2025年に発表された新作腕時計のうち、特筆すべきムーブメントを搭載したものを厳選して紹介。堅牢性や精度、サイズやユニークな機構など、各社の目指すべき姿を体現する影の主役、ムーブメントにクローズアップ。
Text by Tsubasa Nojima
[2025年4月15日公開記事]
新たなムーブメントを搭載した、個性豊かな新作5選!
腕時計の機能や性能を決定するひとつの要素が、内部に搭載されたムーブメントだ。クロノグラフやカレンダーなどの機構やダイアルのレイアウト、振動数、パワーリザーブ、ケースサイズなどは、すべてムーブメントの制約を受ける。つまり、ムーブメントの進化は腕時計の設計の自由度や性能を高めることへとつながるのだ。各社はブランドの理想を追求すべくムーブメントに改良を加え続け、さらにはまったく新規設計のムーブメントの開発にも多大なコストを投じている。
2025年も、新たなムーブメントが多数発表された。そこで今回は、そんな新作ムーブメントを搭載した5つのモデルを紹介したい。各社がムーブメントに込めた思いとは何か、その魅力に迫る。
ロレックス「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 40」Ref.127336

直径40mmのプラチナケースにアイスブルーダイアルを組み合わせたモデル。新たに開発された、フラットジュビリーブレスレットが装着されている。自動巻き(Cal.7135)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約66時間。Ptケース(直径40mm)。100m防水。942万7000円(税込み)。(問)日本ロレックス Tel.0120-929-570
ロレックスがまったく新規のコレクションとしてリリースした、「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー」。ブレスレット一体型ケースやハニカムモチーフのダイアルなど、外装のユニークさもさることながら、本作はムーブメントにも注目すべき特徴を備えている。
本作が搭載しているCal.7135は、「パーペチュアル1908」が採用するCal.7140をベースとして開発された新たなムーブメントだ。回転運動によって動力を伝達する新開発のダイナパルスエスケープメントを搭載することで、エネルギー効率を高めている。レーザー加工によって製作されたハイテクセラミックス製の天真や、シリコン製のシロキシ・ヘアスプリングなど、素材の堅牢性や耐磁性の面でもスペックアップが図られており、実用時計を作り慣れたロレックスらしいムーブメントだ。

Cal.7135は同社初の毎秒10振動ムーブメントでもある。ハイビートムーブメントは、理論上外乱に強く、滑らかな運針を可能とする。機構や素材、振動数とあらゆる面で際立った新型脱進機は、ロレックスにおけるひとつのマイルストーンとなることだろう。

ブリッジにはストライプ装飾が施され、イエローゴールド製のローターとともにシースルーバックから鑑賞することが可能だ。
グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003

さらなる高精度化と小径化を果たした、スプリングドライブムーブメント搭載モデル。淡いブルーのダイアルには、樹氷から着想を得たデザインが与えられている。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。2025年6月6日(金)よりグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで発売予定。セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
日本を代表する高級時計ブランド、グランドセイコーの新作として発表された「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」は、高精度化と小径化を果たしたスプリングドライブムーブメント、Cal.9RB2を搭載したモデルだ。モデル名の“U.F.A.”はUltra Fine Accuracyを意味しており、平均月差±10〜15秒であった従来のスプリングドライブムーブメントに対し、Cal.9RB2では年差±20秒という大幅な精度向上を実現している。これに寄与しているのが、3カ月間に及ぶ水晶振動子のエイジングや、水晶振動子と新開発のICを真空で密封した構造、緩急スイッチの搭載などの新たな取り組みだ。
エボリューション9スタイルにのっとったケースは、明るい色味と軽量性、耐蝕性を備えたブライトチタン製。驚くべきは、直径37mm、厚さ11.4mmというコンパクトなサイズである点だ。これまでのスプリングドライブムーブメント搭載モデルでは、ムーブメントサイズの制約上、小径化が困難であったが、本作ではCal.9RB2の搭載によってその制約をクリアしている。ブレスレットのバックルには2mm単位3段階に調整可能な微調整機構が備わっていることも、本作の魅力のひとつ。
ゼニス「G.F.J.」Ref.40.1865.0135/51.C200

