“高性能な高級腕時計”として、優れた精度と信頼性を満たすスプリングドライブは、グランドセイコーの主力機のひとつだ。機械式とクォーツ式のメリットを兼備した、第3のムーブメントの独創性を探るとともに、最新モデルから定番人気モデルに至るまで、搭載ウォッチを紹介しよう。

[2025年11月28日更新]
高い技術力を持つグランドセイコー
セイコーは1969年、世界初の量産型クォーツ式腕時計時計を発売し、1999年には世界初のスプリングドライブ式腕時計を開発の上、製品化した。グランドセイコーでは機械式のほか、このクォーツ式、スプリングドライブ式ムーブメントの3種の駆動方式でコレクションを展開している。

なお、スプリングドライブは、初代グランドセイコーを製造した諏訪精工舎の時代から続く伝統と情熱を受け継ぐ、長野県塩尻の「信州 時の匠工房」で製造されている。
スプリングドライブについて言及する前に、グランドセイコーのハイレベルな技術力や、世界展開について見ていこう。
世界と並ぶ国産ブランド
1960年、グランドセイコーはスイスの高級腕時計に匹敵する高精度を実現した国産ブランドとして、セイコーから誕生した。
翌年には輸入関税の緩和により海外勢力との競争は激化するが、グランドセイコーは技術力向上によって競争力を高めていく。
やがて、精度と信頼性を追求した機械式とクォーツ式、さらに第3の駆動方式「スプリングドライブ」ムーブメントを強みに、国内外の市場で売上高を伸ばした。とはいえ、グランドセイコーの使用シーンは、ビジネスユースがメインといった印象であった。
そんな中、2017年、グランドセイコーはセイコーが擁する他ブランドから独立を果たす。
グランドセイコーはビジネスシーンで使うウォッチのみならず、ドレスウォッチもスポーツウォッチも手掛ける高級腕時計ブランドとして生まれ変わり、誕生から60周年を迎えた2020年には海外市場での展開をさらに加速していったのだ。
高い技術力とマニュファクチュール

グランドセイコーは精度や実用性で最高峰の腕時計を目指しており、ムーブメントの設計から部品製造、研磨、ケーシングまで妥協を許さない時計づくりを行っている。
グランドセイコーの機械式時計は「グランドセイコースタジオ 雫石」(岩手県雫石町)、クォーツ式とスプリングドライブ式時計は「信州 時の匠工房」(長野県塩尻市)が製造を担っている。どちらも世界有数のマニュファクチュールであることは言うまでもない。
信州 時の匠工房では年差±10秒の高精度9Fクォーツを生み出し、また、20年以上の歳月をかけて革新的な駆動方式スプリングドライブを完成させた。
信州 時の匠工房は「マイクロアーティスト工房」「匠工房」「文字板工房」「ケース工房」の4つの工房からなる。とりわけマイクロアーティスト工房では精鋭の技術者を集め、2016年には最大約8日間のパワーリザーブを誇る特別なスプリングドライブムーブメント「Cal.9R01」を発表している。
そんなスプリングドライブに2020年、最新世代のCal.9RA5が登場。ムーブメントの厚さはわずか5mmと、大幅に薄型かしながらも、約120時間とパワーリザーブの延長も実現。また、精度も改良されており、従来の月差±15秒から月差±10秒へと向上している。

さらに2025年には、より小ぶりに、かつ年差±20秒という極めて高い精度になった、Cal.9RB2が登場。直径30mm、厚さ5.02mmというサイズ感によって、ケースサイズ37mm径のモデルに収められた新作モデルは、1969年に登場した「グランドセイコー V.F.A.(Very Fine Adjusted)」に続き、「U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)」という名称が付けられれた。

これらの新しいムーブメントは稀少な特別仕様ではなく、次世代の旗艦機として続々レギュラーモデルに搭載されている。
スプリングドライブとは?
複雑機構を追求し続ける老舗時計メーカーも多い中、駆動方式の根本的な改良を行うのがセイコーあるいはグランドセイコーの特色である。スプリングドライブも、そんな特色を表す象徴のひとつだ。スプリングドライブとは何か、その独創的な機構について見ていこう。
独自技術によって開発された駆動機構

