リシャール・ミル 2018超速報

2018.02.09

 とどまるところを知らない快進撃を見せるリシャール・ミルから、SIHH発表モデルの先行情報が飛び込んできた。今年のハイライトはケーブルサスペンションシステムを進化させた、2代目パブロ・マクドナウモデル。ポロ競技中に予想される“あらゆるアクシデント”に対応する、新たなる甲冑である。

鈴木裕之:取材・文
Text by Hiroyuki Suzuki

進化を遂げたフローティング・トゥールビヨン

 耐衝撃性を追い求めたリシャール・ミルの作品は、過去にもいくつか例がある。これを書いている2018年1月初旬の段階で、最高峰は1万Gsの耐衝撃性を持つ「RM 27-03 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」。ただしプロテニスプレイヤーであるナダルモデルが、特に軽量化を課題のひとつとしてきた背景には、時計が受ける衝撃がラケットを通した“間接的”なものであるからだ。これは初代ナダルモデルの「RM 027」が、サファイアクリスタル製の風防を廃して、軽量なグリルアミド樹脂を用いたことからも理解できる。対してポロプレイヤーが使う時計が受ける衝撃は、もっと直接的なものも含まれる。もちろんマレットを通して伝わる衝撃も極めて大きなものだが、競技中の接触など、時計が直接叩きつけられるような衝撃にも耐えなければならない。

 2012年に最初のパブロ・マクドナウモデルとして登場した「RM 053」は、実に分かりやすい解決法を示した。風防の面積を極力小さくして、輪列部分を30度傾けたトゥールビヨンムーブメントを搭載。さらにケース全体をチタンとチタンカーバイド製の装甲で覆ったのである。おそらく歴代モデルで最も特異なスタイリングを持つ、“リシャール・ミルの鉄仮面”だ。
 SIHHでベールを脱いだ2代目パブロ・マクドナウモデル「RM 53-01」では、ポロ競技で生じるあらゆる衝撃に耐える他に、ひとつの命題が加えられた。すなわち“ムーブメントが見えること”である。厚さ16.15mmもの分厚いカーボンTPTʀ製ケースに搭載されるトゥールビヨンムーブメントは2枚の地板を持ち、独自のケーブルサスペンションを介してフローティングマウントされる。ケースに加わった衝撃を直接ムーブメントに伝えないこのシステムにより、RM 53-01は5000Gsの耐衝撃性を実現している。
 さらにRM 53-01には、もうひとつ安全装置が追加されている。ステットラーと共同開発したサファイアクリスタルのラミネート加工である。ポリビニール製の薄膜を、2枚のカーブドサファイアクリスタルで挟み込んだ特殊構造は、もし風防が割れるような衝撃を受けた場合でも、粉々に飛び散ってムーブメントやプレイヤーを傷つけるようなことはなく、クルマのフロントガラス同様にヒビが入るのみ。さらにUVカットと無反射コーティングが施され、使い勝手にも配慮されている。

PABLO MAC DONOUGH RM 53-01 TOURBILLON

RM 53-01 トゥールビヨンパブロ・マクドナウ
 2枚に分割された地板を、ケーブルサスペンション機構を介して固定することで、5000Gsの耐衝撃性を実現。ケース自体も相当なボリュームを持ち、かつ微小なヒビや断裂に対する耐性も備える。ラミネート加工が施されたサファイアクリスタル風防は、中央部で2.4mm、両端部では5.69mmという厚さを誇る。手巻き(Cal.RM53-01)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。カーボンTPT®(縦49.94×横44.5mm、厚さ16.15mm)。50m防水。世界限定30本。予価1億230万円。

 ケース自体に耐衝撃性を担保させた前作「RM 053」に対し、ムーブメントが耐衝撃構造の一部を担う「RM 53-01」では、非常にオーソドックスな輪列配置が採用可能となった。反面、プーリーの配置とワイヤーの取り回しはより複雑になっている。ダマスカス状の仕上がりが美しいカーボンTPT®ケースは、クラックや断裂に対する耐性も極めて高い。

Technical History of PABLO MAC DONOUGH

 2012年に発表された「RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」。通常のリシャール・ミルと同様のトノウケースを用いながら、通常はサファイアクリスタルが嵌め込まれるダイアル開口部をチタンカーバイド製のプロテクターで覆った。実際のダイアル面積を極力小さくしつつ、視認性を確保するため、表示を30度傾けたトゥールビヨンムーブメントが新規開発されている。つまりRM 053の開発は、先にプロテクション効果を高めたケースの設計があって、そこに合致するように傾斜輪列のムーブメントを開発するという経緯を取っていた。
 手巻き(Cal.RM053)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti×チタンカーバイド(縦50.0×横47.2mm、厚さ20.0mm)。世界限定15本。当時価格5430万円(生産終了/完売)。

2018 NEW MOVEMENT Cal.RM53-01

 一方、ムーブメント自体に耐衝撃構造を組み込んだ「RM 53-01」では、輪列設計自体は極めてオーソドックスな手法を採っている。ただしグレード5チタン製の地板を、輪列を支える中央部と、ケースに固定するための外周部に分割し、両者を独自のケーブルサスペンションシステムで繋ぐ。中央部の地板を吊すための、“RZ1”と呼ばれる直径0.27mmのスティールワイヤー2本は、4カ所の張力装置で支えられる。ワイヤーのテンションは、張力装置に備えられたスプラインスクリューによって調整されるが、張り具合を均等化させるプーリーは10カ所に設けられており、ワイヤーの取り回しもより複雑になった。ムーブメントサイズは縦31.94×横30.26mm、厚さ6.35mm。

Technical History of CABLE SYSTEM

 ワイヤーを介してムーブメントをフローティングマウントさせる手法は、2013年の「RM 27-01 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」(写真右)が初出。当初はケースの四隅にワイヤーを取り回し、張力装置に繋いだシンプルな構造だったが、翌14年に登場した「RM 56-02 トゥールビヨン サファイア」(写真左)では、プーリーの数が増やされ、ワイヤーの取り回しもやや複雑になる。最新のRM 53-01では、プーリーがひとつ増やされたのみだが、配置を立体的に改めた結果として、ワイヤー自体が重要なデザイン要素の一部にまで昇華されている。

2018 NEW MODEL for Ladies

RM 07-01 ブラックセラミックスジェムセット

 ミトレラージュ(機銃掃射)と呼ばれる手法でセラミックケースに穴を開け、ゴールド製の爪を埋め込むことで、初のダイヤモンドセッティングを実現。
自動巻き(Cal.CRMA2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。ブラックセラミックス×18KRG(縦45.66×横31.40mm)。50m防水。予価2310万円。

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