ショパールを代表するコレクションとして展開されてきた「L.U.C」。1996年以来、同社の時計製造技術が注ぎ込まれ、同社いわく「スイスの時計製造における最高峰を体現」した時計でもある。一方で、L.U.Cはかつて時計市場の中ではニッチな存在だった。しかし2025年、30年近くにわたるショパールの「象徴」としての、L.U.Cのウォッチメイキングの結実が、新作モデルによって証明された。本記事では、そんな「証し」となる新しいL.U.Cを紹介する。
Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
[2025年4月2日公開記事]
ショパールの象徴であり続けてきた「L.U.C」コレクション
“デカ厚”ブームが来ようと、ラグジュアリースポーツウォッチ、略して“ラグスポ”ブームが来ようと、もちろんトレンドを取り入れた製品開発は行ってきたものの、あくまで「L.U.C」をブランドの代表的なコレクションとしてポジショニングしてきたショパール。このムーブメントの登場は、1996年のことだ。
「ハッピーダイヤモンド」「ハッピースポーツ」といったクォーツ式ムーブメントを搭載したジュエリーウォッチによって、ジュエラーとしての地位を築いていた同社。しかし1997年、スイス・フルリエの自社工房で製造した、自社製ムーブメントL.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)を搭載した「L.U.C 1860」を発表する。なお、L.U.Cはショパール創業者であるルイ-ユリス・ショパールのイニシャルであり、1860は創業年から取られている。

1996年に発表された自社製ムーブメントCal.L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)を搭載し、1997年に発表された「L.U.C 1860」。写真は2015年5月号『クロノス日本版』掲載の、「アイコニックピースの肖像」のために撮影された個人所蔵の個体。自動巻き(Cal.L.U.C 1.96、現L.U.C 96.01-L)。32石(後に29石)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KYGケース(直径36.5mm)。30m防水。
このCal.L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)はジュネーブ・シールの基準を満たしており、加えてこういった基準の下に製造された高級腕時計を超える、凝った仕上げを備えたムーブメントであった。L.U.C 1860のリリース以降、ジュエラーのイメージが強かったショパールはオートオルロジュリー製造にも注力し、実際に市場でもその姿勢が認知されるに至る。
しかし前述の通り、長らくスポーツウォッチが主流の時代が続いた。クラシックなスタイルが多く、かつ価格設定も高めのL.U.Cは、何本も腕時計を所有してきたような時計愛好家向けのコレクションであった。実際ショパールの名前が現在のように若年層にわたるまで知られるようになったのは、“ラグスポ”として人気を博した「アルパイン イーグル」の存在が大きかっただろう。
時代は変わって現在、“デカ厚”から“ラグスポ”を経て、クワイエットラグジュアリーが市場で浸透しつつある。クワイエットラグジュアリーは分かりやすい派手さのない、控えめなラグジュアリーといった意味で、これまで手元で存在感を発揮してきたスポーツウォッチとは一転、薄く小さいドレスウォッチや、シンプルでベーシックな機能の腕時計が好まれるようになってきたのだ。こういった時代の潮流もあり、L.U.C人気も高まっているように思われる。実際の売上高などは分からないが、メディアの露出は増え、L.U.Cの購入報告もよく耳にするようになった。
ショパールは“ラグスポ”全盛期から今に至るまで変わらず、L.U.Cのコレクションを充実させてきたが、2025年、フルリエにマニュファクチュールを開設してから30周年という節目を前に、ショパールがこれまでL.U.Cをメゾンの根幹としてきたその歴史と、そして1996年以来培ってきたムーブメントの製造技術を結実させたような快作がリリースされた。その新作モデルの数々を、本記事で紹介する。
ショパールの注目新作①「L.U.C クアトロ‐マーク IV」

手巻き(Cal.L.U.C 98.09-L)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約216時間。Ptケース(直径39.00mm、厚さ10.40mm)。30m防水。予価722万7000円(税込み)。

手巻き(Cal.L.U.C 98.09-L)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約216時間。18KRGケース(直径39.00mm、厚さ10.40mm)。30m防水。予価579万7000円(税込み)。
2025年は「L.U.C クアトロ」誕生25周年にあたる。L.U.C クアトロは、極めて長いパワーリザーブを備えることを特徴とするコレクションだ。この持続性を実現するのは、ショパール独自のクアトロテクノロジーだ。4つの香箱をふたつずつ積み重ねることで、全長1885mmの主ゼンマイを収めることに成功しているのだ。
2000年にCal.L.U.C 98.01-Lとしてリリースされて以来、アップデートされ、またいくつかのバリエーションがラインナップされてきた中で、本作に搭載されるCal.L.U.C 98.09-Lは、第4世代とされる。そのため従来のショパールの他のコレクションにも見られたように、モデル名に“マーク IV”と、番号が振られた。パワーリザーブは約216時間、日数に直すと約9日間である。

