時計愛好家であり、時計ライターでもある堀内俊が、オメガ「コンステレーション」をインプレッションする。コンステレーションには多くのバリエーションが用意されており、今回取り上げるのは41mm径のステンレススティール製ケースにメテオライト文字盤を備えたモデルである。“インダストリアル系ウォッチ(機械式時計)”という独自の視点の下、この腕時計のディテールをひもといていく。
Photographs & Text by Shun Horiuchi
[2025年3月4日公開記事]
オメガ「コンステレーション」を着用レビューする
本インプレッションに際して、まずは冬日和の陽の光のもと、写真を撮りつつ、キズミで子細に観察してみて思った。これは厳密に設計され、高度に管理された生産体制下でこそ生み出されることが可能となった、現代の“インダストリアル系(工業系)”機械式時計においてたどり着いた、ひとつの頂点なのではないか?
“インダストリアル系”機械式時計とは何か?
機械式時計──それは4世紀以上の歴史を持つ、人類初の携帯(モバイル)機器のひとつと言えよう。機械式時計の進化は、精密な金属加工技術の発展とイコールとも取れると認識しており、その過程において人力の加工が徐々にマシンに置き換わってきたのはご存じの通りである。
さて、クォーツ革命以前の時計は、「生活必需品として実用に耐えうる精度」が最低限求められる性能であり、加えて世に出た製品は、使われた材料や品質等において、それこそピンからキリまであった。クォーツ革命以降、残念ながら機械式時計がかなえられる精度は、クォーツ式時計に比肩することはほぼなく、実用可能な精度はもちろん担保しているものの、特に1990年代以降は、機械式時計を趣味として楽しむ、あるいは、よりステータスとして所有していく時代に変化していった。こういった背景から筆者は、機械式時計の存在意義やその持ちうる性質について、クォーツ革命以前とそれ以降に大きく分けて捉えている。

本記事で取り上げるオメガの「コンステレーション」は、もちろんクォーツ革命以降の機械式腕時計である。クォーツ革命以降、特に2000年代は「スイスメイド」や「手仕事による工芸品」などの概念を価値として訴求するマーケティングが、機械式時計のつくり手の間では主流となっていく。そんな中オメガやロレックスは、当然モデルによってその性格は異なるものの、実用性に比重を置いてきた時計メーカーと言えよう。
腕時計を実用するにあたって、精度がとても大事ということは言うに及ばず、さらに現在の電子機器に囲まれた生活においては耐磁性能も必要だ。また、多くの人々には有名な一流ブランド品であることも重要な因子であろうし、そのブランド名に恥じないデザインや品質が求められることは言うまでもない。
これらの要素を現代のテクノロジーを使って、やれることをやり切っている腕時計のひとつこそが、コンステレーションである。
すなわち各金属パーツの加工品質はマシニングセンタによって相当な程度にまで高められ、シリコン製のヒゲゼンマイやテンワといった、極めて均質性の高いパーツ群を用いるなど、この時計を構成する何もかもがハイレベルな現代技術の粋を感じるものである。
こういった精度をはじめとした実用面においても、極めて高度に仕上げられた外装やムーブメントを持つという点においても、本モデルは超一流の工業製品だ。これは当然のことながら、歴史に基づく膨大な時計製造のノウハウとテクノロジーを適用できる資本の力がないと成し得ない。
手仕事は工芸品を生み出し、味を持つ。揺らぎやムラなど言語化しにくい因子による味こそが、手仕事の価値と捉えることもできる。かたやオメガはそれらを極限まで排除し、均質化した高みの頂点に達した本モデルのような腕時計を作り出した。それらをこの稿では勝手に“インダストリアル系ウォッチ(機械式時計)”と呼ぶこととする。
本物の鉄隕石(アイアン メテオライト)から形成され、ロジウムグレーのガルバニック加工が施された文字盤が特徴的な、「コンステレーション」シリーズ最大の41mm径ケースを持つマスター クロノメーターウォッチ。自動巻き(Cal.8900)。30石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.4mm)。50m防水。149万6000円(税込み)。
マシニングによる加工は、一切の隙を見せない完全な金属パーツ群を作り上げた
それでは例によって外装から見ていこう。
