モータージャーナリストであり、時計マニアでもある山田弘樹氏が、青×黄色のカラーリングを備えたオメガ「シーマスター アクアテラ」を着用レビュー。オメガと言えば「スピードマスター」だった山田氏が、驚かされた本作の持ち味とは? モータージャーナリストならではの、クルマとの対照にも注目したい。
Photographs & Text by Kouki Yamada
[2025年4月24日公開記事]
筆者にとってのオメガウォッチは「スピードマスター」だった
オメガ創業100周年を記念して1948年に誕生し、1957年にはその発展版となる「スピードマスター」と「レイルマスター」を生み出すなど、同社のプロフェッショナルラインの先駆けとして、長い時間を刻み続けてきた「シーマスター」。“アクアテラ”は、このシーマスターがシリーズ展開して行く過程で2002年に登場した比較的新しいバリエーションだが、それでも20年を越える歴史の間に、すでにツールウォッチとして高い評価を勝ち得ている。
などとすっかりウォッチ・エンスージアストを気取った筆者だったが、実はシーマスターを手にするのは、これが初めてだった。オメガといえばスピードマスターが自分にとっては不動のイメージリーダーであり、一番最初に飛びついたのも復刻した“キャリバー321”だった。
そして今回、ついに“シーマス”を初装着したわけだが、これが恐ろしく腕なじみが良いことにまず驚かされた。約2週間に及ぶ時間を共にしてこのアクアテラが、数ある評価にたがわぬ使い心地とエレガントさを両立した、現代的なダイバーズウォッチだという結論に至った。
青×黄色のカラーリングと、おなじみのシーマスターのスタイルと
さて、今回筆者の手元に送られてきた個体は、ブルー基調のダイアルにイエローの差し色が鮮やかなラバーベルトモデルだ。

自動巻き(Cal.8900)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.2mm)。150m防水。96万8000円(税込み)。
2021年の東京オリンピック、棒高跳びで金メダルを獲得した、アルマンド“モンド”デュプランティス選手にインスピレーションを得たモデルとは、オメガの弁である。
なるほどブルー×イエローの色使いはスウェーデン国旗を連想させるし、黄色い秒針の先端が白く彩られるのは、棒高跳び用ポール先端のゴム部分や手元のグリップ部分をイメージしているのかもしれない。
ちなみにこのデュプランティス選手、かなりのイケメンだ。F1ドライバーで言うと、ちょっとメルセデスのジョージ・ラッセルに似ている。そしてオメガのホームページでは彼が実際に、アクアテラを着けながら棒高跳びに挑む場面が記録されている。時計マニアの筆者は「そんな場面でも、アクアテラは姿勢差に強いことをアピールしているのかな?」なんて野暮な想像を働かせてしまうわけだが、ともあれイケメンとスポーツの組み合わせは、アクアテラが持っている世界観にばっちりフィットしている。

直径41mmのケースはスピードマスター譲りのカットに、丸型ベゼルの組み合わせ。筆者の手首だと41mmはやや大ぶりだが、リュウズガードのないシンメトリーなケースには、スピードマスターでは得られない美しさと伸びやかさがある。またベルト側に付くステンレスピースが絶妙なアクセントとなり、時計全体のエッジ感を一層高めている。
ラバーベルトはラグ側が20mmで、バックル側は18mmまで絞られる。見た目は華奢(きゃしゃ)だが、このラバーベルトは吸い付きがとてもよい。
現行オメガのフォールディングクラスプは操作性も良好で、押し込めばパチッと素直にはまるし、両側ボタンを押せば瞬時にロックをリリースできる。
筆者の手首回り(18.3cm)だと、ややベルトが余って折り返し部分をはみ出てしまうが、それがかさばることはなかった。またベルト部分がカバーとなって、手首にクラスプが直接当たらないことも大いに評価できる。
本機の厚みは13.2mmと、手巻きの「スピードマスター プロフェッショナル」と同サイズだ。そして総重量は、ラバーベルトを使う関係から108gと軽い。
よって腕振りでは少しだけヘッドのイナーシャ(慣性)を感じるものの、その装着感はかなり良好だ。前述したラバーベルトとフォールディングクラスプが、本体を遊びなく、しかし優しく手首にホールドしてくれるのである。
ダイナミックバランスが取れるスティールブレスレットも魅力だが、このラバーベルトはそろえておくべき逸品だ。

