ムーブメントがアップデート。セラミックケースのIWC「インヂュニア・オートマティック 42」は見どころ満載

2025.04.22

秀作が多かったIWCの2025年新作。個人的な好みは一旦置いて、IWCの今年の一番を選ぶならば、やはりセラミックケースの「インヂュニア・オートマティック 42」が挙げられるだろう。軽量かつ良質な外装もさることながら、同作にはCal.82110が搭載されたのだ。

インヂュニア・オートマティック 42

堀内僚太郎:写真 Photographs by Ryotaro Horiuchi
細田雄人(クロノス日本版):文 Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2025年4月22日公開記事]


セラミックケースを持つ「インヂュニア・オートマティック 42」

 今年夏に公開される映画「F1」とのパートナーシップを全面に押し出したブースを展開していたIWC。当然、新作もこのパートナーシップを象徴するモデルがパイロット・ウォッチを中心に多く展開されていた。

IWC ブース

IWCのブースでは、スポンサードする映画「F1」の撮影に使用されたマシン(F2ベースらしい)や、そのクラッシュ車両が展示されていた。残念ながらブラピはいなかった。

 しかし、時計誌的最注目はやはり「インヂュニア・オートマティック」だろう。パーペチュアルカレンダーからサイズ違いまで、さまざまなバリエーションを追加し、コレクションとしてより盤石になった印象だ。この数多いインヂュニアの新作の中からベストを選ぶとしたら、何になるか。

 個人的な好みで言えばケース径35mmのモデルや40mmケースの18KPGをイチオシに挙げたくなるが、それでもやはりブラックセラミックケースの「インヂュニア・オートマティック 42」を無視することはできない。それくらい、同作は気合いが入っているのだ。

インヂュニア・オートマティック 42

IWC「インヂュニア・オートマティック 42」Ref.IW338903
自動巻き(Cal.82110)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ11.5mm)。10気圧防水。296万1200円(税込み)。


待望のCal.82000系を搭載

 というのも、インヂュニア・オートマティック 42にはCal.82110が搭載されている。巻き上げ車と爪をセラミックス製にし、耐久性を大幅に向上させた改良型のペラトン自動巻きを採用し、テンプはフリースプラング。IWCの基幹キャリバーにふさわしい内容を誇るムーブメントだ。

 正直、40mmのインヂュニアが載せているCal.32111は薄い上に約120時間のロングパワーリザーブを有し、おまけに自動巻きもマジッククリックとそつがない。しかし、100万円台後半の3針のSSモデルとしてはどうにも色気が足りなかった。その弱点を補ってくれるCal.82110の抜擢は、なかなかに朗報である。

Cal.82110

搭載されるCa.82110(写真はCal.82000)は、2017年に登場したIWCの基幹ムーブメント。伝統のペラトン自動巻きを採用しながら、IWCとしては薄型に仕立てられている。自動巻き機構の摩耗しやすい箇所にセラミックスパーツを使用することで高い耐久性を得ている。

 このためなら、ケース径が2mm大きくなるのもやむなし。めでたし、めでたし……と筆を置こうとしたが、ここでふと引っかかる点がいくつか。ムーブメント径28.8mmのCal.32111に対して、1.2mm大きい30mmのCal.82110を載せているわけだから、ケース径2mmのサイズアップは妥当。本当にそうだろうか?


セラミックインヂュニアのケース構造はどうなっている?

IWC インヂュニア

Photograph by Masayuki Hirota
新しいセラミックケースの構造を伝える展開図。風防とトランスパレント バックのサファイアクリスタルはそれぞれ、セラミックス製のベゼル&ケースバックに直接圧入されている。

 10気圧防水を維持しながら、ケース素材をセラミックスに変更して、おまけにムーブメントまで大きくしているのに、どうしてこのサイズで収まるの? というのも、セラミックスのケースを使って高い防水性能を得たい場合、セラミックスそのものにネジを切ることができないため、中に金属製のインナーケースを入れ、それをねじ込む形で対応する。つまりセラミックケースは、金属製ケースと比べてひと回り大きくなってしまう。

 このケースサイズアップを嫌ったIWCは、パイロット・ウォッチでセラミックケースを作りながら、並行してセラタニウムも採用しているほどだ。少し脱線するが、セラタニウムはチタンにジルコニウムを加え、焼成することでセラミックスの層を形成する素材である。つまり、傷に強いセラミックスの特性を生かしつつも、セラミックケースより小さく作ることができる。

 話を戻そう。一般論として、セラミックケースは金属ケースよりも大きくなる。加えてインヂュニア 40では、約4万A/mの耐磁性能を得るために、ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで包んでいる。搭載ムーブメントをCal.82110に変更し、インナーケース包んだ上で、ケースをセラミックス化したら、到底2mm増しでは収まらないはずだ。

インヂュニア ケース構造

2023年のIWCブースより、インヂュニア・オートマティック 40のケース構造を説明するカット。軟鉄製の軟鉄製文字盤、インナーリング、ケースバックでムーブメントを包み、耐磁性を得ている。

 ならばどのように対応したか。端的に言うと、インヂュニア・オートマティック 42では、軟鉄製インナーケースを省いたようだ。そのため、プレスリリースや公式ページから耐磁性能をうたう文言が一切記載されなくなった。これをスペックダウンとして、悲しむ向きもあるだろう。

 しかし、その半面、ケースバックからはCal.82110を楽しめるようになったのも事実だ。また、インナーケースでムーブメントを包まなかったため、ケース厚の増加も最小限に抑えられている。Cal.32111のムーブメント厚は4.2mm、対してCal.82110は5.95mmと1.75mmも厚みがあるのに、ケース厚の比較では40mmケースが10.4mmで、42mmケースが11.5mm。1.1mmしか違わないのだ。

インヂュニア・オートマティック 42

セラミックケースのインヂュニア・オートマティック 42のケースバック。インナーケースを廃止したことで、トランスパレントバックからムーブメントが見られるようになった。なお、ケースバックはねじ込みではなくネジ留めが採用された。とはいえ、ネジを通すためのインナーリングがケースには嵌められている。これで10気圧防水を実現したのはさすが。

 おかげで非凡な装着感はケースの大型化にあっても、全く損なわれていない。それどころかセラミックスケースの軽量感が相まって、腕なじみはむしろ向上している印象だ。

 ちなみに、オールブラックに近い配色は時計に締まった印象を与えるため、40mmと並べないとケースが大きくなったことに気付きにくいだろう。スペック上のサイズだけを見て、この時計を敬遠するのはもったいない気がする。是非、実際に腕に載せて、そのサイズ感を確かめてみて欲しい。



Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


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