半世紀を超えて世界中で愛され続けてきたセイコー5スポーツの、レディースモデルを着用レビューする。径28mmのコロンとしたケースに爽やかなライトブルー文字盤を組み合わせた本作は可愛くて実用性に優れていると同時に、レディースウォッチ市場のいっそうの多様化を感じさせるとあって、時計愛好家の女性にお勧めしたい1本である。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka
[2025年1月7日公開記事]
セイコー5スポーツ「SKX series」の新作レディースモデル
自動巻き(Cal.2R06)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径28mm、厚さ11.2mm)。10気圧防水。4万2900円(税込み)。
セイコー5スポーツは、1968年にセイコーから誕生した。1963年に発売された「セイコー スポーツマチック5(通称セイコーファイブ)」をルーツとした腕時計で、このセイコーファイブは「自動巻き」「防水性」「3時位置のデイデイト表示の小窓」「4時位置のリュウズ」「耐久性に優れたケースとバンド」という、5つの機能を備えていた。このセイコーファイブの5つの機能とともに、いっそうのスペックアップとスポーティーなデザインを有して誕生したのがセイコー5スポーツであり、現在もそれらの機能を受け継ぎつつ、同時に現代を象徴する「5つのスタイル」をデザインコンセプトとしたブランドである。
そんなセイコー5スポーツはこれまで「手の届きやすい価格で販売されているメンズ向けの機械式時計」というイメージが強かった。しかし2024年、ダイバーズウォッチ「62MAS」をオリジナルとした、世界的に人気の「SKXモデル」がベースとなる「SKX series」より、5種のレディース向けモデルが追加されたのだ。今回着用レビューするのは、その新作モデルのうち、Ref.SRRA001だ。セイコー5スポーツのアイコニックな意匠はそのままに、ケースを28mm径と小さくし、かつ爽やかなライトブルー文字盤をまとった本作のディテールを紹介していこう。
セイコー5スポーツに加わった「可愛い」選択肢
2024年、セイコー5スポーツのラインナップに新しく加わったこのRef.SRRA001を着用レビューするとなった時にセイコー公式ホームページを確認した際は、正面画像しか掲載されていないこともあり、何の感想も持たなかった。しかし、実機を手にしてビックリ。なんと可愛いモデルであるか、と驚かされた。
前述した通り、セイコー5スポーツは5つの機能を初代モデルから受け継いでおり、4時位置のリュウズや3時位置のデイデイト表示の小窓といったアイコニックな要素が、新作となるこのモデルにも採用されている。さらにSKXがダイバーズウォッチをオリジナルとすることから、回転ベゼルこそ持たないものの、蓄光塗料を施した特徴的なインデックスや大きく見やすい時分針を備えていることも、他のバリエーションモデルと同様だ。しかし、本作を手にしてまず思ったのが「スポーティーなのに可愛い」だ。
この「可愛い」というのは多分に主観も入っているものの、そう思わせる要因としてサイズ感が挙げられるだろう。本作は直径28mmと小径サイズであり、ケースに合わせてブレスレットやバックルも正面から見て細身に仕立てられている。一方で自動巻きムーブメントを搭載していることからケースバックは厚みを持っており、コロンとした形状を持つことで、クォーツムーブメントを搭載したエレガントなレディースウォッチとはまた違った雰囲気を備えている。
また、4万2900円(税込み)という価格ながら、文字盤の出来が良いことに驚かされた。カラーはヴィヴィッドではなく、少しくすんだライトブルーで、サンレイ仕上げが施されることで着用中に手首の向きを変える度、文字盤上に光の筋が走った。加えてピンクゴールドカラーに縁どられた針やインデックス、ロゴは高級感に寄与しており、かつ「SEIKO」ロゴとインデックスは立体感を有している。
他のSKX seriesとは明らかに異なる「可愛い」意匠は、これまで男性がほとんどであったと思われるセイコー5スポーツに、女性というファンが参入していくことになるだろう。
毎日使いたくなる機械式腕時計であるということ
本作の美点は「可愛い」にとどまらない。ちゃんと「使える機械式腕時計」だ。実用性に優れている、ということである。
本作はダイバーズウォッチを出自とするSKX seriesだけあり、10気圧という心強い防水性を備えている。また、ケースやブレスレットは堅牢で、ステンレススティール製であることやベーシックな販売価格ということもあり、傷を過度に気にせず使えるのがありがたい。デイリーユースにも好適なレディースウォッチと言えるだろう。
レディースウォッチではそう多くない日付と曜日表示機能を有しており、かつ視認性の高い文字盤というのも実用性に優れるポイントだ。インデックスや時分針が大きいことが手伝って、強い光源下で針が文字盤に埋没して見にくくなったり、反対に暗所で時刻が分からなくなったりすることはなかった。
4時位置のリュウズはねじ込み式。リュウズガードに埋まっているものの、その取り出しや操作に難はなく、操作の際にリュウズに入れられた切り込みによって指の腹が痛くなることもなかった。針回しの感触も良い。
搭載する自動巻きムーブメントはCal.2R06である。パワーリザーブ約40時間と、現在の機械式腕時計のスタンダードが約70時間になりつつあることを鑑みれば短い気もするが、小径サイズであることや、税込み4万2900円という販売価格からしてみれば妥当である。正確な精度は計測していないものの、3日間着用した時点で時間を確認したところ、1分程度進みが見られた。
“ベーシックなレディース向けの機械式腕時計”として好適な1本
レディース向けの機械式腕時計は、非常にニッチと言って良い。高級腕時計ブランドを中心にそのラインナップは増えているものの、10万円以下で購入できるものとなるとオリエントスターなど、一部ブランドの製品に限られてくる。そんな中で今回着用レビューしたセイコー5スポーツ「SKX series」Ref.SRRA001は、そんなニッチな市場に新たなる選択肢として追加された、可愛くて、実用面でも毎日使える機械式腕時計である。
こういったポジションのモデルというのは、初めて機械式腕時計を購入する女性はもちろん、これまで何本かの腕時計を購入してきた、愛好家と呼ばれるような女性にも勧めたい。なぜなら腕時計、特にレディース向けの機械式腕時計の購入を検討してきた女性は、“ベーシックなレディース向けの機械式腕時計”が稀少な存在であることを知っていると同時に、こういった新しいポジショニングが確立されたことで、レディースウォッチ市場が広く多様になっていることを実感できると思うためだ。
この新作モデルを皮切りに、可愛くて、実用面からも価格面からも毎日使うのにふさわしい機械式腕時計の波が、いっそう広がってほしい。