トップガンはじめ、IWCの“洗練されたプロ向け”「パイロット・ウォッチ」5本を紹介

2025.03.31

現代におけるパイロットウォッチの在り方を再考する。そんな『クロノス日本版』Vol.98「パイロットウォッチ礼賛」特集を、webChronosに転載。今回はアメリカ海軍戦闘機兵器学校「トップガン」はじめ、プロフェッショナル向けなのに洗練さも備えている「パイロット・ウォッチ」を5本紹介する。

「人類の最も古い夢」を育み続ける、パイロットウォッチの歴史とは?

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IWCの〝型破り〟な「ビッグ・パイロット・ウォッチ・トップガン “モハーヴェ・デザート”」を深掘り

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なぜパイロットウォッチには、汎用クロノグラフムーブメントETA7750が選ばれてきたのか?

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奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]


プロ向けのツールを洗練させてきた85年もの長い取り組み

 1936年にパイロット・ウォッチをリリースしたIWCは、以降、各国空軍とコラボレーションを組んできた。とりわけ、アメリカの「トップガン」こと、アメリカ海軍戦闘機兵器学校との取り組みは、同社のパイロット・ウォッチをさらに進化させた。プロフェッショナル向けのツールでありながらも、幅広く使えるだけの品質を備えたパイロット・ウォッチ。それを象徴するのがここで紹介する5本だ。

IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン」

(右)パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン “トップ・ハッターズ”
1919年に設立された「トップ・ハッターズ」こと米国海軍第14戦闘攻撃飛行隊。文字盤や針の差し色は、この飛行隊の特徴的であるレッドで仕上げられている。リュウズなどはセラタニウム製。軟鉄製のインナーケースによる強化耐磁性能を備える。自動巻き(Cal.69380)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラミックケース(直径44.5mm、厚さ15.7mm)。6気圧防水。
(中)パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン “ロイヤル・メイセス”
日本の岩国基地に駐留する「ロイヤル・メイセス」こと米国海兵隊の第27戦闘攻撃飛行隊。横須賀の第5空母航空団に所属する9飛行隊のひとつ。ベースとなったのは第27戦闘攻撃飛行隊向けと共同開発したモデル。民間向けとなる本作は、そこに「メイセス」固有のイエローが施された。裏蓋にはF/A-18E「スーパーホーネット」が刻まれる。基本スペックは右モデルに同じ。
(左)パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン “ブルー・エンジェルス®”
米国海軍アクロバット飛行隊「ブルーエンジェルスʀ」の創立75周年記念モデル。ブルーエンジェルスの名前にふさわしく、ケースはブルーのセラミックス製、文字盤もブルーに改められた。本作に限らず、69系クロノグラフムーブメントを搭載したモデルは、79系を載せた旧作よりもインダイアルが大きい。そのためクロノグラフは明らかに使いやすくなった。基本スペックは右モデルに同じ。


IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン」「ビッグ・パイロット・ウォッチ」

 1936年に初めてパイロットウォッチを製作したIWCは、以降、各国の空軍にパイロットウォッチを提供してきた。その評価を決定的にしたのは、1948年のマークⅪである。高い耐磁性能と防水性能、そしてベゼルとミドルケースを一体化した耐圧ケースを持つ本作は、軍用パイロットウォッチのひとつの完成形だった。各軍の高評価を受けて、IWCはマークⅪを民間にも市販した。いわゆる「シビリアン」である。

 こういった伝統は、今なおIWCに受け継がれている。同社がアメリカの「トップガン」ことアメリカ海軍戦闘機兵器学校とコラボレーションを組んだのは2007年のこと。その裏では、最新鋭の航空機に乗り込むパイロットたちの意見を吸収し、時計の開発に取り組んだ。

 そもそも2000年代以降、IWCは社内の研究所で過酷なテストを行ってきた。クロノグラフのスタートとストップ、リセットの作動テストはそれぞれ2万回と1万回。300ワットのハロゲンランプに120時間さらすのは、文字盤の劣化を調べるため。これは時計が一生分に浴びる太陽光の量に同じだ。またマイナス20℃から70℃までの温度で保管して過酷な環境でも作動するかを確認する。加えてパイロットウォッチを含むスポーツウォッチの場合は、細かいショックを10万回も与えて、機構に不具合がないかを確かめる。リュウズも一生分の巻き上げを行い、その後も気密性が保たれているかをチェックする。そんな同社が、パイロットウォッチ作りに本気になったのは当然だろう。今のIWCは、米国海軍に所属する347の飛行チームに対するパイロットウォッチの開発ライセンスを与えられた唯一のメーカーであり、同社が市販するトップガンは、刻印が施される隊員向けのモデルと基本的には同じだ。

IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」

ビッグ・パイロット・ウォッチ
軟鉄製の耐磁インナーケースを持つプロ向けのパイロットウォッチが、ビッグ・パイロット・ウォッチ。そこに“らしからぬ”グリーン文字盤を合わせたのが本作だ。カラー文字盤に取り組む同社だけあって、高級感と高い視認性の両立は見事である。自動巻き(Cal. 52110)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径46.2mm、厚さ15.4mm)。6気圧防水。

 現役パイロットの意見が強く反映されたのはケース素材だった。かつてのトップガンのケース素材はSSであった。しかし現行モデルはすべてセラミックスか、チタンとセラミックスのメリットを併せ持った新素材セラタニウムに限られる。IWCはチタン素材も扱うが、プロフェッショナル向けのトップガンには軽いだけでなく、ダメージを受けにくい素材だけを使うようになったのである。ケースサイズも一般モデルとは別だ。一般的なパイロットウォッチに比べて、トップガンのケースはわずかに大きい。軟鉄製のインナーケースを加えたほか、ショックを受けても破損しにくいようにベゼルを少し広げたためである。IWCの一般的なパイロットウォッチが普段使いもできるように「細身」とされたの対して、相変わらずトップガンはプロ向けのツールとしての頑強さを保ち続けている。

IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー」

ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー
パイロット・ウォッチに永久カレンダーを加えた試み。おなじみの永久カレンダー機構は、1990年代後半以降、耐衝撃性を大きく改善した。タフな環境で使われるパイロット・ウォッチへの採用も納得だ。自社製のケースも、堅牢さと質感を両立したものだ。自動巻き(Cal.52615)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径46.2mm、厚さ15.4mm)。6気圧防水。

 とはいえ、無骨一辺倒ではなくなったのは今のIWCらしい。「ブルー・エンジェルス®」「ロイヤル・メイセス」「トップ・ハッターズ」3つのトップガンはプロ向けとは思えないほど洗練されたもの。また、グリーン文字盤を採用した「ビッグ・パイロット・ウォッチ」も、プロが使える品質と、ラグジュアリーウォッチとしての完成度を両立したものだ。明るい文字盤と高い視認性を加えた手腕は非凡である。

 純然たるプロフェッショナル向けの時計にもかかわらず、シビリアン向けの洗練を手にしたIWCのパイロット・ウォッチ。ツールでありながらも、それに留まらない魅力は、真摯なものづくりが至った帰結なのである。


【謝罪】正直、舐めていました。IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」はやっぱり“ビッグ”じゃなきゃ

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【83点】IWC/ビッグ・パイロット・ウォッチ 43

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