案外どころかかなり良かった タグ・ホイヤー「ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ」/ 編集部の気ままにインプレッション

2020.02.26

『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、話題の新作モデルを手に取り好き勝手に使い倒して論評する大好評の連載企画。
今回は、タグ・ホイヤーの「ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ」。かつてスティーブ・マックイーンが「栄光のル・マン」で着用した「モナコ」の復刻モデルが持つ魅力を、本誌編集長・広田雅将によるインプレッションでお届けする。

広田雅将 (クロノス日本版) 取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

短く切られたバックルはモナコとベストマッチング

ホイヤーの刻印入りバックルは、短く切られているため細い腕の人にもなじみが良い。ヘッドの薄さや軽さと相まって、装着感は良好だ。

 自分で買う時計は、基本的に手巻きのスモールセコンドしかない。自動巻きは大好きだが、持つとあれこれ考えたくなるので、買う対象としてはあえて避けてきた。ケースは基本的に丸形のみ。スクエアもレクタンギュラーもいいと思うが、買ったことはほとんどない。

 先日、タグ・ホイヤーが“売れ線”の「ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ」を貸してくれた。スクエアケース、自動巻き、そしてモジュールを載せたクロノグラフと、自分ではまず選ばない時計だが、結果を言うと実に良かった。中身はデュボア・デプラのモジュールをセリタの自動巻きに重ねたものだが、本誌でも再三書いたとおり、セリタはずいぶん良くなった。巻き上げに不満はないし、デュボア・デプラとのマッチングも、ひょっとしてETAよりいいかもしれない。しかもモジュール式だから、ムーブメントが軽いのである。

 ETA7750は分厚い上、巻き上げを良くするため重いローターを載せている。あの感触は結構好きだが、ずっと着けていると疲れてしまう。対してモジュール式のクロノグラフを載せたモナコは、見た目以上に薄くて軽く、つまりは思ったより装着感が良かった。もっとも、優れた着け心地はよくできたデュプロインバックルがあればこそ。タグ・ホイヤーのデュプロインは短く切ってあるため、筆者のような細腕にもなじむのだ。最近各社はバックルを短く切るようになったが、量産メーカーでの先駆けはタグ・ホイヤーだろう。モナコとのマッチングはベストだった。

 ちなみにモナコにはいくつかのバリエーションがある。種類が多すぎるため、クロノスの読者が好みそうなモデルに限って説明したい。最も著名なのは、言うまでもなくCal.11を載せたオリジナルだ。筆者も欲しいが、今や価格は法外だし、マイクロローターは整備が難しい。完全な個体以外は、手を出さない方が賢明だ。というわけで、マニアの人気を集めるのは、2009年に発表された復刻版、通称“マックィーン”こと「40周年記念限定 キャリバー11」(Ref.CAW211A)である。

「ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ」。自動巻き(Cal.11)。59石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(縦39mm×横39mm)。100m防水。61万5000円(税別)。

 見た目はオリジナルにほぼ同じだが、ムーブメントはETAにデュボア・デプラのモジュールを重ねたものに変更された。1969年に発売されたオリジナルモデルとの違いは秒針の位置。ムーブメントの変更に伴い、9時位置の秒針が、3時位置に移っている。魅力的なモデルだが、1000本しか作られなかったため、中古価格は100万円を超えるものもある。翌年、タグ・ホイヤーはこのモデルをレギュラー化したが、ロゴがHEUERではなくTAG HEUERに変わったため、そちらの人気はあまり高くない。筆者も正直欲しいとは思わない。

 今回取り上げたモデルは、2009年の“マックィーン”を再生産したものと言える。その証拠に、リファレンスナンバーは“マックィーン”にほぼ同じCAW211Pだ。加えて、ダルだった針とインデックスはダイヤカットに改められ(ひと昔前のタグ・ホイヤーはダイヤカット「風」のインデックスと針を自慢していた)、ケースのチリあわせも改善された。おまけにトランスパレントバックとなったので、ムーブメントを見ることもできる。卓越した機械ではないが、見せる構造となっているだけあって、ムーブメントは仕上げられている。これはソリッドバックのモデルと異なる点だ。あくまで私見だが、実用性と趣味性のバランスが取れている点では、むしろ最新の「オウタヴィア」より優秀ではないか。

 セリタにデュボア・デプラを載せて定価約60万円のモナコは、コストパフォーマンスの高い時計とは言えない。何しろ自社製ムーブメントを載せたオウタヴィアよりも高いのだ。ただし着けると気分が上がり、周囲からの評判も良かった。まったく時計に興味のない人にも、いいねと言われたのだから、モナコが売れるのも納得だ。

 久々に別れがたい時計で、なるほど、これが売れるのは合点がいった。機会があればまた“売れ線”を借りてみようと思う。


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