『クロノス日本版』の精鋭(?)エディターたちが、話題の時計を使い倒して論評する連載企画。その“番外編”となるこのコーナーでは、本誌2017年11月号の第1特集『現行傑作機 徹底インプレッション』に登場した選ばれし7本を、テスターを交代しながらクロスレビュー。本誌では広田ハカセ編集長が担当したリシャール・ミルを、すずき2号が好き勝手に“裏インプレッション”してみましょう!
Text by Hiroyuki Suzuki
別格なオーラ漂うリシャール・ミル
いつかは腕にしてみたい時計の筆頭に挙げられるリシャール・ミル。いきなりの私事で恐縮だが、幻冬舎刊のRM本第3弾『リシャール・ミルが凄すぎる理由 62』(大先輩のジャーナリスト・川上康介さんとの共著)(Amazon)を書かせていただいた経緯もあって、近頃は実機を手に取る機会も多かったのだけど、さすがに着用テストというのは人生初体験。実際にリシャール・ミルを街に連れ出した第一印象は、いや〜、もうビビリまくりですよ。たとえパテック フィリップを身に着けていても、こんなに緊張しないんじゃないかってくらい。それほどリシャール・ミルって別格なオーラが漂ってくるんだよな。
どのあたりが別格かというと、まず圧倒的に軽いこと。これだけで、普通の時計じゃないって身体が反応してしまう。重量感で一番近いのは、フロッグマンあたりのゴツめのG-SHOCK。ただし、腕にすっと馴染んでくる装着感の素晴らしさは、見ているだけでは分からなかったポイントだ。実際に着用テストを実施したのはまだ暑い盛りだったが、ラバーストラップに設けられたフィン状のフラップによって、汗で張り付くような感覚もない。少し柔らかめのラバー素材は丹念にパーティングラインが処理されており、高級時計に相応しい品格を見せてくれる。というか、このストラップってどうやって抜いたんだろう?(=金型の分割ってどうなっているんだろう?)と思わせる、複雑な形状にも改めて感心させられる。
もうね、リシャール・ミルに使われるチタン製のスプラインネジが、1kgで約220万スイスフラン(2億6000万円くらい)って聞いても驚かないくらいの不感症にはなったけど、ラバーストラップの良さには気付かなかったなぁ……。身に着けることで次々に発見がある時計ってホントなんだね。
もうひとつ、使い勝手を高めているポイントがローター音の少なさ。ヴォーシェベースの自動巻きに、慣性可変ローターを搭載したお馴染みの構成だが、思ったよりもベアリング音が小さい。圧倒的な軽さと合わせて、腕にしていることを忘れさせてくれるくらい快適だ。このヴォーシェベース機はファンクションセレクターを持たないベーシックキャリバーのため、通常と同じリュウズポジションで操作できるので使いやすい。本誌でインプレを担当した広田ハカセは“若干の分針飛び”を指摘していたけど、筆者が着用していた間には一切針飛びは発生しなかった。反面、筆者が気になったのはリュウズ操作の軽さ。リシャール・ミルのリュウズはデザイン上の大きなポイントでもあるため強く指摘はしないが、やはりリュウズが大きめのため操作感自体は軽めの印象になる。もちろんムーブメントに与える影響を考慮して、過大なトルクはかからないようになっているが、個人的にはもう少し手応えがあったほうが好みだ。
日本限定モデル“ジャパン・ブルー”
日本限定モデルの“ジャパン・ブルー”の外装はレギュラーモデルとは異なり、ベゼルとバックケースにカーボンTPT®がおごられている。通常のカーボンと比べても耐スクラッチ性能が約200%アップという素材であり、広田ハカセはピックアップの際に「ドライバーで引っ掻いてもいいよ」とお墨付きをもらったそうだが、さすがに筆者もそこまでは試さなかった。もっとも、この素材特性のおかげであまり神経質にならずに使えたことも事実。耐スクラッチ性能の高さには、いつまでも時計がキレイなままで使えるという絶対的な利点がある。
実際にリシャール・ミルを使って実感したことは、(ファーストインプレッションに反して)意外なほどに“普通の時計”であったこと。実用時計としての性能を何ひとつ犠牲にすることなく、リシャール・ミルでしかありえない個性を体現している点は特筆だ。ズバ抜けた個性と引き替えに、実用性や装着感を犠牲にする時計があまりにも多い中で、これは実際に着用しなければ分からなかった美点のひとつである。これほど“肌に馴染む”のならば普段使い用として1本欲しいけど、それってやっぱり贅沢すぎる夢だよなぁ。
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