時計愛好家に好まれ、今や定番としてすっかりおなじみになったブルーダイアル。なぜ人々は「青」という色を好むのか。その理由を時計とジュエリーに特化したコンサルタントにしてカラーコンサルタントの伊藤むつよが解説。また、色の原理を理解したうえで、なぜ光の当たり方で文字盤の色が違って見えるのかを、グランドセイコーの2モデルを例に説明する。
Photographs & Text by Mutsuyo Ito
[2024年12月28日公開記事]
青ダイアルの時計が好まれる背景
時計愛好家に好まれるダイアルカラーは何色だろう。白(シルバー)や黒、グレーなどのモノトーンが上位を占めるのは想像がつく。では、モノトーンの次に人気がある色は? 各メーカーのカラーバリエーションから考えても「青」と答える方が多いのではないだろうか。そこで今回は青が好まれる理由や、色という身近な存在の解説をしつつ、青色がその場の光量によって変化する見え方の違いを青ダイアルのバリエーションが豊富なグランドセイコーで再現していこう。
「青=Blue」と聞いて、真っ先に結びつくものは「空」と「海」ではないだろうか? 人々が日々目にするものに親和性を感じ、好感を持つのは至極当然かもしれない。また、カラーセラピーの分野では、青は生理的作用として鎮静・収斂効果があり、副交感神経が優位になるとされている。よって、冷静さや平常心・集中力を保ちたい時に使用を勧めている。
「平和」や「規律」を表現する時に、文字やイラストで「青」が多く用いられるのは、これらの作用も関係しているだろう。また、古くからの心理的作用として、誠実さや正義感・安定感等があり、ビジネスパーソンはこのイメージを活用したコーディネートを意識せずとも取り入れているはずだ。
壮大な自然の色であり、平和を願う象徴色。さらには誠実さや正義を彷彿させる色である「青」が、時計のダイアル色として好まれるのも納得できるのではないだろうか。
実は「色」は存在していない? 色はなぜ見えるのか
では、その青色が見えているのは、どういった仕組みなのかを簡単に説明していこう。
我々に見えている世界には「色」という物体は存在しない。存在しているのは光であり、その光の中で人が認識できる範囲を可視光という。可視光は赤(長波長)~紫(短波長)まで虹色のグラデーションになっていて、一見白色光に見えても虹色の光全てが存在している。
この光が物体に当たり、反射した色光のみを眼というレンズで捉えて神経信号に変換する。その信号を脳で捉えた時に「青い」と感じることで初めて「色」として認識される。つまり「光」「物体」「視覚(脳)」がそろってはじめて「色が見えた」と感じるのだ。
日常で、誰もが目にしている「プルキンエ現象」とは?
では、本題に入ろう。青色を見た時、その場の光量によって見え方が変化する現象が存在する。これを「プルキンエ現象」という。プルキンエ現象が起こると、明るい場所よりも薄暗い場所の方が、青(青~緑の短波長帯)は色鮮やかに見えるのだ。逆に、赤(赤~橙の長波長帯)は薄暗い場所では明るい場所に比べて色がくすむ=鮮やかさがなくなる。
この現象を利用して視認性を保っている代表例が、道路標識である。
プルキンエ現象による見え方の違いを、グランドセイコーで再現
上記で説明したプルキンエ現象を、青ダイアルのグランドセイコーで再現していこう。
11月某日、12時半(左)と16時(右)に撮影した写真で見比べてみてほしい。ただし、視細胞とカメラでは同じ現象は起きない為、彩度等を若干調整している点をご了承いただければと思う。この実験の最大のポイントは、「色の鮮やかさ」の見え方である。
SBGE255のブルー文字盤
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ14.7mm)。20気圧防水。89万1000円(税込み)。
左の写真は12時半頃に太陽光の下で撮影しているため「光量=その場の明るさ」が多く、サンレイ模様の美しさが強調されている。ダイアルの青は右の写真と比べると、少し白っぽさが増しているように見えて鮮やかさはあまり感じとれない。
対して右の写真は日が陰ってきた16時ころに撮影しており光量が少ないにもかかわらず、ダイアルの青は左よりも色鮮やかさを感じる。さらにダイアルだけではなく、GMT針の青も薄暗い場所でも鮮やかさを保っているのが見てとれる。
SBGX353のブルー文字盤
クォーツ(Cal.9F61)。SSケース(直径34mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。44万円(税込み)。
こちらもSBGE255と同じ環境下で撮影している。
「左=昼の顔=明るい場所での青色」は、色の鮮やかさよりも明るさが強調されて見えている。
「右=夜の顔=薄暗い場所での青色」は、色の鮮やかさが強調されて見えている。つまり薄暗い場所では「青」という色味がしっかり残っているように見える。このプルキンエ現象は「青~緑」の短波長帯で起こる為、他の色だと薄暗い場所では色の鮮やかさは軽減して見えるのも特徴だ。
自身や友人の時計、身近なもので青色を見比べてみよう!
実際に、どの位見え方が違ってくるの? と思った方は、是非ご自身の時計や身近にある青いもので試してみてほしい。薄暗い場所でこそ色を感じたい! という方がいれば、青ダイアルの時計は打って付けである。
ランチ時に見せる爽やかな昼の顔、アフターファイブのBARで見せる鮮やかな夜の顔……青ダイアルの時計に潜む、ちょっと変わった現象を楽しんでみても面白いかもしれない。
筆者プロフィール
伊藤むつよ
時計とジュエリーに特化した異色のコンサルタント。催事会場・ブティックでのコンサルティングや色彩・販売接客講師も務める。時計メーカーの現役色彩監修者であり、イメージコンサルティングも担当する。J-color認定講師・カラーコンサルタント・時計修理技能士2級、顔タイプ診断1級など多くの資格を保有。(株)parakeITO代表取締役。
HP:https://www.mutsuyo-ito-parakeito.com/