30年以上にわたって時計業界に身を置いてきたジャーナリストの菅原茂氏は、オリエント・オリエントスターもまた、長年取材してきた。そんな菅原氏が同ブランドの「M34アバンギャルドF8 スケルトン」の、2025年新作モデルを着用レビューする。2年前にアバンギャルドスケルトンに触れて「リミッター解除」の「問題作」と感じた筆者は、今作をどう評価したか?
Photographs & Text by Shigeru Sugawara
[2025年4月4日公開記事]
筆者が「リミッター解除」と感じた「アバンギャルドスケルトン」
この「アバンギャルドスケルトン」が発表されたのはたしか2年前。これはオリエントスターのイメージを塗り替える「問題作」に違いないと感じた。さまざまなタイプのスケルトンを通じて機械式の魅力をアピールしてきたオリエントスターだが、そんなブランドの伝統をぐんとモダナイズ、ゆえにアバンギャルドと銘打ったのだろうが、精密加工技術を駆使した大胆なオープンワークのデザインが何より目を引く、いわば「リミッター解除」のモデルだと思ったのだ。インパクトはそれだけでなない。注目に値するのは新しい自社製ムーブメントも同様。Cal.F8F64の特徴は、特許取得のシリコン製ガンギ車で脱進機のエネルギー伝達効率を改善し、オリエントスターの自動巻きでは初めて駆動時間を60時間以上に伸ばしたこと。国産時計でシリコン製ガンギ車を用いるのは、筆者の知る限りオリエントスターだけだと思うが、この部品によってパワーリザーブの飛躍的向上を実現したのは快挙と言える。技術面での魅力も高めたこの新世代ムーブメントでブランドの独自路線が一段と鮮明になったのは間違いないだろう。

2023年に、当時「スポーツコレクション アバンギャルドスケルトン」として発表された、現在の「M34 アバンギャルド F8 スケルトン」。自動巻き(Cal.F8F64)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42.3mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。26万4000円(税込み)。
2025年新作「M34アバンギャルドF8 スケルトン」を着用レビュー
さて今回試着したのは、正式名称「M34 アバンギャルド F8 スケルトン」の最新作、それも数量限定の特別仕様モデルだ。

自動巻き(Cal.F8F64)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.3mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。世界限定300本(国内200本、海外100本)。29万7000円(税込み)。
力強く構築的なデザインのケースや奥行き感を強調したオープンワークダイアルはレギュラーモデルと同じなのだが、まったく違っているのがカラーリング。ゴールド色で彩ったケースやリュウズ、フランジのインナーリング、そしてベージュのダイアル、カーキ色のストラップ、これらが“デザートラグジュアリー”と称したデザインテーマの基に新たなイメージを創出しているのだ。他にもステンレススティールの色と質感そのままのタイプや、オールブラック仕様の同モデルもラインナップしているが、こうしたメタリック=クール、ブラック=スタイリッシュとは対象的に、デザートカラーから想像が広がるのは、ホットかつアクティブなシーンだ。
ちなみに砂漠といえば、アフリカのサハラ砂漠やアラビア半島のドバイ郊外を旅したことがある。そう、この限定モデルのデザートカラーからの単純な連想ではあるけれど、そんな砂漠の旅を久しぶりに思い出し、時計を横に置きながら当時の写真を見て楽しんだ。時計は機能的なツールであるだけでなく、別の価値観、何というかイマジネーションやエモーションの喚起力も重要だと思えてきた。「アバンギャルドスケルトン」も、腕に載せたとたん、Ready To Go ! じっとしていられない気分に誘われる時計なのだった。というわけで、さっそく砂漠の旅に出かけた・・・・なんていうストーリー展開ならサイコーなのだが、実際は地元横浜のぶらり旅にこの時計を連れ出した次第。
桜の開花が迫った春のある日、晴天の自然光のもとで時計を見た。視認性は非常に良好だった。SAR無反射コーティングのおかげで、サファイアガラスが存在しないかと思われるほど抜けがよく、パーツの面取り加工や表面の繊細な装飾仕上げを含め、複雑な多層ダイアルとムーブメントのディテールがクリアに見渡せる。特に、光の当たり具合で一瞬きらりと輝いて見えるブルーのシリコン製ガンギ車にはちょっと感動を覚えた。気取って言えば、夜空で見つけた星のよう。オリエントスターへのこじつけみたいで恐縮だが、いやいやどうして、このモデルの「M34」のように、流星群に仮託してコレクションを編成した現在の「宇宙感」をブルーのシリコン製ガンギ車がシンボライズして、文字通り「輝ける星」に見えるのは自分だけの思い込みではない気がした。
デスクワークと外出、合わせて3日着用した。気に入った点を挙げると、まず自動巻きながら表示が中2針スモールセコンドであること。このモデルに限らず、スモールセコンド推しはもう個人的な好みというほかない。もちろん、スケルトンデザインの魅力をフルに発揮するには、針の本数を抑えるのがセオリーなのは当然だろう。重さに関しては、レギュラーモデルのブレスレット仕様が180gなのに対して、ストラップ仕様のこちらは実測で約110gとかなりの減量。したがって腕への負担はほとんど感じられなかった。もとよりストラップのほうが断然好みだが、表側がキャンバス調のナイロンで、裏側がイエローのレザーという洒落た演出も魅力的だった。また、ストラップの着脱がプッシュボタン付きの三つ折り型デプロワイヤントバックルによって容易に行えるのも評価ポイントとして加えたい。
技術に加えて、イマジネーションとエモーションを喚起させる1本
すでに旧規格のオリエントスターを何本か所有しているが、「アバンギャルドスケルトン」には新たな発見が多々あり、従来のオリエントスターを知る時計好きにとっても魅力的だろう。ひとことで言うと、見て楽しい、着けて心弾むということ。技術は申し分なく、あとは繰り返すようだが、イマジネーションやエモーションの喚起力、そんな価値観を発見させる時計なのだと思った。百聞は一見に如かず。実感することが大切だ。
菅原茂のプロフィール

1954年生まれ。時計ジャーナリスト。1980年代にファッション誌やジュエリー専門誌でフランスやイタリアを取材。1990年代より時計に専念し、スイスで毎年開催されていた時計の見本市を25年以上にわたって取材。『クロノス日本版』などの時計専門誌や一般誌に多数の記事を執筆・発表。時計専門書の翻訳も手掛ける。