この新しいムーブメントは、これまで文字盤側に配されていたパワーリザーブインジケーターがケースバック側に移動されていることが従来からの変更点である。ジャンピングアワーが付加されたCal.L.U.C 98.06-Lではこの仕様が採用されていたものの、3針モデルでは初。なお、これまでのクアトロムーブメントのCOSC認定クロノメーター、そしてジュネーブ・シールの基準を満たすという品質保証は変わらず引き継がれている。ショパールはL.U.C クアトロムーブメントにただ高級な仕上げを与えるのみならず、ロングパワーリザーブや巻き上げヒゲゼンマイによる調速の精密な制御など、性能面でも優れた特性を見せていることがポイントだ。

新型ムーブメントを搭載したモデルらしく、外装も特別感ある仕様となっている。
ラインナップされた2型のうちバーティカルサテン仕上げが施されたプラチナ製ケースは、梨地仕上げが施されたスカイブルーPVD文字盤が組み合わされる。エシカルホワイトゴールド製の針、インデックスがこのケースや文字盤の色合いと静かに調和しており、L.U.Cコレクションに通じる、ミニマルな佇まいがエレガントな雰囲気を醸し出している。なお、今後ショパールのプラチナ製モデルには、ラグの間に手彫りのミツバチのシンボルがあしらわれるという。勤勉なミツバチは、ショパール マニュファクチュールの象徴のひとつに位置付けられている。
もうひとつのL.U.C クアトロは、バーティカルサテンに仕上げられた18Kエシカルローズゴールド製ケースに、ガルバニック加工によって深いブルーに彩られた、梨地文字盤が組み合わされたモデルである。緩やかなドーム型のサファイアクリスタル製風防やケースに溶接される前に独立して製造されたラグと相まって、優美なラインを描いていることが見て取れる。
なお、ショパールは2018年7月以降、すべての18Kゴールド製ウォッチとジュエリー製造で、エシカルゴールドを100%使用している。1990年代、マニュファクチュールという用語が時計業界に浸透しはじめた初期の時代から自社製ムーブメントの開発・製造を行い、高級時計市場やその市場でのウォッチメイキングを牽引してきたメゾンらしい、社会的責任の果たし方だ。
ショパールの注目新作②「L.U.C クアトロ スピリット 25‐ストロー マルケトリー エディション」

手巻き(Cal.L.U.C 98.06-L)。42石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約192時間。18KRGケース(直径40.00mm、厚さ10.30mm)。50m防水。世界限定8本。予価1031万8000円(税込み)。
クアトロムーブメントを祝うもうひとつの新作モデルが「L.U.C クアトロ スピリット 25」のストローマルケトリーエディションだ。
クアトロムーブメントにジャンピングアワーを搭載したCal.L.U.C 98.06-Lは、ショパール マニュファクチュール25周年にあたる2021年に発表された。4つの香箱による約8日間ものロングパワーリザーブもさることながら、6時位置に設けられたジャンピングアワーの小窓、そして分を指し示す1本針が特徴的な本作は、さらに麦わら寄木細工を施した、ストローマルケトリ文字盤を有している。
ミニッツスケールを持たない文字盤上にはハニカムパターンが施されており、各パターンが濃淡の異なるグリーンのストローマルケトリーによって仕上げられている。この文字盤で使用されているストローマルケトリーの素材はフランスのブルゴーニュ地方で栽培されたライ麦の麦わらをグリーンに染め上げたものだ。さらにその1本1本を爪で裂き、プライヤー(ペンチ)で平らにする。その後、スカルペル(メス)を使って小さな六角形にカットして、エシカルローズゴールド製の土台に接着していくという緻密な手作業によって作られているのだ。1996年以来、カール-フリードリッヒ・ショイフレがL.U.Cコレクションのシンボルとして結び付けてきたハニカムパターンが、芸術的技法へと昇華されていると言える。組み立てられた文字盤は、最後にウッドワックスでコーティングされる。この最後の仕上げによって光沢を得て、手元で存在感を放ってくれるのだ。手縫いのグリーンアリゲーターストラップも、文字盤とよく調和している。
なお、本作のムーブメントも、ジュネーブ・シールの基準を満たしている。
ショパールの注目新作③「L.U.C ヘリテージ EHG ムーン 122」

