィトンを象徴するトランクの金属部品とビスをあしらったモデル。中心をエンボスで仕上げた文字盤は、モノグラム・キャンバスへのオマージュだ。クロノメーター取得。自動巻き(Cal.LFT023)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ10.34mm)。50m防水。414万7000円(税込み)。
Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
ルイ・ヴィトンの新しい「エスカル」の見どころ
潔いほどベーシックな佇まいを持つ新しいエスカル。ディテールは魅力的だし、ムーブメントも優れている。しかしこのモデルでいっそう見るべきは、非凡な装着感と感触だ。
「エスカル」の非凡な装着感と感触
昨年の「タンブール」で時計業界の話題をさらったルイ・ヴィトン。今年3月にシークレットでお披露目されたのが3針モデルの「エスカル」だった。そもそもこのコレクションは、2014年に「エスカル ワールドタイム」としてお披露目されたもの。旅を打ち出した時計らしく、このモデルは、ユニークな文字盤に同社のトランクに見られるディテールを巧みに合わせた傑作だった。
対して2024年のエスカルは、ワールドタイムのディテールを継承しつつも、シンプルな3針時計へと姿を変えた。あえてアイコンを刷新して、ベーシックを打ち出した新しいエスカル。外装のディテールは良いし、ムーブメントの出来も良いが、競争力があるのか疑問に思ったのは否めない。なにしろこのジャンルには、パテック フィリップの「カラトラバ」やブレゲの「クラシック」、オーデマ ピゲの「CODE11.59 バイ オーデマ ピゲ」、ヴァシュロン・コンスタンタンの「トラディショナル」といった古豪がきら星のごとくそろっているのだ。出来が良いだけで戦えるほど、この世界は甘くない。
お披露目の際、筆者は時計を見るだけだった。しかし、その後実物に触れて、印象は180度変わった。正直、新しいエスカルがこれほど良いとはまったく予想外だったのである。
ルイ・ヴィトンは2023年のタンブールで、装着感と感触という個性を強く打ち出した。そしてそれは、貴金属ケースにレザーストラップというパッケージを持つエスカルも同様だったのである。
エスカルは昔の金貨のようなしっとりとした重みを持っている。ケースの内側を抜いたり、軽いメタル製のスペーサーを加えたりしなかったためだ。コストダウンのためにケースを中空にしなかったのは、責任者であるジャン・アルノーの見識だろう。そしてストラップの取り付け位置をケースギリギリに近付けることで、可動域を大きく取っている。直径は39mmだが、ストラップの曲がりがよいため、腕の細い女性でもなじむはずだ。
ストラップにも感心させられた。標準で付属するカーフストラップは、バネ棒の周囲を除いて芯地を省いている(あるいは薄い芯地を使っている)ため、適度に収縮する。つまり、ストラップを適切に締めると、時計の重みが全体に散るのである。またストラップのテーパーも最近の時計としては例外的に弱めだ。テーパーを強くかけるとドレスウォッチ感は強まるが、あえて抑えることで、装着感を改善し、時計の多用途性を強調したわけだ。ストラップを含めて時計全体の着け心地をチューニングできるのは、レザーメーカーならではだろう。
感触も良好だ。搭載するCal.LFT023は中心に秒車を設けた以外は、タンブールに同じ。従って、滑らかな針合わせや、リュウズを引き出した際のクリック感も同様である。針合わせの際に時計回りと反時計回りの感触がまったく同じなのは、部品の精度を高め、日付表示をあえて省いたためか。また、巻き真が短いため、リュウズを操作した際のブレもよく抑えられている。
ルイ・ヴィトンの時計作りの歴史はまだ20年を超えたに過ぎない。しかし、タンブールとエスカルで打ち出した装着感と感触という個性は、いわゆる老舗の時計とは明らかに異なるものだ。着け心地に優れたベーシックウォッチが欲しい人であれば、新しいエスカルは、間違いなく選択肢に入れる価値はあるだろう。たとえこのジャンルに、名だたる強豪がひしめいていようとも、だ。
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