2025年秋、カルティエからふたつの「サントス ドゥ カルティエ」が発表された。ひとつはブラックダイアルを備えたステンレススティールモデル。もうひとつはなんとケースにチタンを用いたモデルだ。ツールウォッチ等に使われがちな「チタン」という素材を、カルティエは見事にカルティエ流の「エレガンス」へと落とし込んだのである。『ウォッチタイム』アメリカ版編集者であるゼン・ラブが、今回のモデルでいかに上手くカルティエが「仕上げた」のかを、実際に触りレビューする。

注目のチタン製「サントス ドゥ カルティエ」
カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」における究極の表現となるのは、もしかしたらチタンかもしれない。カルティエは2025年にふたつの新しいサントスを発表したが、予想外のチタンモデルが注目をさらったのだった。
「カルティエ」と「ビーズブラスト仕上げのマットチタン」という組み合わせは、直感的には結びつかないように思える。しかし、新しいサントスは、この軽量金属の持つクールさと、フランスのブランド特有のエレガンスを、絶妙なバランスで融合させた注目すべきモデルなのである。

チタンとカルティエ、その意外な親和性
時計素材としてのチタンは、軽量でテクニカルな印象を持ち、主にタフなツールウォッチと結びつけられることが多いだろう。そのため、カルティエが誇る優雅さや洗練されたスタイルを表現する手段としては、これまでチタンはそれと分かる形で使用されることはなかった。しかし、チタン製のサントスの新作は、こうした常識を覆し、このテクニカルな印象を与える「チタン」という素材が、いかにしてカルティエらしい「エレガンス」を表現し得るかを見事に示したのだ

チタン製ブレスレットに加えて、交換用のヌバックアリゲーターのセカンドストラップも付属。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。174万2400円(税込み)。
新作はフルチタンのケースとブレスレットを備えた「サントス ドゥ カルティエ」Ref.CRWSSA0089と、ブラックダイアルにポリッシュ仕上げのステンレススティールケースを備えるRef.CRWSSA0096だ。

ステンレススティール製ブレスレットに加えて、ヌバックアリゲーターのセカンドストラップも付属する。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.38mm)。10気圧防水。137万2800円(税込み)。
後者はやや他のサントスと比べると蓄光塗料が多めに配されているように見受けられる。どちらも魅力的だが、軽やかで霜のような質感を持つチタンモデルは、明らかにその存在感が際立っている。筆者が発売前に両モデルを試着した際も、その差は歴然で、チタンの方が圧倒的に印象的だった。
軽量かつマットな仕上げがもたらす着け心地の妙
新作Ref.CRWSSA0089はサントスの中でも「ラージ」サイズではあるが、軽量なチタンとマット仕上げの組み合わせにより、光沢のあるステンレススティール製に比べてはるかに小さく、快適に感じられる。約17cmの筆者の手首でも自然に馴染む着け心地だった。
もっとも、カルティエにとってチタン自体はまったく未知の素材というわけではない。ジュエリーや他金属とのコンビネーション、そしてまれにフルチタンケースのモデルにも採用されたことがある。したがって「初」というわけではないが、今回の使い方と仕上げの妙こそ、チタン製カルティエにふさわしい表現だと筆者は感じている。
サントスが担う「スポーティー」な側面
サントスはカルティエの中でもスポーティーさを実験する舞台に思われる。これまでもオールブラックのDLCコーティングやヘアライン仕上げなど、やや攻めたデザインを試みてきた歴史を持つ。したがってチタンという強靭で軽量な素材が採用されるのは極めて自然な流れだ。過去には「サントス100」でベゼルにチタンを用いた例や、スケルトンダイアルの前衛的モデルでケースに採用された例もある。
クラシックとツールのテイストを絶妙なバランスで融合

本来なら、クラシックなカルティエとツールウォッチ的チタンの融合は、ちぐはぐな印象を与えかねない。だが今回カルティエは、ビーズブラストによるマット仕上げを基調に、ポリッシュされた面取りやビスをアクセントに加えることで、見事に調和させることに成功した。チタン特有のクールさを保ちつつ、カルティエらしい上質さを兼ね備えているのだ。
素材とその仕上げはサントスに驚くほどよく馴染み、そこに組み合わせられたマットホワイトダイアルが理想的なバランスをもたらす。なお、同時に発表されたステンレスモデルでは蓄光付きの針やインデックス、さらにはレイルウェイトラックにも蓄光が施されているが、このチタンモデルには夜光がない。それでもコントラストが十分で、視認性は申し分ない。
サイズとムーブメント、そして今後への期待
筆者が9月にニューヨークで実機を見たとき、その完成度には心が躍った。このモデルは「ラージ」サイズで、ケース幅は39.8mm、一方の縦位置では47.5mm、厚さ9.38mmだ。ムーブメントはカルティエ自社製自動巻きムーブメントCal.1847MCを搭載する。
ステンレスモデルの重量感に比べ、チタンモデルを着けた瞬間は脳が錯覚するほど軽く、小さく感じられた。チタンが持つ軽快さがそのまま快適さに直結する。サイズが大きすぎると感じる人も、一度試着してみる価値は十分にある。とはいえ、この仕様をそのまま「ミディアム」サイズで展開すれば、近年の小径志向にマッチし、スポーティでシックなブレスレットウォッチとしてさらに人気を博すようにも思えるのだ。