1999年に誕生したスプリングドライブは、機械式とクォーツ式の利点を併せ持つ、新機軸の駆動方式である。信州 時の匠工房が20年以上の研究開発の末に生み出した革新的な機構であり、現在では、セイコー、グランドセイコーおよびクレドールに使用されている。
2004年には、高級腕時計にふさわしい品質を備える、自動巻きのグランドセイコー専用のスプリングドライブCal.9R65が完成した。
3針モデルでは200以上、クロノグラフモデルでは400以上もの精密部品を、熟練の職人が0.01mm単位で加工・調整する高精度なムーブメントは、国内外で高い評価を得ている。
クォーツ式時計と機械式時計、そしてスプリングドライブ式時計の違い
クォーツ式時計は、電池を動力源に、電圧印加することで振動する水晶振動子と、この振動を1秒間の周波数へと変換するIC、そしてアナログ式の場合は針を動かすステップモーターによって構成される。精度が確保しやすく、また大量生産に向く一方で、トルクが小さいため重い針を動かせず、付加機構を搭載させづらい。
機械式時計は巻き上げた主ゼンマイがほどける力を動力源とし、ヒゲゼンマイやテンプ、アンクル、ガンギ車といった機械的構造で調速を行う。トルクが大きく複雑機構の搭載にも向くが、クォーツ式とは振動数の差が大きく、精度の追求には限界がある。

そしてスプリングドライブは、このクォーツ式時計と機械式時計を兼備したとも言える気候である。というのも、主ゼンマイを動力源としてICと水晶振動子で調速を行うため、大きなトルクと高精度を両立できるのだ。
スプリングドライブの動画
スプリングドライブのメリット
グランドセイコーのスプリングドライブは、単純に機械式とクォーツ式を組み合わせた機構ではない。高級腕時計にふさわしい機能と精度、信頼性を追求する、スプリングドライブを使うメリットを見ていこう。
スイープ運針の動きは機械式時計以上に滑らか
運針方式はムーブメントの調速機構によって異なる。機械式時計はテンプの往復運動に合わせて秒針が動くため、細かくビートを刻むような「ビート運針」を行う。対してクォーツ式時計ではIC制御のローターが正確に1秒刻みで回転運動を行うため、秒針が60ステップで1回転する「ステップ運針」を行う仕様だ。
スプリングドライブでは、ローターが一方向へ回転し続けており、IC制御によって水晶振動子の振動数とローターの回転速度を比較しながら、一定の回転速度を保っている。
この特別な調速機構により、往復運動に依存する音も刻みもなく、滑らかにダイアル上をすべる「スイープ運針」を実現したのだ。
月差±15秒の高精度
スプリングドライブは機械式時計と同じゼンマイ駆動でありながら、クォーツ式時計と同様、ICと水晶振動子による正確な調速を行う。
この独自機構によってスプリングドライブは、平均月差±15秒(日差±1秒相当)という高精度を実現しているのだ。
約8日間の連続駆動を誇るCal.9R01や、高精度に特別調整された自動巻きクロノグラフムーブメントCal.9R96などでは、さらに高精度な平均月差±10秒(日差±0.5秒相当)に達している。

