I LOVE ポルトギーゼ! この名作を「文字盤の進化の歴史」から振り返る

FEATUREその他
2024.12.24

1939年の登場以来、デザインを大きく変えてこなかったIWCの「ポルトギーゼ」。しかしこの名作は高い視認性といっそうのエレガンスを備えるために、進化を続けてきた。本記事では、時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronosの編集長・広田雅将が、ポルトギーゼの「文字盤の進化」に着目。その歴史と現在を振り返る。

IWC ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー

Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2024年12月24日公開記事]


IWC「ポルトギーゼ」の文字盤の進化を振り返る

 IWCポルトギーゼは、機能性とクラシカルなデザインを両立したモデルである。高い精度に加えて、視認性の高い文字盤を加えることで、このモデルは時計業界における定番となった。加えてインデックスの製法を変えた2001年以降、ポルトギーゼは文字盤のバリエーションを増やすようになった。視認性を踏まえつつ、エレガンスを増していったその進化を改めて振り返りたい。

「ポルトギーゼ」の誕生と歴史的背景(1939年)

1939年に誕生した、IWCの「ポルトギーゼ」。ケース径42mmと、当時としては大型な時計であった。

 1939年、ポルトガルの船乗りたちの依頼により、IWCはポルトギーゼを開発した。当時の標準的な腕時計のサイズは直径30mm程度。しかしIWCは視認性を高めるために大型の42mmケースと大きな文字盤を採用した。ムーブメントには懐中時計用の高精度なCal.74を搭載し、あえて余白を広げた文字盤と細長いリーフ針、そして視認性の高いアラビア数字のインデックスが特徴となった。このデザインは、航海用時計として求められる高い視認性をもたらすだけでなく、ポルトギーゼに定番らしさをもたらした、この文字盤は当時の懐中時計から転用したものだったが、結果として、ポルトギーゼのアイコンとなったのである。

視認性とデザインの進化(1990年代)

1998年に誕生した、自動巻きムーブメントCal.79240を搭載した「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.3714。ムーブメントのベースはETA7750だ。

 オリジナルモデルのアラビア数字インデックスと細身のリーフ針を引き継いだのが、1993年の「ポルトギーゼ・ジュビリー」(Ref.5441)である。このデザインは、1998年の「ポルトギーゼ・クロノグラフ」(Ref.3714)にも転用され、ポルトギーゼのパブリックイメージを決定づけた。これは細いリーフ針とエンボス加工のインデックス、そしてカボション状のミニッツインデックスというジュビリーのデザインを継承していたが、ETA7750を改良したクロノグラフムーブメントを載せることで、縦ふたつ目に改められていた。加えてこのモデルは、クロノグラフとは思えぬほど細いクロノグラフ針を採用することで、機能性を強調したクロノグラフとは一線を画したデザインを打ち出すことに成功した。

 1939年のデザインを巧みにモダナイズした、ポルトギーゼ・クロノグラフの文字盤。IWCはこのデザインを「ポルトギーゼ 2000」にも転用することで、ポルトギーゼをひとつのコレクションとすることに成功した。しかし、文字盤と一体成形されたエンボスインデックスのため、文字盤のバリエーションを増やすことは難しかった。インデックスが邪魔するため、下地に繊細な処理を加えられなかったのである。

 そのためIWCはポルトギーゼのインデックスを、プレスで打ち抜いたエンボスから立体的なアプライドに改めた。その結果、ポルトギーゼは文字盤に様々な色を持てるようになったほか、わずかに視認性も改善された。加えて、2012年にはケースが自社製に変更され、時計としての高級感はいっそう増した。

文字盤のさらなる進化(2018年~)

2018年に発表された「ポルトギーゼ・クロノグラフ "150イヤーズ"」の青文字盤のモデル(Ref.IW371601)。

 創立150周年にあたる2018年、IWCは「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.3716を発表した。見た目は従来のRef.3714に同じだが、ムーブメントが刷新された。今までのETA7750(またはその代替機)を改良したムーブメントではなく、自社設計のCal.69355を搭載することで、耐久性と精度、そして巻き上げ効率を大幅に向上させたのである。そしてこのスペシャルなモデルにIWCは今までにない試みを加えた。それが磨きあげたラッカー仕上げの文字盤である。もっとも、ポリラッカーの仕上げを極端に高めたのもまたIWCらしい。R&Dの責任者を務めるステファン・イーネンは「モデルによって異なるが、ラッカーは最大12層仕上げになっている。あえて何層にも分けることで、文字盤に深みを与えたかった」と説明する。乾燥に時間はかかるが、仕上げは圧巻だ。これはアプライドインデックスで多様性を増した文字盤の、ひとつの完成形と言えるだろう。

