2025年に発表された新作腕時計のうち、傑出したクロノグラフ搭載モデル5本を紹介しよう。グランドセイコーやブライトリングなどから、モダンで前衛的なデザインを2本、クラシカルなデザインを2本、硬派なツールウォッチを1本選出。各時計ブランドの特色や得意分野が表れたラインナップとなった。
Text by Shin-ichi Sato
[2025年4月12日公開記事]
2025年に発表された新作腕時計から傑作クロノグラフを選出
計測用の針を備えることで、ストップウォッチ機能を果たすクロノグラフ。実際に日常的に使うかどうかは別として、人気の高いジャンルとなっている。今回はそんなクロノグラフを、2025年に発表された新作腕時計に絞って、傑作5本を選出。グランドセイコーやブライトリング、ジンなど、各社の特色があふれるラインナップとなっている。
グランドセイコー「スポーツコレクション Tokyo Lion テンタグラフ」Ref. SLGC009

自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間(クロノグラフ作動時)。ブリリアントハードチタンケース(直径43.0mm、厚さ15.6mm)。20気圧防水。231万円(税込み)。2025年8月8日(金)よりグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで発売予定。
グランドセイコー「スポーツコレクション」に、初の機械式クロノグラフモデル「スポーツコレクション Tokyo Lion テンタグラフ」がラインナップされる。従来、クロノグラフモデルは存在したが、スプリングドライブムーブメントを搭載したモデルであった。
本作は、2023年にグランドセイコー初の機械式クロノグラフムーブメントとして発表された「テンタグラフ」ことCal.9SC5を搭載している。テンタグラフとは“Ten beats per second, Three days, Automatic chronograph”すなわち、クロノグラフ作動状態で約3日間のパワーリザーブを備える自動巻きクロノグラフを意味している。また、グランドセイコーが重視する「正確な計測と操作性、耐久性」の確保のため、指針ずれや針飛びが抑制され、コラムホイールや三叉ハンマーにより計測開始/停止、リセットの操作感が高められている点も特徴であった。

このような、基本性能が高くて操作感も良好なクロノグラフムーブメントであれば、スポーティーなモデルに搭載されるのは自然な流れであろう。本作は、グランドセイコーのシンボルである“獅子”をモチーフとしたデザインにテンタグラフを搭載したモデルだ。
ケースのシルエットは獅子の力強い爪から着想を得たもので、「スポーツコレクション スプリングドライブ クロノグラフGMT」との共通点や、セイコースタイルを確立した「44GS」との関連性も見て取れる。一方で、ケース厚さ15.6mmと塊感のあるボリューム、エッジを効かせたベゼルとケースの造形は本作独自の魅力である。
文字盤もオリジナルデザインが用意された。獅子のたてがみが風になびく様から着想を得た「風靡(ふうび)」パターンがデザインされている。インデックスも獅子の爪を思わせる力強いデザインであり、視認性にも優れる。
ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー キングゴールド セラミック」

自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kキングゴールド×ブラックセラミックスケース(直径43mm)。100m防水。世界限定250本。526万9000円(税込み)。
ウブロの中核を成す「ビッグ・バン」コレクションの20周年を祝う限定モデル「ビッグ・バン 20th アニバーサリー エディション」が発表された。ビッグ・バンは、現在では「クラシック・フュージョン」として引き継がれている「クラシック」のデザインテイストをベースにした、スポーティーなコレクションである。クラシックは、金属製の高級時計にゴム素材(ラバーバンド)を持ち込んだエポックメイキングなモデルである。ウブロは、この“異素材の組み合わせ”が自身の特徴であると考え、それを発展させて「アート・オブ・フュージョン(異なる素材やアイディアの融合)」のフィロソフィーを固め、打ち出されたのがビッグ・バンであった。
ビッグ・バンの技術的な特徴は、ミドルケースを上下から板で挟む構造を持っている点で、ステンレススティールやセラミックス、チタニウム、カーボンといった異なる素材を組み合わせやすいものとなっている。また、この構造によってメリハリのある造形となって立体感が強調され、これがビッグ・バンのデザイン上の特徴にもつながっている。
今回取り上げるのは、ビッグ・バンの誕生20周年を祝う限定モデルの「ビッグ・バン 20th アニバーサリー キングゴールド セラミック」である。従来のゴールド素材よりも赤みの強い独自素材「キングゴールド」と、ハイテク素材の代名詞のひとつであるセラミックスを組み合わせ、コントラストの高いデザインである。搭載されるのは自動巻きフライバッククロノグラフムーブメントのCal.HUB1280で、9時位置にスモールセコンド、3時位置に60分積算計を備えるデザインコードを守った配置である。
ジン「613 St」Ref.613.012