真っ先にメテオライトの文字盤が目に入るものの、それ以上にベゼルやケース、ブレスレットやバックルの、パーツ群の加工精度に驚いた。例えばケースサイドや、ケースがブレスレットにつながる部分などは微妙な曲面を成しており、ラグに相当する部分の平面度との対比が印象的で、その表面は精緻なサテン仕上げがなされている。
Cが取られたケースサイドのエッジの面はダイヤカットのような平面ではなく、雲上クラスが作るムーブメントにおけるブリッジのファセットのような、微妙なアールの付いたポリッシュだ。この部分はマシンで作った面を手で磨いているのではないか? コンステレーションの特徴であるベゼルサイドのクローもきれいなポリッシュ仕上げで、これは別パーツをはめ込んで構成されている。
ブレスレットは細長いセンターリンクを介して違和感なくケースとつながり、このセンターリンクのポリッシュとコマのヘアラインの対比が美しい。ケースのサテンは研削面のような仕上がりで、ブレスレットのヘアラインとは仕上げが異なるものの、トータルで見た光の反射率が近く、一体感がある。こういうさじ加減には心底舌を巻く。バックルも精緻な仕上がりであり、ワンタッチの微調整機構を持つため快適さも水準以上だ。なお半コマが2リンク付属するため、ブレスレット全体の長さだけでなくバックルの理想的な位置を追求できる点は、まさに使う人のことを考えた仕様である。
リュウズはエッジのない柔らかな意匠で、コンステレーションのイメージにふさわしい。ムーブメントは自動巻きのため、リュウズの操作は概ね時間合わせおよび時針の調整のみと思われるが、そもそも止まりさえしなければ超絶な精度を保っているので、ほぼリュウズの操作はフリーである。
リュウズの面はポリッシュされた「Ω」がエンボス加工であしらわれており、その地はどう見てもサンドブラストである。Ωをマスクしてサンドブラストか、それともサンドブラスト後にエンボス部分をポリッシュしたか定かではないが、明らかに手が掛かった仕上げがなされている。
ベゼルはブラックセラミックス製で、ローマンインデックスの数字はリキッドメタルを流し込んだ象嵌(ぞうがん)である。最後にベゼル表面全体をポリッシュしており、完璧な美観を持つ仕上がりだ。サファイアクリスタル風防は一見フラットだが微妙にドーム形状である。風防内側の見返しは珍しく黒色で、ベゼルからの連続感があり、かつ黒いインデックスや針とも親和性が高く締まって見える。
本モデルの特徴であるメテオライト文字盤は、自然物なので、同じものがふたつとないというのが売りである。石のようでもあり金属っぽいメタリックな輝きも放つ不思議な質感だ。ところで隕石に関しては、世界には隕石マニアも相応に存在する、コアな世界である。本モデルの文字盤に使われているのはムオニオルスタ隕石とされており、隕石の主な産地はナミビアやスウェーデン北部が知られるが、本メテオライトは後者と想定される。このような隕石の入手はもちろんブローカーを介することも考えられるが、隕石マニアがオンラインで取引をしているポータルサイトを利用することも可能であるし、はてはebayでも簡単に入手が可能である。ただしまとまった物量を手に入れるためにはそれなりの方策が必要であろうことは想像に難くない。
文字盤上のインデックスとΩ、OMEGA、さらにはコンステレーションの語源となる“★”マークは全てブラックPVDでアプライドだ。ベゼルにローマ数字があるので、文字盤のインデックスには数字が使えない。そのためくさび形状のインデックスを用いており、トータルなデザインにおいて自然である。Constellation、CO-AXIAL、MASTER CHRONOMETER表記は非常に精緻でクッキリとしていることから、テフコ青森の金属シールのように感じさせる。針は3本とも艶やかなブラックPVD仕上げで、視認性は高い。秒針はインデックス外端にジャストでリーチしつつ、分針は秒針よりもわずかに短くミニッツマーカーの中ほどまでとしており、ひとつのセオリー通りである。なお針先は曲げておらずストレート。筆者は完全にフラットな文字盤に対して無理に曲げる必要性はないと考える。
ケースバックはサファイアクリスタルで、マスター クロノメーター認定のCal.8900が観賞できる。サファイアクリスタルガラス外周はポリッシュされたベゼル形状で、6ポイントの穴があるため、スクリューバックと判断できる。ケース厚は13.4mmとドレスウォッチとしてはやや厚めであるが、直径は41mmであるため、妥当な厚さとも言えるだろう。
