現代社会においてなぜ耐磁性が必要なのか?高耐磁時計も紹介

2019.12.10

IWC

民生用超耐磁時計の先駆者であるIWCの「インヂュニア」。ここ数年はトランスパレントバックを持つ〝非耐磁〟モデルでお茶を濁してきたが、今年ようやく、その生い立ちにふさわしい超耐磁モデルを発表した。その耐磁性能は4万A/mに留まるが、1980年代や90年代のインヂュニアを思わせる、薄くて使い勝手の良いケースに特徴がある。実機は未見だが、おそらくは高い完成度を持っているはずである。

INGENIEUR AUTOMATIC
(インヂュニア・オートマティック)

IWC インヂュニア・オートマティック
2013年1月17日にスイス・ジュネーブで記者発表された新作。詳細は不明だが、ムーブメント内部に鉄を使わないことで、1万5000ガウスという超高耐磁性を実現した。ただし、かつてのIWCが温度変化と摩耗に苦しんだことを考えると、オメガがどのような対応策をとったのかは興味深い。自動巻き(Cal.8508)。耐磁性120万A/m。スペック、価格など未定。

 前作のインヂュニアは8万A/mの耐磁性と高精度な自社製ムーブメントを併せ持つ、極めて実用性の高い時計であった。しかし、直径42.5㎜、厚さ14.5㎜、重さ216gというスペックは、お世辞にも使い勝手が良いとは言えなかった。その点はIWCも理解していたようで、後に耐磁ケースを省いた直径40㎜ケースのインヂュニアを追加した。これは耐磁ケースがないにもかかわらず、時計としてのパッケージングは秀逸であった。このサイズで耐磁ならば良かったのにと、筆者は思ったものである。

 今年のS.I.H.H.で発表された新しいインヂュニアは、直径40㎜のサイズで、4万A/mの超耐磁性を実現した時計である。特筆すべきは直径以上にケースの厚さで、超耐磁時計にもかかわらず、厚さは10㎜に留まった。非耐磁モデルの12.3㎜に比べても、さらに薄い。

 薄さの理由は採用したムーブメントにある。前作が載せていたのは、自社製のキャリバー80110。高精度でかなり頑強だが、分厚いことは否めなかった。対して、本作ではETA2892A2を改良した、薄型のキャリバー30110に改められた。変更を好まない好事家もいるだろうが、エボーシュに対するIWCの手の入れ方を知っているだけに、個人的にはむしろ安心感がある。パワーリザーブは短いものの、精度と信頼性は、現行の3針自動巻きでもトップクラスと言っていい。

 実物は未見だが、現行のIWCから推測するに、外装の仕上げは良質に違いなく、ケースの重心も低めではないだろうか。過去も現在も、シャツの袖に収まる超耐磁時計が少ないだけに、薄く仕立てられた新型インヂュニアは貴重な存在となるだろう。個人的には、かなり気になる1本である。

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