リラックスタイムに寄り添う時計。タイメックス「イージーリーダー」を実機レビュー!

2025.04.22

タイメックスの「イージーリーダー」を実機レビュー。本作は、視認性に長けたダイアルと小ぶりな直径35mmケースを組み合わせた、シンプルなクォーツウォッチだ。しっかりとした実用性を備えながらもゆったりとした雰囲気を漂わせる本作は、時間の楽しみ方を教えてくれる名作である。

野島翼:写真・文
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年4月22日公開記事]


アメリカの大衆に支持されたタイメックス

 タイメックスは、1854年にアメリカ・コネチカット州で誕生したウォーターベリー・クロック・カンパニーをルーツとする、歴史ある時計ブランドだ。設計製造を標準化することで、安定した品質の製品を安価に提供することを得意とするアメリカ企業らしく、効率化の末に生まれた同社の時計たちは、一部の富裕層向けの高級品であった時計を大衆へ開放し、誰もが正確な時間を知る自由を手にすることを可能とした。

 1920年代以降には、信頼性に優れるミリタリーウォッチやミッキーマウスをあしらったポップなキャラクターウォッチ、さらに1986年にはデジタルクォーツウォッチである「アイアンマン」を発表するなど、時代のニーズに合わせた製品開発は、同社のアイコンを徐々に拡充させていく。

 現代では、そんなアイコンの数々を復刻したモデルから、デザイナーとのコラボレーションによって生まれたスタイリッシュなデザインのモデルをはじめ、多くのラインナップが展開されている。さらに特筆すべきは、その価格帯だろう。ここ数年で時計全体の価格は一気に高騰したが、タイメックスは依然として数千円から数万円台という手の届く価格帯をキープしている。

 今回レビューを行うのは、「イージーリーダー」コレクションのRef.tx-tw2w95400だ。イージーリーダーは、アメリカの第43代大統領であるジョージ・W・ブッシュが愛用した時計としても知られている。視認性に長けた合理的なデザインは、まさしくアメリカらしい。

タイメックス イージーリーダー

タイメックス「イージーリーダー」Ref.tx-tw2w95400
アメリカ大統領も愛用したタイメックスの「イージーリーダー」。直径35mmの小ぶりなケースにも関わらず、ダイアルデザインのためか確かな存在感がある。クォーツ。真鍮ケース(直径35mm、厚さ9mm)。30m防水。1万1000円(税込み)。


“イージーリーダー”なダイアル

 イージーリーダーの名の通り、本作は視認性と判読性が抜群に良い。ダイアルのカラーはホワイト。ホワイトと言ってもやや黄色みがかったアイボリーから雪面のような純白まで多種多様だが、本作には艶を抑えたクリーンなホワイトが採用されている。

 アラビア数字のインデックスは、ひとつひとつが大きい。ホワイトダイアルとのコントラストを成すブラックのインデックスが、視認性の向上に大きな貢献を果たしている。3時位置には日付表示が配され、日常使いにも便利だ。日付窓自体がやや内側にあるため、インデックスに欠けがないことも好ましい。

 時分秒の3本の針は、いずれもバータイプ。欲を言えば、分針と秒針が目盛りに届いていないことが気になるが、実用に支障が出るほどではない。機械式に比べてトルクの小さいクォーツムーブメントを搭載していることを考えると、現状でも十分と言えるだろう。

タイメックス イージーリーダー

まるで駅や学校の設備時計のような、視認性に長けたダイアル。3時位置には日付窓が配されている。

 12時位置にはタイメックスのロゴ、6時位置には“INDIGLO”と30m防水であることを表す“WR 30M”の文字がプリントされている。INDIGLOは、1992年に同社が発表したダイアルの全面発光機能、Indiglo®ナイトライトが搭載されていることを表すものだ。リュウズを押し込むことで、ダイアル全面がライトグリーンに発光する。Indiglo®ナイトライトはリュウズを押し込んでいる間のみ機能し、手を離すと瞬時に消灯する。

 一般的には、暗所での視認性を確保する手段として、インデックスや針に蓄光塗料を塗布することが多い。しかしその場合、明るい場所で光を十分に蓄えなければ発光量は望めない。加えて、例えば秒針などの細かなパーツには蓄光塗料が塗布されていないことも多く、塗料によってややスポーティーなデザインになるということも考慮しなければならない。一方でIndiglo®ナイトライトは、蓄光ではないためいつでも必要なときに点灯させることができる。ダイアル全面が発光するため、インデックスや時分針だけではなく秒針やロゴまでがくっきりと分かり、クラシカルなデザインとの両立も可能だ。Indiglo®ナイトライトはタイメックスのセールスポイントとして知られているが、その利便性は、実際に使うことによってこそはっきりと認識することができる。

