1970年代の〝ワクワク〟があふれる。タイメックス「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」を実機レビュー

2025.04.15

2025年4月11日にタイメックスからリリースされた、「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」を着用レビューする。日本で始まったというタイメックスの“復刻時計”は多くのヒット作を生み、今では同社にとって定番シリーズのひとつとなっている。そんなタイメックスの手腕が発揮される本作。テーマになっているのは、1970年代の“ワクワク感”だ。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

鶴岡智恵子(クロノス日本版):写真・文
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年4月15日公開記事]


こんにちは70年代。タイメックス「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」

 2025年4月11日、タイメックスから「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」がリリースされた。この新作腕時計はタイメックス本社に保管されているという、膨大なアーカイブから選ばれた過去の名作を復刻させる「Q TIMEX」の「リイシュー」シリーズのうち、1970年代後半に製造されていたモデルをベースとした1本である。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

タイメックス「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」Ref.TW2W22500
クォーツ。SSケース(直径38mm、厚さ9.5mm)。50m防水。3万6300円(税込み)。2025年4月25日(金)発売。

 本作の最大の特徴は“カットガラス”だ。1970年代、これまでのプラスティックに代わってガラスが風防の素材として採用されるようになると、このガラスに多面カットを施したモデルが出てくるようになった。そんな往年のデザインをドーム型アクリル製風防で再現しつつ、中央の淡いオリーブグリーンから外周に向かうにつれてその濃さを深めていくグラデーションカラーの文字盤を採用。目立った派手さはないものの、独創的な意匠を獲得している。ちなみにモデル名の“デグラーデ”は、プレスリリースによると、フランス語を語源とした英語で「勾配」を意味するグラディエンに由来しているとのこと。一般的なグラデーションが指す濃淡の変化とはまた異なり、傾斜の付いた表面に滑らかな色の変化があることを示しているという。

 また、ステンレススティール製ケースはベーシックなラウンド型ではあるものの、両サイドのラグが一体型となり、その天面にヘアライン仕上げが与えられるという、文字盤同様にユニークな形状となっている。こういった、ともすれば奇抜な、しかし自由な発想が垣間見えるがゆえの楽しさ、ワクワクは、まさに1970年代の雰囲気ではないだろうか。それまでのセオリーを超えてさまざまなデザインの腕時計が打ち出された時代の空気感そのものも復刻させられていると思う。そして、1970年代の腕時計について知識はあれど、リアルタイムでは知らない世代の自分自身にとっては(年齢はナイショ)、とても新鮮な意匠にも感じられる。

 そんなレトロでありながらも現代では目新しい、タイメックスの新作リイシュー キュータイメックス デグラーデをレビューしていく。


とにかくルックスが良い

 先日、タイメックスから打ち出された、1983年製モデルを復刻させたという「リイシュー 1983 オートマティック」を着用レビューした(記事:https://www.webchronos.net/features/131431/)。詳細は記事を読んでいただきたいが、要約すると「タイメックスは時計好きのオッサンのニーズをよく理解している」ということ。TVダイアル、細いバーインデックスとバトン型の針、ヘアライン仕上げが施されたシルバー文字盤、極め付けは蛇腹式ブレスレット……一見すると地味ながら、かつて確かにオジサンの手元に着用していたことを思わせるような、そんな意匠をとことん突き詰めた復刻時計だったのだ。そこに洗練さとか、ちょっとモダンなテイストを取り入れようとか、そういった思惑は感じられず、「昔のオジサン時計」を忠実に再現していた。「キャンパー」や「マーリン」といった名作の存在は知っていたものの、実機を手に取ったのは初めてだったこともあり、タイメックスが「非凡な復刻時計のつくり手」ということを、レビューによって思い知らされたのだ。

 そんなタイメックスの「リイシュー」の最新モデルとあって、期待は大。実際、カットガラスが醸し出す雰囲気や文字盤のグラデーションの風合いは、個人的な感想となって恐縮だが、ひと目で気に入ってしまった。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

カットガラスが撮っていて楽しく、いろいろな場所でリストショットを撮影した。そういえば昔、某ヴィンテージウォッチのショップで、セイコーの、カットガラスを備えた、色とりどりの文字盤を持ったモデルが店頭に並んでいるのを見た。こういった仕様を、現代的なスペックの腕時計で所有できるというのは、復刻時計の美点のひとつだ。

 風防は多面カットが施されているためいくつかのファセットを持ち、そのファセットが光を受けてキラキラと輝く。ファセットごとに光の当たる面の向きが異なるため、腕時計の角度によってさまざまな方向にきらめくのだ。なお、風防の表面は平滑で、内側部分がカットされているので、ファセットの角が露出して肌に当たるといったことはない。また、結構キラキラしていたが、太陽光の下など、強い光源下で視認性が悪くなるといったこともなかった。針は太くなく、また秒針がミニッツサークルの外端まで届いておらず、秒まで正確に読み取りにくい……といった意見もあるかもしれないが、個人的にはそこまで気にならなかった。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

文字盤にあしらわれた「TIMEX」「Q」、そして「QUARTZ」のロゴは立体的な造形。ちなみに「Q TIMEX」のQはクォーツを指している。あえて文字盤で示すというのは、1970年代、クォーツという当時は最先端であったこの機構に対する「憧れ」や「最先端のツールを所有していることの自負」が表現されているように感じる。