機械式時計並みのトルク
高精度を求めてクォーツ式ムーブメントを採用すれば、モーター駆動によりトルクは小さくなる。重く太く長い針を動かすために機械式ムーブメントを採用すれば、トルクは大きいが精度は下がる。
だが、スプリングドライブでは機械式ムーブメントと同じく主ゼンマイを動力源とするため、グランドセイコーらしい堂々とした針を優雅に動かせるのだ。
音もなく滑らかで、さらに高精度という、機械式時計以上のクォリティを実現したのだ。
スプリングドライブのデメリット
スプリングドライブの特徴に起因する注意点についても見ていこう。
他のムーブメントよりも選択肢が少ない
セイコー独自機構ということもあり、スプリングドライブはクォーツ式や機械式時計に比べると、搭載モデル数が限定的であることが挙げられる。
これはグランドセイコーのラインナップにも言えることだ。現状ではクォーツ式、機械式に比べるとスプリングドライブ式モデルの数はやや少なく、またその中には稀少なモデルも存在している。もっとも、今後、世界市場に向けた主力製品として、ラインナップの拡充が期待できるだろう
平均価格が高い
グランドセイコーの価格帯は30万~100万円台であり、クォーツ式のエントリーモデルであれば20万円台から手に入る。
しかしスプリングドライブの価格帯は60万円台から。100万円以上のモデルも多く、プラチナケースの特別仕様モデルRef.SBGZ003に至っては770万円(税込)である。
スプリングドライブの部品数は200以上、クロノグラフムーブメントでは400以上にもなる。やや価格は高くなるものの、この品質や生産コストが稀少性を生んでいるとも言える。

スプリングドライブの誕生20周年を記念して、2019年に発売された「SBGZ003」。手巻きスプリングドライブ(Cal.9R02)。39石。パワーリザーブ約84時間。Ptケース(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。日常生活用防水。808万5000円(税込み)。
メーカーでの正規修理が基本
腕時計を末長く使うためには、定期的なオーバーホールが欠かせない。また、故障が発生した場合には当然、修理も必要となる。
クォーツ式や機械式時計の場合には、時計修理専門店に依頼するという発想もあるが、スプリングドライブ搭載モデルの場合には正規サービスへの依頼が基本である。
スプリングドライブはセイコー、グランドセイコー、そしてクレドールだけが採用する機構であるため、メーカー以外では修理のノウハウもなければ部品もそろわないと考えておこう。
スプリングドライブを搭載したおすすめウォッチはこれ! 最新モデルから人気モデルまで紹介
グランドセイコーはビジネスパーソン向けのデザインを基調としてきたが、世界進出を加速させる中で、スプリングドライブを軸として新しいデザインや機構に挑戦する姿勢を見せている。
ビジネスシーンと相性がよく、優れたデザインと機能を備えた5モデルを紹介しよう。
2025年にリリースされた超高精度スプリングドライブRef.SLGB005、「U.F.A.」

スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。エバーブリリアントスチールケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。世界限定1300本(うち国内700本)。146万3000円(税込み)。
2025年、年差±20秒という超高精度と、直径30mm、厚さ5.02mmの小径薄型スプリングドライブ式ムーブメントとして登場したCal.9RB2。このムーブメントを載せた「エボリューション9 コレクション」に追加されたのが、「信州地方の樹氷の森が静かに目覚める夜明けの神秘的な情景」を文字盤で表現したRef.SLGB005だ。
グランドセイコーが得意とする繊細な型打ち模様が施された文字盤は、静けさの中にもしっかりと存在感を放つバイオレットカラーが与えられており、独創的な雰囲気となっている。
ケースとブレスレットの素材は、高性能なエバーブリリアントスチール製。“スーパーステンレススティール”などとも称されているこの素材は優れた耐食性を有するため、その美観を末長く楽しむことができるのだ。
次世代スプリングドライブを搭載したRef.SLGA009、通称“白樺”

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA2)。38石。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。127万6000円(税込み)。
グランドセイコーから2020年に、スプリングドライブムーブメントの最新世代となるCal.9RA5が誕生した。薄型設計と約120時間のロングパワーリザーブを獲得したこのムーブメントの、パワーリザーブインジケーターを裏蓋側に配したCal.9RA2が続く22年に発表された。本作は、そのCal.9RA2とともに初めて打ち出されたモデルである。
1967年に「44GS」で確立したセイコーデザインを継承しながら、「光と陰の間」に美を見出す日本の感性を取り込み、さらに本質的な視認性や装着性をいっそう進化させることを目指したという、新たなデザイン文法を取り入れた「エボリューション 9 コレクション」。薄型設計で、かつ重心を低く抑えたケースによって、装着感は快適だ。
また、信州 時の匠工房の近隣に群生する白樺林から着想を得たダイアル意匠も特徴的である。雪が積もった白樺林の情景を、繊細な型打ち模様で表現したダイアルに、ブルーの秒針が浮かび上がる。
機構においても、外装においても、グランドセイコーのウォッチメイキングの“粋”を感じられる1本であろう。
純白のダイアルが美しいRef.SBGA211、通称“雪白”

