激レアな腕時計を手に入れたいのならば、「個人間取引」を試してみよう

2025.02.07

もし、どうしても欲しい腕時計が数個しか製造されなかった極めて珍しい腕時計だったとしたら? オークションの出品情報をつぶさにチェックする、というのもひとつの方法だ。だが望みの腕時計を見つけ出すまでには長い時間を必要とし、強い忍耐力が求められるはずだ。コレクター同士の「個人間取引」ならば、それよりも早く手に入れるチャンスが訪れるかもしれない。ボナムズ香港はそのサポートを行なっており、同社で時計部門のディレクターを務めるシャロン・チャンが、腕時計の個人間取引の今を取り上げる。

シャロン・チャン(ボナムズ香港):文
Text by Sharon Chan(Bonhams Hong Kong)
[2025年2月7日掲載記事]

熱望するモデルが手に入る!? 個人間取引の勧め

 腕時計の二次流通市場の構造は大きく変化しており、コレクターが望みのモデルを手に入れる方法は、以前に比べると格段に多様化している。新型コロナウイルス感染症は、オークションハウスのオンラインでの取引を加速度的に促しただけでなく、「個人間取引」の人気も高めた。個人間取引が増大した背景にはネットワーク技術の進歩がある。そのおかげで、柔軟かつ効率的に、そしてプライバシーを気にすることなく、腕時計を取引できるようになったのだ。

個人間取引のメリット

 オークションと個人間取引を比較してみよう。まずはプライバシーの観点から。個人間取引はプライベートな個人対個人の間で交渉が行われるため、高いプライバシーを必要とするコレクターに適している。次はスケジュール。オークションハウスで行われるオークションは、決まったスケジュールに沿って開催されるが、個人間取引はそれを待たなくとも、必要な時にはすぐに取引を開始することができる。

 最も重要な点は、効率的かつ迅速に取引を行うことができるということにある。買い手と売り手の双方が、価格と条件にさえ同意すれば、それで取引は成立だ。買い手は欲しかった腕時計がオークションに出品されるのを、首を長くして待つ必要はない。それは売り手も同様だ。高いプライバシー、柔軟なスケジュール、そして効率的な取引は、腕時計コレクターのコミュニティーで高く評価されている。

レアな腕時計で個人間取引をアピール

シックス・パシフィック・プレイスに移転したボナムズのアジア太平洋本社。時計展示エリアには、陳列用キャビネットが多数並べられている。

 2024年11月、香港のビジネス街であるアドミラルティ地区のシックス・パシフィック・プレイスにボナムズのアジア太平洋本社が移転・グランドオープン。それを機に、時計展示エリアに、新たな陳列キャビネットが設置された。

ゆったりとした空間に並べられた多数の時計展示用のキャビネット。

 私、シャロン・チャンは、個人間取引をより多くの人に知ってもらうために、2000万香港ドル(約3億8940万円、1香港ドル=19.47円、2025年2月7日現在)以上の価値を持つ腕時計を何本か選び抜き、このキャビネットに飾った。そこには以前から多くの人の注目を集める、リシャール・ミルの「RM 52-06 トゥールビヨン マスク」も含まれていた。

ボナムズでの展示品が起点となり仲介に成功

 この腕時計は非常に稀少であるため、グランドオープンの内覧会中には、高い注目を集めた。多くの顧客は、ボナムズが個人間取引のサポートを行っていることを知らなかったのである。展示が呼び水となり、数名のコレクターが所望する腕時計を探し出せたのだ。そのうちのひとつは、リシャール・ミルの「RM 07-02 オートマティック サファイア」の、ブルーのサファイアを使用したモデルだ。

 本作のケースの素材には、非常に硬いサファイアクリスタルが用いられている。リシャール・ミルの腕時計のほとんどは、トノー型ケースを採用している。この形状にサファイアクリスタルを加工するのには、高度な技術を要する。そのためこの腕時計は稀少であり、未着用の新品の状態のものなら、なおさら珍しい。

リシャール・ミル「RM 07-02 オートマティック サファイア」
「RM 07-02 オートマティック サファイア」のブルーサファイアクリスタルを採用したモデルは、2019年に発表された。2024年には新たなバリエーションモデルが発表されている。自動巻き(Cal.CRMA5)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。サファイアクリスタルケース(縦46.75×横32.9mm)。30m防水。世界限定7本。約2000万香港ドル(約3億8940万円)にて取引。

 もうひとつはパテック フィリップの「グランドマスター・チャイム 6300」である。ミニッツ・リピーターや永久カレンダー、デイトリピーターなどの20もの機能を組み合わせた、現在のパテック フィリップの腕時計の中でも有数の複雑な腕時計であり、これもまた非常に稀少だ。RM 07-02 オートマティック サファイアは約2000万香港ドル(約3億8940万円)、グランドマスター・チャイム 6300は約4000万香港ドル(約7億7880万円)で取引された。

パテック フィリップ「グランドマスター・チャイム 6300」
手巻き(Cal.300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM)。108石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径47.4mm)。約4000万香港ドル(約7億7880万円)にて取引。

オークションと個人間取引の使い分け

 個人間取引とオークションには、それぞれ一長一短がある。では、コレクターは、このふたつのどこに注目して選べばよいのだろうか? もし比較的流通している腕時計が欲しい場合には、オークションを利用することを勧める。その理由は、手に入れたいモデルを魅力的な価格で入手できる可能性があるからだ。

 しかしながら、希望の腕時計をどうしても早く手に入れたい場合や、滅多に流通することのない稀少なモデルの場合には、個人間取引を仲介するボナムズのサービスを利用することで、その希望が叶えられる可能性は高くなる。

個人間取引でもボナムズには強みがある

 長年にわたって数多くの腕時計を扱ってきたボナムズは、世界中の何百もの専門家や顧客と密接なつながりを持つ。それ故に、ボナムズ内外のネットワークを駆使して、顧客が求める腕時計を世界中から探し出すことが可能だ。


著者「シャロン・チャン」プロフィール

 シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。

シャロン・チャン

シャロン・チャン/ボナムズ香港 時計部門ディレクター
シャロン・チャンは、ボナムズに入社し、オークションビジネスに復帰する前の2017年から18年の間に、個人でウォッチディーラーとクライアントコンサルタントを行い、専門家としてのキャリアを築いた。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの間に強力なコネクションを持ち、アジアにおける腕時計市場拡大において重要な役割を担っている。

 これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から16年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々拡大し、13年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、15年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。


スモールメゾンの複雑時計は不況に強い!? 二次市場で安定した価格を維持する腕時計とは

FEATURES

パテック フィリップ、ふたつの頂点が交わる エクスクルーシブモデル

FEATURES

透明な時間を刻む、サファイアクリスタルの腕時計

FEATURES