かつてのクロノメーターコンクールで輝かしい成績を残したCal.135をベースに、改良を加えて誕生した新生Cal.135。ロービートで振幅するテンプや装飾された受けなどは、シースルーバックから鑑賞することが可能。手巻き(Cal.135)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径39.15mm、厚さ10.5mm)。5気圧防水。世界限定160本。695万2000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
ゼニスに、新たなコレクションである「G.F.J.」が加わった。その名が意味するのは、ゼニス創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコ。第1弾として発表されたRef.40.1865.0135/51.C200には、改良を加えつつ復刻された伝説的なムーブメント、Cal.135が搭載されている。
スモールセコンド式の手巻きムーブメントであるCal.135は、かつての天文台によるクロノメーターコンクールにおいて優れた成績を残した歴史的名機だ。コンクールの規定いっぱいの直径30mmというサイズを持ち、香箱から四番車へと流れるようにつながる輪列と、その隙間を埋めるような巨大なテンプが、当時の高精度機のあり方を物語る。毎秒5振動のゆったりとした鼓動はそのままに、約72時間のパワーリザーブを備えている点も魅力だ。

ムーブメントだけではなく、外装にも見どころが満載。中央と外周、スモールセコンドの3つに分割されたブルーのダイアルは、それぞれラピスラズリ、ブリックのギヨシェ模様、マザー・オブ・パールを採用することで、メリハリと躍動感を付けている。プラチナ製のケースには、薄型のリュウズやサイドに段の付いたラグなど、クラシカルなディティールがちりばめられている。
ブルガリ「セルペンティ トゥボガス」Ref.103905

新開発の小型レディースムーブメントを搭載した、「セルペンティ トゥボガス」。シースルーバックを採用し、蛇の鱗をかたどったローターなどを楽しむことができる。自動巻き(Cal.BVS100レディ ソロテンポ)。28石。パワーリザーブ約50時間。18KPGケース(直径35mm)。30m防水。808万5000円(税込み)。(問)ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142
大いなる宇宙の周期的リズムと永遠の再生を象徴する蛇をモチーフとした「セルペンティ」は、ブルガリを代表するコレクションのひとつだ。丸みを帯びた三角形のケースが蛇の頭を、そこから伸びるブレスレットによって蛇の胴体を表現している。この小さな蛇の頭に格納されているのが、新たに開発された小型の機械式自動巻きムーブメント、Cal.BVS100レディ ソロテンポである。3年間もの開発期間を経て誕生したこのムーブメントは、直径19mm、厚さ3.9mmというコンパクトなサイズを特徴とする。約50時間のパワーリザーブを備えており、小径であるだけではなく、日常使いをかなえる性能を有していることも魅力だ。

ホワイトオパーリンダイアルは、サンレイパターンのギヨシェ装飾と、ピンクゴールドコーティングのインデックスと針によって上品な印象に仕上がっている。その周囲をブリリアントカットダイヤモンドが飾り、18Kピンクゴールド製のケースとブレスレットが華やかさを添える。リュウズトップにセットされているのは、ピンクルベライトだ。
大塚ローテック「5号改」

専用に開発された世界最小のボールベアリングを搭載した、サテライトアワーウォッチ。サテライトアワー機構につきものであるバックラッシュを防ぐため、減速歯車を2枚重ねにした構造を持つなど、使い勝手にも配慮されている。自動巻き(MIYOTA90S5+自社製サテライトアワーモジュール)。25石+2ボールベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ12.2mm)。日常生活防水。74万8000円(税込み)。(問)大塚ローテック https://otsukalotec.base.shop/
ユニークな表示機構を採用した、遊び心あふれる腕時計によって注目を集める大塚ローテック。その最新作として発表されているのが、「5号改」である。本作は、三つ又のアームと1時位置から5時位置にかけて配されたミニッツスケールを用いて時刻を表示する、サテライトアワー機構を搭載したモデルである。アームは1時間をかけてミニッツスケールの上を通過し、その先端の数字で時、重なったミニッツスケールで分を読み取る。ひとつのアームが終端に到達すると、別のアームがミニッツスケールの0の位置に重なり、次の1時間が始まるという仕組みだ。
本作の滑らかな動きを実現しているのが、ミネベアミツミが実現した小径のボールベアリングである。時を示す十字のディスクは、8時位置のボールベアリングローラーによって回転するが、そこには直径2.5mmのボールベアリングが採用されている。5時半位置のディスク式スモールセコンドの中央には、世界最小である直径1.5mmのボールベアリングが組み込まれている。
機械好きならたまらない、いくつものパーツが折り重なったサテライトアワー機構は、大きく盛り上がったボックス型サファイアクリスタル風防を通して鑑賞することができる。ソリッドなデザインのケースやローレット加工が施されたリュウズなど、インダストリアルなデザインも魅力だ。