2017年よりユリス・ナルダンのCEOを務めるパトリック・プルニエをインタビュー。時計愛好家に支持される「フリーク」に力を入れてきた同社の価値と、その特異性について語っていく。
Photograph by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
ユリス・ナルダンのブランドとしての価値
「フリークに力を入れてきたことで、我々はユリス・ナルダンのブランドとしての価値を語ることができたと思っています。つまり、フリークネーションを推し進めることで、今までよりも深く、ブランドの核となる価値について語ることができたと思っています」。ユリス・ナルダンCEOのパトリック・プルニエは、フリークに注力してきたこの2年の手応えを語る。
ソーウインドグループCEO。1972年、フランス生まれ。アルコール飲料を手掛けるディアジオグループにてキャリアをスタートさせた後、LVMHグループ各社で要職を歴任。2014年、Apple Watchの立ち上げに携わる。その後、2017年にユリス・ナルダンのCEOに就任。2018年からはジラール・ペルゴのCEOも兼任する。2022年1月より、ケリングから独立したソーウインドグループのCEOを務める。
「本来、フリークはシンプルでありながらも、非常に複雑な機構を搭載しているもので、そもそもウォッチメイキングについてよく知っている人向けのものでした。フリークではこれまで、多くのイノベーションを起こすことができましたし、今後もその革新性を追求していくつもりです」
つまり、フリークに注力することで、ユリス・ナルダンが当初から持っていた精神を基に、改めて数々の発明をすることができたということだ。
プルニエは、ユリス・ナルダンの会社としての特異性にも触れる。
「自分たちは“テックカンパニー”だと思っています。もちろん、シリコンバレーよりもずっと前からです。おそらく“テックカンパニー”としては最古の会社に数えられるでしょう。まだ電気も写真もなかった19世紀の時代から時計を作っていた業界ですから。我々がテクノロジーの会社だと言い切れるのは、本当に深く時計作りの深奥を見ていくとよく分かります。そもそも時計はインストゥルメント(計器)として作られてきたわけですし、今でもウォッチメイキングの本来あるべき姿はインストゥルメントとしての姿だと思っています。それがフリークには技術的に表現されていると私は感じているのです」
「フリーク」はすべての人のための時計とは思っていないとプルニエは明言する。それでいいと思っているとも断言する。
「フリークはしびれる時計なんです。フリークを買おうとか、興味を持ってくれる人は、そもそもウォッチメイキングに対する造詣が深い人たち。この時計が、“ひと味違う”ということを分かっている人たちなんです」
確かにフリークはその名の通り、異端かつ、複雑な機構を搭載している。時計の知識が深ければ深いほど、その奥深さを理解できるだろう。
「あえて我々は、それをステートメントとして表には出しません。でも実際は、すべて時計の“中身”を作り替えたという自負を持っています。それをフリークは言わないけれど表現しているのです」
ムーブメントそのものが回転することで時刻を表示する「フリークワン」シリーズの最新作。ベゼルにはカーボン複合素材が採用されている。この腕時計に採用されたネイビーブルーは、ユリス・ナルダンの歴史を思い起こさせるカラーだ。自動巻き(Cal.UN-240)。15石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.37 mm)。30m防水。1054万9000円(税込み)。