操作性についてもレビュー
操作性は、ねじ込み式リュウズを解除してから1段引くと、まず時針だけ動かせるようになる。これは通常、カレンダーの早送り機能として使うモードだ。本作で日送りするには、時針を24時間(つまり2周)回さなくてはならないから少し面倒だが、海外出張時の機内で素早く時刻合わせができるのはちょっとしたステータスだ。そして時針を動かすときの感触には、ロレックスの「GMTマスター II」のような節度感とクリック感があるのも良い。
さらに1段引けばハックが機能し、時針と分針が同時に調整可能となる。リュウズはパッキンの適度な抵抗感からだろう、特別優れた感触はないものの、時刻は合わせやすい。
対して巻き上げは、あまり良好とは言えない。まずベゼルが斜めにテーバードしてケースいっぱいに張り出しており、リュウズそのものも小さめだから、引っ張り出しても親指で回しにくいのだ。とはいえそこは自動巻き、20回も巻き上げればすぐさま使い出せるから、まったく気にする必要はないだろう。

ちなみに搭載されるCal.8900はパワーリザーブが約60時間と、ツインバレルを誇る割にその駆動時間は短い。つまりそのコンセプトは、もちろん駆動時間の延長もにらんではいるだろうが、有効トルクバンドを維持して精度を安定させることにあるのだろう。
実際筆者はこのアクアテラを2週間にわたって毎日着用したが、その精度はとても高かった。毎朝7時に着用し、22時に時計を置いたその日差は+2秒。これが日を追うごとに、きっちり2秒ずつ積算されていったのである。その差が10秒を超えたあたりで再び時間を調整したが(つまりは都合2回ほど)、それは1年間を通し、気温の変化などを考慮したバランスから、歩度を進み気味にしていたせいだろう。そしてこのくらいの微調整でもなければ、他に手を掛けてやるのは拭き掃除くらいになってしまうから、趣味性としてはちょうどいい塩梅だと思えた。
振動数は2万5200振動/時と攻めきっているわけではないが、8年~10年間メンテナンスフリーをうたうコーアクシャルムーブにおいては、このミドルビートが肝になるのかもしれない。さらに言えば、シーマスターならではの15気圧という防水性の高さや、シリコン製のヒゲゼンマイとテンワをはじめとした耐磁性パーツがもたらす1万5000ガウスの磁気耐性も、日常の使い勝手において大きな安心感を与えてくれる。というわけでこの短い間でも、METAS認定の「マスター クロノメーター」の実力の片鱗を感じることができた。
さらに言えば、シーマスターならではの15気圧という防水性の高さや、シリコン製のヒゲゼンマイとテンワを始めとした耐磁性パーツがもたらす1万5000ガウスの磁気耐性も、日常の使い勝手において大きな安心感を与えてくれる。
その上で伝統的な三角形のアワーマーカーやシャープな分針、そしてブロードアローが視認性だけでなく、シーマスターとしての存在感を大いに高めてくれる。

クルマに例えるならフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」
この質実剛健にして、アイコニックな「シーマスター アクアテラ」を、クルマに例えると何だろう? と色々考えたが、直近試乗したなかでは8.5世代へと進化したフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」が一番近いと感じた。
その共通項は、高い実用性を備えながら、いざ走らせれば、そして手首にはめれば、高いポテンシャルを発揮すること。派手過ぎずしかし地味ではなく、むしろ今風のアンダーステイトメントさがとても魅力的で、誰が見ても良いものだと評価できることである。
なるほどシーマスター アクアテラは、オメガの中核を担うハイスタンダードモデルだ。「迷ったらこれ」と呼べる、数少ない時計の1本である。