手巻き(Cal.L.U.C 63.04-L)。20石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGケース(直径44.00mm、厚さ12.70mm)。30m防水。世界限定20本。予価1362万9000円(税込み)。
2024年に創立200周年を迎えたジュネーブ時計学校(EHG)。2004年からこの学校とパートナーシップを結んできたショパールは、200周年という節目を祝うにふさわしい“新たな美”をまとった「L.U.C ヘリテージ EHG ムーン 122」をリリースした。
本作が搭載する手巻きムーブメントCal.L.U.C 63.04-Lは、ショパールがジュネーブ時計の学校の学生たちへ卒業制作用として供給しているL.U.C 06.01-Lをインスピレーション源に製造したCal.L.U.C 63.01-Lに、アストロノミカルムーンフェイズモジュールを付加している。20年以上にわたってジュネーブ時計学校とともに共同開発した“スクールキャリバー”を提供してきたショパール。学生らはこの完成品と半完成品の部品キットによって、ムーブメントの装飾技術と調整技術との双方を学ぶ機会を得ることができているが、さらにショパール・ジュネーブ時計学校は、1年間の追加研修を希望する学生たちに向けて、アストロノミカルムーンフェイズモジュールをベースムーブメントに追加することを決めたのだ。
ショパールのアストロノミカルムーンフェイズは、122年と45日に一度のみ調整が必要という高い精度を誇る機構だ。新月から次の新月までの月周期において、実際の月の軌道とショパールの同機構との誤差はわずか57秒。3時位置にこの天体の動きを表現するインジケーターが配されており、ローズゴールドとアベンチュリン製ディスクの上にハンマー加工と彫金によって描かれた月が、満ち欠けを幻想的に表現してくれるのだ。もちろんCOSC認定クロノメーターとジュネーブ・シールの基準を満たしている。

9時位置のスモールセコンドは北極点から眺めた地球という、独特な世界観によって表されている。この地球はゴールドの彫金で、海はインテンスブルーのラッカーで描かれた。ホワイトの転写加工によってアベンチュリン文字盤全体に施された北半球の星座と相まって、ジュネーブ時計学校の歴史はもちろん、機械式時計において、さまざまな世界観を表現することを追い求めてきた人類の歴史に浸れるような逸品となっている。なお、エシカルな18Kローズゴールド製ケースも特別で、この意匠は19世紀にルイ-ユリス・ショパールがデザインした、懐中時計のハンターケースのフォルムを彷彿とさせるというのだ。このフォルムを持つがゆえに、本作のモデル名には「ヘリテージ」が冠された。
なお、ジュネーブ時計学校とのコラボレーションをはじめ、ショパールの時計製造トレーニングへの取り組みは時計業界で高く評価されている。また従業員への投資にも力を入れており、2024年、ジュネーブ州はこういった取り組みに対して最優秀企業賞(Best Training Company Prize)を授与している。
ショパールの注目新作④「L.U.C フル ストライク レヴェレーション」

手巻き(Cal. L.U.C 08.01-L)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KYGケース(直径42.50mm、厚さ11.55mm)。非防水。世界限定20本。予価4592万5000円(税込み)。
シースルー文字盤からCal. L.U.C 08.01-Lがあらわになった「L.U.C フル ストライク レヴェレーション」は、L.U.Cコレクション25周年となる2022年に発表された、“鳴り物”3部作である「サウンド オブ エタニティ」に次ぐ、特別なミニッツリピーターウォッチだ。
ショパールが特許を取得したモノブロックサファイアクリスタル製ゴングを備えたこのミニッツリピーターは、ピュアな音色を変えずに、18Kイエローゴールド製ケースにそのムーブメントを搭載した。
歯車をはじめとした各パーツの複雑な造形もさることながら、まず文字盤を見た時に目を引くのが、9時側に配されたリピーターを象徴するガバナーやハンマーなどの機構である。ゴングの役割を果たすソリッドなサファイアクリスタルと、共鳴器となるサファイアクリスタルがモノブロックとなることで、豊かな音色と音響の力強さを実現したこの機構。文字盤側からその機構を観賞できるというのは、コンプリケーションウォッチを所有するうえで最高の仕様と言える。サファイアクリスタルは経年劣化しないため、いつまでも美しい音色と美観を耳と目で楽しめるというのも、高級時計を所有するうで重要なポイントだ。
文字盤には時分針のほか、パワーリザーブインジケーターとスモールセコンドも配されているが、サファイアクリスタル上に記されているため、ムーブメントの美観を邪魔しない。
さらに本作はジュネーブ・シールの品質基準を満たすことはもちろん、COSCクロノメーター認定機となっている。特許取得の音響機構を備えた腕時計では、クロノメーターを取得したものは史上初とのことだ。
ショパールのウォッチメイキングが結実した「L.U.C」コレクションの快作
「L.U.C」コレクションから、豊富にリリースされたショパールの2025年新作時計。本文中でも記したように、同社は時計市場のトレンドに左右されず、これまでもL.U.Cコレクションを拡充させてきた。
しかし今年は、例年と比べても大量の傑作が用意されており、ショパールが本コレクションに特に力を入れていることが推測できる。
この新しいL.U.Cの顔触れは、クワイエットラグジュアリーが浸透しつつある時計市場において、L.U.Cへの需要が高まっていることの表れである。と同時に、長年のL.U.Cのウォッチメイキングが結実し、コレクションとしての“成功”を見た今、L.U.Cの傑作は今後もさらに増えていくと期待させられる。