タイメックス イージーリーダー

ダイアル全面を発光させるIndiglo®ナイトライト。リュウズを押し込むことで簡単に起動させることができる。


真鍮製の正統派ラウンドケース

 ラウンド型のケースは、コロンとしていて可愛らしい。厚さは9mmだが、ミドルケースとベゼルが一体となった構造のためか、ややずんぐりとした印象を受ける。直径35mmというコンパクトなサイズも相まって、手のひらに載せて転がしたり指でなぞって楽しんでみたりしたくなる。恐らく、丸みを帯びたエッジや曲線の多い有機的なフォルムがそうさせるのだろう。特に内側に向かって傾斜を付けたラグは、小動物の手足のようにも見える。

 ベゼル一体型のケース構造や、クロームめっきを施した真鍮製ケースは、まさにマスプロダクトらしい生産効率を重視した結果に見えるが、それによって醸し出される緩い雰囲気には、特有の温かみが宿っている。高級時計には出し得ないノスタルジックさは、本作の大きな魅力だ。

タイメックス イージーリーダー

ヌルッとした質感の真鍮製ケース。ベゼルとミドルケースを一体化した構造のためか、コロンとした印象だ。

 ミネラルガラスの風防はベゼルから出っ張ることなく取り付けられ、ケースを構成する滑らかなラインに連続性を持たせる。小さなリュウズは、いかにもクォーツウォッチらしい。圧入式のケースバックは、ステンレススティール製だ。中央にはロゴが刻まれ、その外周には防水性や使用している電池の種類を表す文字などが並んでいる。

タイメックス イージーリーダー

ステンレススティール製のケースバック。ラグ幅や使用する電池の情報が記載されているのは、消耗品の交換時に便利だ。

 クロコダイルの型押しがされたブラックのレザーストラップは、本作にちょっとしたドレッシーさを加える要素だ。ラグ幅は18mmのため、「ウィークエンダー」コレクションに使用されているカラフルなファブリックベルトに交換するなど、複数のストラップを使い分けて楽しむこともできるだろう。ロゴが刻印されたピンバックルが組み合わされている。

タイメックス イージーリーダー

ブラックのレザーストラップは、オンオフ問わず使いやすいデザイン。シンプルなピンバックルが組み合わされている。


クセのない装着感は、まさに万人向け

 本作の真の魅力は、手首にした時のリラックス感にあるのではないだろうか。小さく軽量な真鍮製のケースは、物理的に軽快な装着感をもたらしてくれるが、それと同時に精神的な解放感も与えてくれる。肩肘張った高級時計とは少しベクトルの違う、まるで実家のような、ゆったりとした居心地のよさとでも言うべきだろうか。

 もちろん実用性も十分だ。クォーツムーブメントを搭載しているため、機械式に比べて精度は格段に高い。まるで駅や学校の時計のように、一目見ただけで現在時刻が分かるダイアルは、日付表示も相まって日常使いにおけるストレスを感じさせない。暗くなれば、Indiglo®ナイトライトでサッとダイアルを発光させることも可能だ。現代において、直径35mmというサイズは小ぶりだが、ダイアルデザインのためか、数値ほど小さくは見えない。男性でも女性でも、違和感なく使うことができるはずだ。

 ただひとつだけ気になったことは、刻音の大きさである。秒針の動きに合わせて響くチッチッという音は、静かな部屋では確実に、少し物音のする場所でもそれなりの存在感を主張する。筆者は、イージーリーダーを手首にして仕事の会議に出席したことがあったが、ふと静まり返った瞬間、会議室に大きく刻音が響き渡り、少し気恥ずかしい思いをした。

タイメックス イージーリーダー

装着時に得られるリラックス感は、カタログスペックでは分からない要素だ。本作に漂う適度な緩さが、ユーザーの心をほぐしてくれる。


気分まで柔らかくしてくれる、ゆるりとした休日時計

 腕時計が好きな方であれば、複数の腕時計を所有しているという場合も珍しくはないだろう。ではその場合、その日に着用する時計をどのようにして選んでいるのだろうか。筆者の場合は完全に直感に従っているが、それでも何となくの傾向がある。体調や気分の良し悪しによって、なかなか手が伸びない時計があるのだ。具体的には、メンタルが落ち込んでいる時やリラックスしたい時には、大きく重いスポーツウォッチや、取り扱いに注意を要する繊細な時計を使おうという気にならない。

 あくまでもこれは筆者の例でしかないが、今回レビューを行ったイージーリーダーは、そんな気分でもユーザーに優しく寄り添ってくれる時計となる。エッジがパリッと立った、歪みのない鏡面仕上げのケースに、リュウズの感触まで突き詰めた機械式ムーブメントを搭載したハイエンドな時計は、確かに良質だ。しかし、良質であることが万能であるとは限らない。イージーリーダーの適度な緩さが、心をほぐしてくれるときもある。

 例えば休日の午後、あたたかな日差しに包まれた公園で、文庫本を片手にベンチで読書をする。そんな時、イージーリーダーがそっと手元に寄り添っていてくれれば、より豊かな時間を過ごすことができるのではないだろうか。



Contact info: 株式会社ウエニ貿易 Tel.03-5815-3277


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