今回は、オールブラックでスポーティーに仕立てられたハミルトン「アメリカン クラシック イントラマティック オートクロノ」をインプレッションする。本作はケースにブラックPVDを施したことでサイズ表記よりも引き締まった外観であり、文字盤の仕上げの変化や、ホワイトの針と印字のコントラストによって、オールブラックながら単調ではないデザインが魅力であった。
自動巻き(Cal.H-31)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm)。10気圧防水。35万4200円(税込み)。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2025年7月2日公開記事]
インプレッションするのはハミルトンのメカニカルクロノグラフ
今回インプレッションするのは、自動巻きの機械式クロノグラフムーブメントCal.H-31を搭載するメカニカルクロノグラフのハミルトン「アメリカン クラシック イントラマティック オートクロノ」である。ハミルトンはクロノグラフに限ってもさまざまなテイストの魅力的なラインナップを擁するため、ここで一度、同ブランドのコレクション全体を振り返っておこう。
ハミルトンのラインナップとアメリカン クラシックについて
本作が属する「アメリカン クラシック」には、ハミルトンのルーツであるアメリカでかつて流行したデザインや、ハミルトンのアーカイブを元にしたモデルがラインナップされる。また、クラシカルでビジネスシーンにマッチするモデルが多いのが特徴である。この観点で比較候補に挙がると予想されるのが「ジャズマスター」である。ジャズマスターには、モダンなインフォーマルウォッチが並んでいるのが特徴だ。ビジネスやカジュアルといった幅広いシーンにマッチするモデルを求めるのであれば、まずはこのふたつのコレクションに注目してみると良いだろう。
ツールウォッチをラインナップする「カーキ」は、ダイバーズウォッチが多く並ぶ「カーキ ネイビー」、パイロット向けの「カーキ アヴィエーション」、フィールドウォッチの「カーキ フィールド」と3つに分類されている。それぞれにはかつての名作を元にしたモデルや、モダンなツールウォッチなど多彩に並び、スポーティーさやミリタリーテイストを求めるならば好適だ。また、世界で初めて一般発売された電池駆動の腕時計の系譜を引く「ベンチュラ」も忘れてはならない存在だ。
「クロノグラフA」をベースとした復刻モデル
では、今回インプレッションするイントラマティック オートクロノを紹介してゆこう。本作は、1968年初出で“パンダダイアル”として親しまれた「クロノグラフ A」の復刻モデルをベースとし、ブラックモノトーンに仕立てた2025年3月発表の新作だ。ブラックにホワイトの印字を組み合わせた本作と同時に、ブラックをベースにオレンジ、あるいはイエローのビビッドな挿し色の効いた2モデルがラインナップされている。
従来モデルには、ホワイトをベースにブラックのサブダイアルを組み合わせた“パンダ”モデルや、ネイビーやグリーングレーをベースにアイボリーのサブダイアルの組み合わせたモデルなど、さまざまなバリエーションが用意されている。
“ホットロッド”を想起させるオールブラックモデル
クロノグラフ Aは、2カウンタークロノグラフのスタイリングにペンシルハンドの組み合わせから、モータースポーツを思わせるデザインであった。オリジナルのパンダダイアルや、復刻モデルとしてラインナップされているネイビーをベースとした配色は、モータースポーツの中でも1970年代のワークスチームを彷彿とさせるカラーリングである。
これに対して本作は、ステンレススティール製ケースにブラックPVD仕上げを施してオールブラックに仕立て、サーキットを舞台とするモータースポーツよりもむしろストリートテイストが強く、ホットロッドをはじめとしたカスタムカーの趣を感じさせる。
本作はケース径40mmで、クロノグラフモデルの中では中庸なサイズとなるが、オールブラックかつシャープなラグ、キレのあるインデックスやスケールなどのデザインにより、数値よりもコンパクトに見える。
改良を希望する着用感
着用感は良好とは評価できない。厚さがあり、ラグがケース上側に取りついているため、手首との間に隙間が生じやすく腰高な印象である。ストラップによって姿勢は落ち着くが対処療法的である。
筆者の手首は周長約18cmで、日本人の平均よりも太いと言えるだろう。そんな筆者であってもラグ部に隙間が生じて腰高な印象となった。筆者よりも手首の細い方では安定感をもって着用するのはやや難しいのではないだろうか。
問題は、このような腰高感が2020年にイントラマティック オートクロノに触れた時から改良されていないことだ(参考:https://www.webchronos.net/features/46555/)。厚さはあるが着用感を確保する設計手法が安価なモデルにも採用されている市場動向を考えれば、本作は進化がないと評価する他はない。
本作の14.45mmという厚さは着用感確保にとって不利であるのは間違いないものの、機械式クロノグラフを搭載して薄く仕立てるにはムーブメントの変更が必要となり、コスト上昇に直結してしまうため難しい問題だ。この点を考慮しつつ、今後、リーズナブルな改良案を示してくれることを期待している。
搭載されるクロノグラフムーブメントの使用感
本作は自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.H-31を搭載する。表示はオーソドックスなツーカウンタークロノグラフに準じており、9時位置側のサブダイアルが秒表示で、3時位置側のサブダイアルが30分積算計だ。また、6時位置にデイト表示を備える。
巻き上げは片方向巻き上げである。厳密な検証はできなかったが、インプレッションを通じて巻き上げ効率は良好であると感じた。パワーリザーブも約60時間であり、現代基準で競争力のあるスペックである。クロノグラフのスタート/ストップは、やや重さもありつつクリック感が明確で、操作感は良好と評価できそうだ。インプレッション中は意図せずクロノグラフが作動するような誤作動もなかった。
単色だが単調ではない本作の魅力
クラシカルなデザインをベースとしつつカラーリングを変えることで、本作はモダンなテイストもオリジナリティーも獲得している。着用感の改善には注文が残るものの基本に忠実なパッケージングであり、ムーブメントの基本性能の高さにも安心感がある。
本作のオールブラックのデザインに興味を持ったなら店頭で手に取っていただきたい。マットなブラックPVDのケースの質感や、文字盤の仕上げの変化、ホワイトとのコントラストから、単色ながら単調ではない本作の魅力を感じ取れるはずだ。