コンステレーションのデザインはラグを持たずブレスレットに直接つながることから、手首に載せた際に不安定になるかというと、そんなことはない。おそらくブレスレスレットが適切な厚さで、それなりに質量があるためと思われる。ただし“フルコマ”で172g(私の手首回りに合わせて、3コマ+ふたつの小さいコマを外した状態だと153g)とヘビー級の腕時計であり、細腕の私はきつめに巻いて動きを制限するような使い方になる。よって、バックルの微調整機構はありがたく、使用期間中は結構こまめに調整して快適性を確保した。
“インダストリアル”系ムーブメントの極北
本モデルに搭載されるCal.8900は現代だからこそ完成した、日常使用において極めて高いレベルで使い勝手の良い機械式ムーブメントだと強く感じた。その理由は多数あり、重要と思うところから列挙していく。
Cal.8900の5つの美点
まずは精度。着用2日間の精度は、なんと±0秒であった。その後1週間強ずっと使い続けたところ、7日間で累積7秒である。正直クォーツに比肩するとまでは言い過ぎだが、ここまで正確で日常使いに重宝な機械式時計は、これまでの時計ヲタク人生で初めてと思えるほどだ。シリコン製ヒゲゼンマイ、シリコン製テンワなどの現代テクノロジーと、極めて正確なマシニングによるばらつきの少ないパーツ群、適正な設計と組み立て、そのための膨大なノウハウ……これらが結実したのが、マスター クロノメーター認定だと断言できる。
次に耐磁性を持つこと。それもケースバック越しにムーブメントが見えるのに、だ。もちろんシリコン製パーツなどの帯磁しない材料群を用いた結果であり、日常で身の回りに存在する磁気を発する物体に気を使わなくて良い、というのは精神衛生上、誠によろしい。
3つめはダブルバレルにより、約60時間のパワーリザーブを持つこと。これは週末2日間、金曜の夜に手首から外して月曜の朝、再度着けるまで時計が止まっていないことを保証する。約48時間では足りないのだ。半日パワーリザーブが伸びることで、時計を止めてしまう機会はかなり減ずる。
4つ目はタイムゾーンファンクションすなわち、リュウズ1段引きで時針を1時間ごとに前後できる機能を持つこと。この機能に操作禁止時間帯はなく、日付が切り替わるタイミングを気にせず両方向への調整が可能である。これは海外渡航などでとても便利で、搭乗後に現地時間に調整するユーザも多いと思われるがその際に、日付を跨いで時針を戻すことも可能であるということだ。帰国時にも同様である。ただしこの機構は頻繁に使いすぎると故障を誘発する傾向があるとメンテナンス現場の有識者から聞いており、必要最低限に留めたい。
5つ目は、コーアクシャル脱進機であること。オーバーホール間隔が伸びることをオメガも謳っており、必ずしもメンテナンスフリーではないものの、一般的な機械式腕時計に比べて長い定期メンテナンス期間などのメリットが享受できる。
「比類なく普段使いしやすいムーブメント」
Cal.8900のこれらの美点は、繰り返しになるが極めて精度の高いマシニングによって作り出された、均質なパーツ群によって成し得たものだ。よってキズミで見るとほとんど人の手が入っていないことが分かる。アラベスク調のジュネーブウェーブと公式に称される特徴的な装飾は、ミリングによって正確に再現されている。ところがこのミリングに微妙なムラがあって、肉眼では手作業のように見えなくもないのだ。面取りは完全なダイヤカットで、平面のCが取られておりここはパキパキの機械仕上げで鏡面と言える輝きを放っている。細かく見ていくと、BARREL ONE、TWOなどの文字は赤いインクが流し込まれており、ルビーの赤とマッチしている。ネジ類はポリッシュされたシルバー色のステンレススティールと紺褐色のネジが使い分けられており、最高精度の平面というわけではないが、ネジの頭も十分に磨かれている。
ムーブメントのスペーサーは黒色をしており目立たないよう工夫がなされ、同じく黒褐色でムーブメントサイズに比較し相対的に大きめのテンワは、毎秒7.5振動という特徴的な振動数で運動している。もちろんフリースプラングだ。
つらつらと書いたが、第一の特徴に挙げた圧倒的な精度をはじめ多くの利点をもつCal.8900は、その優れた特徴から、比類なく普段使いしやすいムーブメントと言えよう。
完成度の高い“インダストリアル系”ウォッチ
オメガ「コンステレーション」をインプレッションした。腕時計自体の価格は150万円近いため、このクォリティーは当然だと見る向きもあろう。しかし筆者は、新しい「コンステレーション」の完成度がこれほどまでに高められていることにとても驚いた。
この腕時計は全方位的に欠点のない完成度の高さを誇るため、あらゆる人に自信を持って勧めたい。