 カレンダー用の小窓は曜日・日付のふたつの表示が備わっている。曜日は英語・スペイン語(!)のバイリンガル表示。日曜日の印字のみ赤いのも、レトロなディテールである。ただしカレンダーディスクの操作は、慣れるまでは少し時間がかかった。これまで曜日・日付表示のあるディスクの切り替えは「リュウズを1段引きして、どちらかの方向に回すと曜日または日付が早送りされる」というタイプが多かった。しかし本作はリュウズの1段引きは日付の早送りのみで、曜日はリュウズの2段引きで時分針を進めて、深夜0時を過ぎてからディスクを進めなくてはならない。また、曜日の言語を切り替える場合は、リュウズが2段引きの状態で時針を午後11時に合わせて、そこから午前4時まで進めるという作業を、希望の表示が出るまで繰り返すという作業が必要だ。この機能も「昔風」だが、ちょっと不便なので早送り機能は欲しいと思いつつ、3万6300円という販売価格を考えれば許容できるのではないだろうか。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

ケース直径は38mmと決して大きくなく、厚さも10mm以下に抑えられているが、風防の高さもあるため、見た目にはそこそこ肉厚に感じた。ラグとラグが一体型となっているので、全長もそれなり。このユニークなフォルムこそが本作の持ち味である一方で、装着感は気になるかもしれない。もっともピッタリ手首に巻き付けていたこともあり、ヘッドが浮きすぎるとか、振られるとかいったことはない。ブレスレットのリンクが小さいので、細かな調整が可能であるのもうれしいポイントだ。ただし、小さいコマは外すことができない。

 特に気に入ったのはケースだ。ケース3時側・9時側のラグそれぞれがつなげられているため、非常に独特なフォルムをしており、カットガラスよりもグラデーション文字盤よりも、このケースフォルムが腕時計にインパクトを与える要素となっている。この「インパクト」こそが、1970年代の「これまでにないデザインを作り上げる」という意識を感じさせるのだ。ラグ部分にはヘアライン仕上げが、ベゼル回りとケースサイドはポリッシュ仕上げが与えられている。このポリッシュ部分もカットガラスとともにキラキラして、手元で存在感を放っていた。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

バックルに厚みはなく、全長が短いため、デスクワークの邪魔にならない。TIMEXのロゴがあしらわれた面はポリッシュ。傷が目立ちそうではある。

 着用感は薄型ケースであったリイシュー 1983 オートマティックの方が良かった。本作は女性である自分の手首回りよりもケース直径が大きいということもあるだろう。とはいえ直径38mmはメンズの腕時計としては小型な方だし、装着感が悪いということはない。手首回り14.7cmである自分は、ブレスレットのサイズをピッタリに合わせてケースバックと手首の設置面積を大きくすることで、違和感なく着用することができた。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

「Q TIMEX」シリーズのいくつかにはある、電池交換の際にコインを使って開閉できるハッチ式ケースバックの仕様。


良心的な価格なり。それがイイんです

 前述の通り、本作の販売価格は3万6300円(税込み)。腕時計の世界もインフレが加速する昨今、このルックスで、カットガラスで、しかもステンレススティール製ブレスレットで5万円以下というのは、ありがたい存在だ。

 もちろん「価格なり」な部分はある。例えばブレスレットのコマ同士の間は隙間があるし、秒針の先端は文字盤外周まで届いていないといったことが気になるユーザーはいるかもしれない。しかしニュアンスカラーを表現した優美なグラデーション文字盤や、多面カットという加工のプロセスを踏むことによって実現したカットガラス風防など、コストをかけるべきところにかけ、抑えるところは抑えることで、1970年代の雰囲気が感じられる復刻時計と、良心的な価格設定を両立しているのだ。

タイメックス リイシュー Qシリーズ デグラーデ

いろいろな場所で写真撮影を行うのが、どんどん楽しくなってきたのは、このカットガラスのおかげ? 太陽光を浴びてキラキラ輝く風防がフォトジェニックだ。

 高級時計には高級時計の、ベーシックな価格の時計にはベーシックな価格の時計の、良さがある。「安い」ということが前面に押し出されてしまうと、価格としての良さだけが目立ってしまう場合もある。その点本作は“復刻時計”としての出来栄えと、良心的な価格と、どちらも満足感が高く、タイメックスの復刻時計のつくり手としての非凡さが表れていると言える。


日本の時計ユーザーも納得と太鼓判を押したい

 タイメックスが2025年4月11日にリリースした「リイシュー キュータイメックス デグラーデ」を着用レビューした。

 1970年代後半に同社が製造していたモデルをオリジナルに、同時代に見られたカットガラスをはじめ、ユニークな意匠を復刻したうえで、良心的な価格設定を実現した本作。冒頭でも記したように、タイメックスが自社のアーカイブを復刻させたモデルをシリーズ化するようになったのは、日本でまず試みられ、日本市場での成功を受けてのことなのだという。日本はオールドウォッチにおいて一大市場を築いており、往年の名作は人気が高く、そんな名作を現代技術で再現する“復刻時計”へのニーズも高いことがうかがえる。一大市場を築いているということは、それだけ市場が成熟していることを意味しており、製品の出来栄えに厳しい目を向ける「うるさい時計オタク(褒め言葉)」も少なくない。そんな中でヒットを飛ばしてきたタイメックスの最新作は、1970年代のデザイン、そして“ワクワク”感が復刻された名品であり、こういったオタクたちも受け入れるだろうと太鼓判を押したい。一方で、先日インプレッションした「リイシュー 1983 オートマティック」は早々に完売し、今年の6月半ばまでの再入荷待ちという状況だ。本作の発売は4月25日(金)が予定されており、その販売状況には注意したいところである。



Contact info: 株式会社ウエニ貿易 Tel.03-5815-3277


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