自動巻き(Cal.SW515)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径41mm、厚さ15mm)。500m防水。予価71万5000円(税込み)。今夏発売予定。
ジンの新作クロノグラフは、6時位置に60分積算計を備えた「613 St」である。従来のダイビングクロノグラフ「206」は、30分積算計と12時間積算計の組み合わせであった。この配置は多くのクロノグラフモデルでの採用実績があり、機能上の不足は無い。一方で、30分以上、例えば45分を測り取る際には、“15”を指し示した30分積算計と、“0.5目盛り”だけ動いた12時間積算計の表示を読み取る必要があった。
それに対して新作の613 Stは、6時位置に60分積算計を設けており、45分経過時には“45”を直接読み取ることができるようになっている。また、60分積算計を文字盤上で大きく取り、ホワイトにカラーリングして目立たせている点も特徴だ。これらの改良は、クロノグラフを高い頻度で使用し、しかも30分以上、60分未満の時間の測定を重視するダイビングの現場の声に応えた、ジンらしい“渋い改良”と言えるだろう。
クロノグラフを多用するユーザーにとって嬉しいポイントとして見逃せないのがプッシュボタンだ。本作にはD3システムが採用されており、水中でもクロノグラフを操作可能となっているのだ。さらに、DIN 8310に基づく500m防水性能、DNVヨーロッパ潜水機器規格EN 250/EN 14143の認定を取得するなど高い基礎性能を有しており、ダイビングユース以外にも、水に濡れる機会が多いハードな環境でクロノグラフを使いたいユーザーにとって、信頼できるパートナーとなることだろう。
ブライトリング「トップタイム B01 レーシング リミテッドエディション」

自動巻き(Cal.B01)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径38mm、厚さ13.3mm)。100m防水。世界限定750本。107万8000円(税込み)。
クロノグラフ機能は、ある時点からの経過時間の測定を、より簡単に、より正確に行うため活用されてきた歴史があり、その代表例が航空産業だ。航空産業以外ではスポーツ用途、特に0.1秒を争うモータースポーツでは、クロノグラフ機能が大きな役割を果たしてきた。
航空機パイロット向けクロノグラフで大きな存在感を放つのがブライトリングであり、その貢献の大きさは広く知られている。一方、モータースポーツにおいてもブライトリングは貢献し、魅力的なモデルも多くラインナップしてきた。
そのひとつが1960年代の「トップタイム」であり、そのデザインを復活させたのが今般発表された新作「トップタイム B01 レーシング リミテッドエディション」である。ケースはクラシカルなクッション型で、文字盤外周にタキメーターを備える。特徴的な“角丸”型のサブダイアルで、3時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを備え、それらをつなぐようにホワイトで囲んだデザインを持つ。これは、トップタイムのアーカイブから着想を得た「ダッシュボード」モチーフであり、本作のアイコンであるのと同時に、かつてのレーシングカーではダッシュボード上にストップウォッチを設置していたことも想起させるデザインになっている。
組み合わされるストラップは、往年のモータースポーツ向けモデル、特にラリー向けモデルで採用事例の多い、パンチングメッシュのある“ラリータイプ”とも呼ばれるもので、本作のスポーティーさとクラシカルな印象をより高めるコーディネートとなっている。
パテック フィリップ「グランド・コンプリケーション」Ref.5370R-001

自動巻き(Cal. CHR 29-535 PS)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ13.56mm)。3気圧防水。4571万円(税込み)。
パテック フィリップがスプリットセコンドクロノグラフモデル「グランド・コンプリケーション」Ref.5370に18Kローズゴールドケースモデルを追加した。クラシックな外観にパテック フィリップの最新技術が投入されている点が特徴だ。
文字盤はブラウンの本七宝をベースとし、3時位置の30分積算計、9時位置のスモールセコンド、タキメーターが記された外周部はベージュのシャンルべ七宝が施される。ふたつのサブダイアルは6時方向にオフセットされ、それによって確保したスペースを最大限に使ってサブダイアルが広く取られ、視認性が高められている。ローズゴールドの色調と、ブラウンとベージュがマッチしたシックな仕上がりで、ブレゲ数字のインデックスおよび各針もローズゴールド製とすることでデザインに統一感が加えられている。
さて、スプリットセコンド機構について改めて解説しよう。計測開始時には、文字盤センターに配された2本のクロノグラフ秒針が重なって動き出す。一般的なクロノグラフと異なり、スプリットセコンドのクロノグラフ秒針のみ停止させ、もう一方は作動を続けさせることができる。ここから、停止させたスプリットセコンドの秒針を再度作動させる(この際、もう一方のクロノグラフ秒針位置を追いかけるようにジャンプする)か、クロノグラフの作動を停止させることができる。この機能を活用することで、あるコースの途中地点の通過タイムとトータルタイムを、クロノグラフを停止させずに測定可能としているのだ。
スプリットセコンド機能は、航空産業やモータースポーツなどで需要のある機能だが、一般的なクロノグラフと比べて搭載事例は多くない。それは、2本のクロノグラフ秒針の停止と再作動を制御するレバーやクラッチといった機構が複雑になることと、停止させたスプリットセコンドの秒針をジャンプさせる際の負荷が大きく、設計と製造の難易度が高くなるためだ。
手巻き式のスプリットセコンドクロノグラフムーブメントのCal.CHR 29-535 PSは、曲線を多用した優美なデザインによって、伝統的なクロノグラフを彷彿とさせるが、スプリットセコンド機構に関する1件を含む7件の技術特許が取り入れられており、その性能は最新鋭だ。どんな複雑機構であっても、改善を重ねて実用性を高め続けるスタンスは、パテック フィリップの魅力のひとつであろう。