日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2024年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は時計ジャーナリストであり、webChronosで「役に立つ!? 時計業界雑談通信」を連載中の渋谷ヤスヒトが選出したモデルを紹介する。「お世辞ではなく、素晴らしい時計があまりに多い」と記す、渋谷のセレクトとは?
1位:パルミジャーニ・フルリエ「トリック プティ・セコンド」
ミシェル・パルミジャーニが古典時計の修復で培った時計文化への敬意と、グイド・テレーニ氏の洗練されたセンス。ふたつの融合から生まれた“クワイエット(控えめ)ラグジュアリー”の哲学を体現するシンプルウォッチ。
手巻き(Cal.780)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGあるいはPt950(直径40.6mm、厚さ8.8mm)。820万6000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com
2位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル」
製造の地・岩手県の、盛岡市の市鳥セキレイをモチーフにした新設計の「退却式のコハゼ」などで手巻きの“味”や“音”、仕上げの美しさにこだわった新世代9SA系ムーブメント初の手巻きキャリバーを搭載する、グランドセイコーの新境地。
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。日常生活用防水。152万9000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
3位:オーデマ ピゲ「リマスター02 オートマティック」
「1970年代ではなく1960年に、こんなカッコいいモデルがあったのか」と驚いた、モダンアートのような、現代建築のようなシャープでクールで幾何学的な造形と色使い、ヘアライン仕上げの美しさに心を射抜かれた1本。
自動巻き(Cal.7129)。31石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約52時間。18Kサンドゴールドケース(横41mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。世界限定250本。682万円(税込み)。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
4位:タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」
スイス時計界の至宝ともいえる天才技術者で、ユリス・ナルダン、カルティエなどを経て現在、タグ・ホイヤーのムーブメント・ディレクターを務めるキャロル・カザピ氏の総指揮で生まれたアヴァンギャルドな複雑クロノグラフ。
自動巻き(Cal.TH81-00)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約65時間。Tiケース(直径41mm、厚さ15.2mm)。30m防水。要価格問い合わせ。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030
5位:ブライトリング「スーパークロノマット B19 44 パーペチュアルカレンダー 140周年アニバーサリー」
創業140周年を記念して登場した、マニュファクチュールキャリバーとしては初のパーペチュアルカレンダー・クロノグラフムーブメントを搭載する3部作の中でも、一番スポーティで精悍なモデル。クラシックなデザインがお好みの方は他のモデルがおすすめ。
自動巻き(Cal.B19)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。18KRGケース(直径44mm、厚さ15.35mm)。10気圧防水。777万7000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
総評
いきなりだが、今回選んだのは「ウォッチズ&ワンダーズ2024」直後の4月24日に掲載された「ベスト5」以外のベスト5であることをお詫びしたい。その時は“夢と驚きのある時計”としてIWC、シャネル、ヴァン クリーフ&アーペル、エルメスの複雑時計とカルティエのジュエリーウォッチを選んだ。
なぜそれ以外の「ベスト5」なのか。それはお世辞ではなく、素晴らしい時計があまりに多いから。しかも時計フェア以外でも毎月のように新作が発表される。だからジャンル別にベスト5、総合ならベスト20くらいでないとつくり手に申し訳ないと思っている。
パルミジャーニ・フルリエとグランドセイコーという手巻きのシンプルウォッチ。さらに現代彫刻のような造形にひと目惚れしてオーデマ ピゲのリマスターモデルを選んだのは、この秋の最新スマートウォッチがすべての人にオススメのアイテムになった現状を考えたから。
ここまで来ると機械式時計の存在価値はバイクに例えれば“ビッグシングル”、つまり大排気量の単気筒バイクのようなピュアなメカニズムにある。
その視点で無理やり絞り込んだのがこの3本。ピアジェ創業150周年の最後を飾る「ピアジェ アンディ・ウォーホル」や、クレドールの「クレドール50周年記念 ロコモティブ 限定モデル」。さらにショパールの「L.U.C XPS フォレスト グリーン」。さらにパテック フィリップの「ゴールデン・エリプス」。また今年発表ではないが、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)受賞で話題の大塚ローテック「6号」もこのカテゴリーに入るだろう。
残りの2本、タグ・ホイヤーのスプリットセコンドクロノグラフ、ブライトリングのパーペチュアルカレンダークロノグラフも、機械式クロノグラフが本領の両社が久々に見せた“クロノグラフと複雑時計への本気”を象徴するとあって、注目したい新作だ。ブライトリングはこのモデルの購入者に、歴史的な140エピソードが詰まった、ブランドの新しい魅力が見つかるヒストリーブック『Breitling : 140 Years in 140 Stories(ブライトリング:140の物語が伝える140年)』を贈呈する点も、本作りが仕事の編集者でもある私には見逃せない魅力です。
選者のプロフィール
渋谷ヤスヒト
モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、気が付くと2019年がまさかの25回目。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。