日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は外国船の“船長”であり、人気YouTubeチャンネル「腕時計のある人生 Channel」を運営するRY氏が、5本を選出した。1位は、年々ドレスウォッチが好みとなっていくRY氏が、「恋に落ちた」というショパールである。
1位:ショパール「L.U.C クアトロ‐マーク IV」Ref.161954-9001

手巻き(Cal.L.U.C 98.09-L)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約216時間。Ptケース(直径39.00mm、厚さ10.40mm)。30m防水。予価722万7000円(税込み)。ショパールブティック限定販売。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
ライトブルーカラーのフロステッドテクスチャーの文字盤に立体感ある楔形のインデックス、直径39mm、厚さ10.40mmのプラチナ製ケースにジュネーブ・シールを獲得したムーブメント。360度どこをとっても美しいだけでなく、4つの香箱を備えた約9日間のパワーリザーブ(しかもCOSC認定の精度!)は技術的にも素晴らしい。しかも、パワーリザーブインジケーターを裏面に隠すことで、あくまでもエレガントに徹しているのはさすがの美学。
2位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003

スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RB2)。年差±20秒。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37.0mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。2025年6月6日(金)よりグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
小径(37mm)ケースに微調整機構付きブレスレットというコンビネーションだけでも時計ファンの話題に挙がるには十分だっただろう。しかしさらなるサプライズとして、新ムーブメントCal.9RB2を搭載。主ゼンマイ駆動式の腕時計としては世界最高の年差±20秒という高精度を実現した「スプリングドライブ U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)」だ。かつて同ブランドには、当時のクロノメーター基準を大きく上回るV.F.A (Very Fine Adjusted)という伝説的モデルが存在していたが、それを凌駕する。歴史にインスパイアされたネーミングも胸熱。
3位:ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド」Ref.Q398847J
手巻き(Cal.854)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦47×横28.3mm、厚さ10.34mm)。3気圧防水。212万9600円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
ジャガールクルトの「レベルソ」はいつも筆者のウィッシュリストに入っているが、「トリビュートフェイスで、白orシルバーと黒文字盤の両面で、厚さ10mm以下」という“超個人的理想のレベルソ”は(筆者の知る限り)未だ存在していなかった。しかし本作は、極めてそれに近い(厚さのみ10.34mm)。使いやすい色の両面はうれしく、知的な雰囲気も魅力的。200万円越えの価格も、2本分の時計とすれば、1本100万円強と考えることも可能かも?
4位:A.ランゲ&ゾーネ「1815」Ref.220.028

手巻き(Cal.L152.1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。385万円(税込み)。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
「1815」誕生30周年となる本年、直径34mm、厚さ6.4mmの控えめサイズの新作。ケース径34mmは数値上ではかなり小さく思えるが、実物は意外としっくりくるサイズ(むしろかなり快適で不思議とこのサイズが一番いいのでは? と思えてくる)。シェアウォッチとしても優秀。Cal.L152.1は、コンパクトになっただけでなくパワーリザーブが約72時間に延びるなど、性能も向上。青とホワイトゴールドの組み合わせが非常に爽やかでおしゃれ。
5位:ノモス「クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー シルバー」Ref.791

自動巻き(Cal.DUW 3202)。37石。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ9.9mm)。10気圧防水。77万2200円(税込み)。(問)大沢商会 Tel.03-3527-2682
ワールドタイマーはいつか欲しい複雑機構のひとつ。しかし価格やサイズ、スペックなどで実用的な範囲に収まるモデルは、意外なほど少ない。本作は70万円台という価格でサイズは直径40mm、厚さ9.9mm、防水性は10気圧防水と、まさに実用的なワールドタイマーと言える(しかも自社製ムーブメント)。複雑な機構をシンプルに品よく、おしゃれにまとめ上げるパッケージングはさすがノモス。限定モデルも含めると全部で8種類のカラー展開も楽しい。
総評
クラシック回帰やケースの小径化など、ここ数年続いているドレス指向のトレンドは今年も全体的に継続傾向だったのではないだろうか。
かくいう私もその風に当てられたのか、好みが年々ドレス寄りになってきている。
加えて今年は、「淡い色」の文字盤カラーが数多く発表されたように感じた。
カラフルな文字盤展開はここ数年の傾向としてあったように思うが、これまではビビッドで力強い印象のものが多く、今年はより淡く柔らかい色が多い印象。
スイス時計協会FHの統計によると、昨年はスイス時計の輸出先(金額ベース)として、中国が大きく下落し(前年比-25.8%)、北米や日本が上昇(同+5.0%、+7.8%)したことが影響しているのかもしれない。
いずれにせよ、淡い色はドレッシーな時計と相性が良いと思うので、個人的にはウェルカムである。
上位3本への思い
今回も例によって、個人的に欲しい! と思う時計を挙げさせてもらった。
簡単な感想は上記の通りだが、特に上位3本について、よりカジュアルに心の内を書きたいと思う。
1位のショパール「L.U.C クアトロ‐マーク IV」Ref.161954-9001は、恋に落ちた。というと陳腐なフレーズのように聞こえるが、今の筆者の気持ちを表すのにぴったりな表現かもしれない。本作をひと目見た時から頭から離れず、日々の生活での見え方やコレクションボックスに並べることを妄想してしまう。しかし700万円超えという価格は、険しくそびえ立つ山脈のように目の前に立ちはだかる。まさに高嶺の花。
2位のグランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003は、ついに!! というのが初見の感想である。というのも、微調整機構つきブレスレットは世界の時計ファンの間でも前々から待望されていたからだ。しかも“U.F.A”という技術的革新とそれに伴う小径化といううれしいサプライズ付き。個人的には、iPhoneがiPhone15でUSB-Cコネクタになった時のような、あるいは『大乱闘スマッシュブラザーズ』に実現不可能と言われていたキングダムハーツの「ソラ」が参戦した時のような、うれしいインパクト。
3位のジャガールクルト「レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド」Ref.Q398847Jについては、今年のレベルソ新作ラッシュに圧巻。「レベルソ・トリビュート ジオグラフィーク」や、18Kピンクゴールド製のミラネーゼメッシュブレスを備えた「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」Ref.Q713216Jも素晴らしく、どれを選出するかとても悩んだ。最終的にはケース厚と色、価格の総合的観点から、Ref.Q398847Jを3位に選んだが、いずれもベスト10には入るくらい個人的にヒットしたモデル。
やはり毎年W&WGは楽しい。
特に出展ブランドが約60社と過去最高を記録し、楽しみはますます広がっていく一方である。
半面、ほぼ同時期に発表されたトランプ関税では、スイス製品に31%の関税をかけるとのことで、スイス時計産業にとって大きな打撃となる可能性があり、結果によっては来年の新作発表にも大きな影響を及ぼすのではないかと懸念している。
これからもポツポツと各社から新作発表があると思うので、引き続き注目していきたい。
選者のプロフィール

腕時計のある人生 RY
1990年生まれ。本業は外国船の“船長”。初めて購入した機械式時計をきっかけに腕時計の魅力に取り憑かれる。腕時計好きの人口を増やすため、2019年にブログ「腕時計のある人生」を開設。20年にはYouTube「腕時計のある人生Channel」を開設した。webChronosへのインプレッション記事の寄稿やForza Stayleの人気動画シリーズ「ロック福田の腕時計魂」への出演なども行う。