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径41mm、厚さ12.5mm)。日常生活用強化防水(10気圧)。90万2000円(税込み)。
ヘリテージコレクションの「SBGA211」は、風紋の刻まれた雪をモチーフとした“雪白(ゆきしろ)ダイアル”が特徴的な、軽やかさとエレガンスを兼ね備えたモデルだ。スプリングドライブ発祥の地にそびえる穂高連峰の積雪からインスパイアされた雪白は、スノーフレークとも呼ばれ、海外でも人気が高い。
ケースはステンレススティールより約30%軽いブライトチタン製で、重さはわずかに100g。ケース径も41mmというほどよいサイズ感で装着感に優れる。
パワーリザーブは最大約72時間で、金曜の夜に外しても月曜の朝には問題なく駆動する実用性を備えている。
諏訪の御神渡りをイメージしたRef.SBGY007

手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。平均月差±15秒(日差±1秒相当)。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。115万5000円(税込み)。
信州 時の匠工房が位置する長野県塩尻の諏訪湖で、真冬に全面結氷した際に起きる自然現象“御神渡り(おみわたり)”をダイアルに落とし込んだ、スプリングドライブ搭載モデル。
繊細なダイアルパターンに加えて、主ゼンマイを手首の動きによって巻き上げるローターを持たない手巻き式であるため、10.2mmという薄型ケースが備わることで、本作の上品なスタイルが強調される。
GMT機能を搭載したRef.SBGE283

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.9mm)。10気圧。117万7000円(税込み)。
2020年、エボリューション9 コレクションから、本格スポーツウオッチが登場した。その中で、GMTを搭載したスプリングドライブのモデルのうちのひとつが本作である。
エボリューション9 コレクションらしい、稜線が際立つ上質なケースはリュウズガードを備えており、スポーティーなテイストを打ち出している。また、24時間表示がベゼルに直接印字されることで、ツールウォッチらしい印象も備えた。
ケース径は41mmとほどよく、最大約72時間のパワーリザーブも備わっているので、平日のメイン機種としても活躍するだろう。
https://www.webchronos.net/features/51577/
マリンスポーツでも使えるRef.SLGA015

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。ブライトチタンケース(直径43.8mm、厚さ13.8mm)。200m防水。168万3000円(税込み)。
次世代スプリングドライブCal.9RA5を搭載しつつ、200m防水と潜水仕様の回転ベゼルを備えた、本格的なダイバーズウォッチモデルのSLGA015。ケース径は43.8mmと大きめだが、ブライトチタンの採用により150gと、スポーツウォッチとしては決して行きすぎていない重量を実現しており、また、耐傷性、耐食性にも優れる。
ダイアルパターンは、「黒潮」をはじめ、日本周辺に流れる、力強い海流を繊細な仕上げによって表現した。
針やインデックス、ベゼルはルミブライトの蓄光塗料が施されており、夜間や暗所での視認性も良好だ。
パワーリザーブは約120時間、月差±10秒の優れた精度、そして200m防水というスペックは、着用シーンを限定せず多目的に活用できるに違いない。
クォーツ式と機械式のハイブリッドを楽しもう
グランドセイコーが紡ぐマニュファクチュールの物語は、時計産業に大きな影響を与えてきた。21世紀の今、スプリングドライブでさらなる高みを目指している。
グランドセイコーのスプリングドライブ搭載モデルを身に着けて、ムーブメントの革新性と利便性を体験しよう。