文字盤のさらなる進化(2024年)

IWC「ポルトギーゼ・オートマティック 40」Ref.IW358402
2024年に発表された、「ポルトギーゼ・オートマティック 40」。自動巻き(Cal.82200)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径40.4mm、厚さ12.4mm)。5気圧防水。288万7500円(税込み)。

 そしてIWCは、ポルトギーゼの文字盤をさらに進化させた。2024年に発表された「ポルトギーゼ・オートマティック 42」と「ポルトギーゼ・オートマティック 40」は、風防がボックス状に改められ、ベゼルはかなり細く絞られた。また側面を細く見せるため、裏蓋にも立体的なボックスサファイアがあしらわれた。そのため裏蓋はねじ込みではなくネジ留めになったが、防水性能は5気圧に向上した。

IWC「ポルトギーゼ・オートマティック 42」Ref.IW501705
同じく2024年にラインナップに加わった、「ポルトギーゼ・オートマティック 42」。自動巻き(Cal.52011)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。SSケース(直径42.4mm、厚さ13mm)。5気圧防水。196万3500円(税込み)。

 大きくなった文字盤を強調するためか、文字盤にはシルバームーン、オブシディアン(ブラック)、デューン、ホライゾンブルーの4色を追加。いずれの文字盤も下地を処理した後、表面にクリアラッカーを15層施して研ぎ上げるという凝りようだ。ラッカーの厚塗りは150周年モデルで採用されたものだが、光り方が抑えられ、表面もよりフラットになったのが大きな進化である。もっとも、文字盤で一層見るべきは、同年の「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」だろう。

文字盤表現の極北、ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー(2024年)

ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー

IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」Ref.IW505701
4年に一度のみならず、100年おきの閏年の調整も行うセキュラーカレンダーを搭載した2024年発表モデル。4500万年に1日しか誤差が生じないダブルムーン™表示も必見だ。自動巻き(Cal.52640)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。Ptケース(直径44.4mm、厚さ15mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。

 ジュネーブ・ウォッチグランプリで「金の針賞」を受賞したこのモデルは、3999年までのカレンダー表示と4500万年に1日しか狂わない月齢表示を備えた史上空前のカレンダーウォッチである。IWCはこのユニークさを強調すべく、文字盤にも工夫を凝らした。それがサファイアクリスタル製の文字盤だ。

 3999年までの正確なカレンダーを可能にしたプログラミングホイールを見せるべく、IWCはあえてドーム状のサファイアを風防だけでなく、文字盤そのものに採用した。しかし、プログラミングホイール以外の場所を白くペイントすることで、ポルトギーゼに求められる機能性を盛り込んだ。

 興味深いのは、文字盤の固定方法だ。ポルトギーゼに限らず、ほとんどすべての機械式時計の文字盤は真鍮製だ。そこに脚を立て、ムーブメントに直接固定している。しかしサファイアでは脚を立てるのは難しい。これだけ重い文字盤を、IWCはどう固定しているのかは分からないが、少なくとも、他社が真似するのは難しいだろう。


結論

 1939年から基本的には変わらぬデザインを受け継いできたポルトギーゼ。しかし、アプライドインデックスの採用は、IWCの得意とするさまざまな色を、ポルトギーゼに加えるようになった。さらに、磨きあげたラッカー仕上げも、2018年以降はものにするようになった。クラシカルな意匠で人気を集めるポルトギーゼ。その大きな文字盤は、実のところ、優れた仕上げを示すには、絶好のキャンバスなのである。


Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


IWCの腕時計にはどんな種類があるの? 「ポルトギーゼ」や「パイロット・ウォッチ」など現行コレクションを紹介!

FEATURES

【新型ムーブメント深堀り】3999年まで正確にカレンダーを表示する、IWC「Cal.52640」

FEATURES

時計ハカセでありIWCオタクである広田雅将が、I LOVE ポルトギーゼ! を主張しまくる記事

FEATURES